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7-1

 第三王子の俺は、王から魔法使いの塔に行けと言われた。


 魔法使いの塔ってなんだ?


◆◇◆


 ここは、アストリア王国の首都レグナス。


 魔法が盛んな国として知られていた。


「三百年ほど前に、魔力を持たない天才魔道士が国中を回って弟子たちを育て、この国を発展させた事は知ってるな」


「カルエル……だっけ?」


「カルエル様だ。そのカルエル様が魔力を失うまで住んでいたのか、お前の行く魔法使いの塔だ」


「その側にはアルセリアという町があり、カルエル様の一番弟子の血を引く魔法使いが住んでいる。その魔法使いは代々、平民たちに広く魔法を伝え、アストリア王国が魔法王国と呼ばれる基盤を支えているのだ」


「へぇ、それはすごい……けど、だから何? 俺と何の関係が?」


 魔法使いの塔に行けって、何しにだ?


「その基盤を、より強固にする為に、アルセリアに魔法の学校を作る大事業が始まるのだ。そして、その事業の責任者にお前を任命する、第三王子アルヴィン・アストリア」


「……え? 一回行って帰ってきていいんじゃないの!?」


「戻ってくるな!」


 王が俺にキッパリと言った。


「ええっ!? そんな……!?」


◆◇◆


「あはは、そりゃしょうがないな! 近くの町に左遷ぐらいで済んで良かっただろう、アルヴィン」


「……近くって王都のレグナスまで馬を走らせても三時間はかかるぞ!」


 親友の公爵子息のエドガー・フォン・アルクライトが慰めてくれる。

 俺たちは、貴族も来る王都の酒場にいた。


 まあ、二人の兄たちの婚約者に手を出して、三回づつ婚約破棄させた挙句に、相手の女性たちには遊びだったって言ってすぐに別れてるからなぁ。


「よく生きてるよな、お前は」


「よく言われるけど、やっぱりこの魔力のおかげかな。カルエルが魔力を失う前は、俺ぐらい純度の高い整った魔力をしてたって話じゃん?」


「絶対にカルエル様は、お前みたいな性格じゃなかったとは思うけどな」


「そんな訳ないだろう! 国中を転々として魔法を教えてたなんて、本当は女の子を追いかけてたに違いない! そこら中に子孫がいるに決まってる!」


「……いや、子孫を名乗ってる奴は多いけどな。……噂だと、カルエル様が魔力を失ったのは、死んだ恋人を生き返らせる為に禁術に手を出したかららしいし、子孫がいるなんて絶対にある訳ないっ!」


 エドガーに酔いが回ったらしい。


「でた! このカルエル信者が!」


「信者で何が悪いんだ! この国の基盤を作ったお方だぞ!」


「だから悪いんだろう!」


 俺がどんなにすごい魔法を頑張って成功させても、「わあ、すごいわ、さすが、カルエル様と同じ魔力!」って、全部、カルエルの手柄になる!


 何やっても自分自身を認めてもらえないから、兄たちの婚約者に手を出して手っ取り早く自分の方がすごいって認められたくなる。


 まあ、それで満たされる事も無かったし、バカだったとは思うが。


「魔法使いの塔か……カルエルの恥ずかしい日記とか残ってないかな、世間に発表して、信者どもの幻想を打ち砕いてやるのに」


「そんなものあるわけないだろう……きっと物凄い遺産が眠ってるはずなんだ」


「ん? 眠ってるって、三百年も前の話だろう? もう、とっくに盗まれてるだろう」


 エドガーがガクッと崩れ落ちる。

 酔うとノリが良くなるな。


「ほんっとに何も知らないんだな、カルエル様の事! 魔法使いの塔はカルエル様が旅立たれる時に封印されて「開けた者の好きにしていい」と言われたのに、そのまま誰も開けることが出来てないんだ」


「ん? おかしいだろう? 魔力ないんだから封印だって出来ないはずだろ」


「それは……あれだ……魔法薬とか作り置きがあったんだろう」


「なんか、都合がいい伝説だな」


「まあ、アルヴィン、きっとお前の魔力なら開けられるんじゃないかなぁ。王様もそれを期待してお前を責任者にしたんだろう」


「ん? 待て待て、俺しか開けられないんだろう? だったら、俺しか責任者になれないって事だろう!? 塔は修繕して残す計画なのに、入れなきゃ修繕だって出来ないんだ! それを左遷だ! 頭下げて頼むのはあっちだろう!?」


「あ、アルヴィンも酔ってきたか」


 クソッ! 本当に開けられてないなら絶対に見られちゃ恥ずかしモノを隠してるだろ、カルエル!


 公表して、お前の偉人伝説を終わらせてやる!?




 俺は魔法使いの塔の前にいた。


 空は夕日に染まっている。


 昨日、エドガーと飲んでから記憶がないが、気づいたらここにいた。


 正確には、アルセリアの町にすでに、魔法学校建設の為の責任者の住む館が出来ていて、その中の一室にいたのだ。


 他にも既にこの事業に携わる人たちが集められていて、二日酔いで部屋の外に出たら気まずかった。


 夕方になって気分も落ち着いたから外に出てきたんだが……アルセリアは小さな町だった。


 かつては宿屋もない村だったらしいが、魔法で有名になっただけで、規模はそれほど変わっていないんじゃないか?


 退屈な村だ。


 ただ何処か懐かしい——。


 小さな町で行く当てもなく歩いていると、塔が見えた。


 偉大な魔道士のカルエルが魔力を失うまで暮らしていた場所。


 ……だから、塔までの道が固められて、自然と人が引き寄せられるようになっているんだ。


 暖かい気持ちが溢れて、懐かしい気分になる。


 ずっと、カルエルと比較されていたから、そんな錯覚が起きているだけ。


 俺は塔の入り口の扉に手をかける。


 魔法の封印に鍵はない。


 だから、そのまま、何のためらいもな扉は開かれた——。


 三百年開かれなかった部屋の中は、カビと埃が舞っていた。


 一階には食堂があって、台所がある。


 何故、その隅に寝ている男の姿が脳裏に浮かんだ……悲しい日々の記憶。


 俺は、この塔にカルエルの恥ずかしい何かの記録があると思っていたが、そんなモノはない。


 ただ、痛々しく悲しい空っぽの男が住んでいただけだ……。


 帰ろうと思った。


 ここにいても辛くなるだけだ。



 ——ただ、階段があった。


 塔の上に続く階段が……。


 登ってはいけないと、胸の奥で警告がする。


 登ってしまった後では、もう元には戻れない。


 もう、俺の目からは涙が溢れているのだから、すでに後戻りは出来なかった。


 何故、自分でも、泣いているのかわからないまま、その扉を開ける。


『……カルエル……』


 妖精のような少女の幻が、その部屋には閉じ込められていた。


 別の場所の空気が混じると、スッと消えた。


 ——ルナリア……っ!


 僕は、全てを思い出した。


 魔法使いの塔で、僕と——カルエルと、一緒に過ごした女の子——。


 僕の魔力を奪う為だけに作られた女の子——。


 たった、三年間だけど、一緒に過ごした時間は僕にとって永遠だった——。


 ここは、ルナリア——彼女の部屋だ。



 ——僕が、自分の部屋で遅くまで魔法の研究をしている時に、僕に部屋で抱き合った後に、ルナリアはここで一人で眠っていたんだ。


 今は窓から夕陽の綺麗な赤が差し込んでくるけど、夜の月明かりの中で、ルナリアは星を見上げていた。


 僕も時々、一緒に寝転がって星を見上げた。


 夜空よりも、星を見上げているルナリアの方が綺麗だと思った。


 でも、部屋を出る時には、早くルナリアと一晩中——朝まで、星を見ていたいと思ったんだ。


 その願いは、叶うはずだった——。



 俺は、泣いている。


 過去の記憶が、昨日の出来事のように鮮明に甦って来る。


 ルナリアがそこにいて、笑いかけてくる。


 ただただ美しい光景なのに、何処か靄のかかったように不自然に色あせている。


 ……泣いているだけーじゃダメだ……ルナリアは、まだ生きてる……。



 俺は、隣の部屋に移る。


 ——ここは、俺の——僕の部屋だった——っ!


 ルナリアと溶け合った夜に、ルナリアが消えた場所だ——っ!


 胸がまた押しつぶされる。


 あの時の、後悔と悲しみ、怒りがまた襲って来る——。


「うわああうぐああぁぁぁ!」


 どうして、ルナリアは——!


 涙と一緒に叫び続けて、どれくらい時間が経ったのか。


 外は暗くなっていた。


 僕は、魔法の灯りを付ける。


 何年振りだろう——カルエルとして、魔法を使うのは。


 机の上は、ルナリアを失った日から何も変わっていない。


 魔力を失った僕は、机の上がルナリアを救う聖域に見えていた。


 僕が触れてはいけない場所。


 魔力があれば、必ずルナリアを救い出せたんだ——。


 俺は、その巻物を手にする。


 ルナリアを失う直前に完成した、カルエルの魔法だ。


 魔力を失ったカルエルには使えなかったが……俺なら!


 カルエルとしての最期の時、目の前でまた少女は殺された——


 弱い僕にせいで、何度も何度も彼女は殺されている。


 今の僕は、何故彼女が死ななければいけなかったのか知っている。


 ——だから!


 僕は、必ず目の前で殺された彼女を救うと決めた——!


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