6-1
私は思い出した。
前世の記憶を。
千年の歴史——。
私はルカスの人形だった。
千年を生きる魔法使いのルカスが、まだ若くニ百年しか生きていなかった頃に作られた。
ルカスは、女の魔法使いの魔力を吸い上げて、自分の魔力にする魔法使いだった。
優秀な魔法使いの恋人になって、身体を重ねる事で魔力を奪う方法をルカスは持っていた。
愛なんてカケラもない。
でも、ルカスが魔力を奪えるのは女のみ。
とても強い魔力を持った魔法使いの男に出会ったルカスは、魔力を奪おうとして負けた。
男はそれだけ強かった。
女の魔力を大量に集めて、やっと生まれ変わった男に勝っても、魔力を奪う事は出来なかった。
何度、生まれ変わった男に出会っても。
だから、男から魔力を奪う為に作ったのが私だった。
ルカスの魂の一部から出来ている私は、優秀な男の魔法使いの恋人になる。
身体を重ねて奪った魔力をルカスと身体をつなげる事——キスで渡す。
優秀な魔力を持つ男ほど警戒心が強いから、本物の恋人にならなければ魔力は奪えない。
私は、輪廻転生してその度に本当の恋人として生きる。
幸せの絶頂で、ルカスに奪われ男の魔力を吸い取ると、私は次の魔力を求める為に殺される。
誤算があったのは、エルヴィンの魔力が多すぎて一度では奪えなかった事。
ルカスは、私をエルヴィンの元に再び戻そうとする。
でも、思い出した私は、自分の喉を掻っ切って死んだ。
ルカスがいなければ、幸せな恋人でいられたのに。
でも、エルヴィンに迷惑をかけたくなくて……。
魔力を奪われたカルエルが大変だった事を、思い出したから——。
◆◇◆
俺とマリアナは魔法使いの塔——大賢者の塔に変わってる——の中に入った。
まるで時が止まったように誰かの住んでいた後があった。
マリアナも泣いて、俺も泣いていた。
俺たちは、この塔で一緒に暮らした、カルエルとルナリアだった。
「……ルナリア……」
僕は、マリアナをルナリアと呼んだ。
「……カルエル……ごめんなさい……」
マリアナも僕をカルエルと呼ぶ。
八百年の時間が巻き戻る。
「……僕は、ルナリアに会えただけでいいんだ……なんにも大変なことなんてなかったよ」
本当に、ルナリアに会うためならなんだって出来た——。
「……もうこれからは、ずっと一緒にいようね……」
僕は、エルヴィンとして、ルナリアはマリアナとして、もうずっと一緒にいられる——!
決して結ばれる事がなくても、十分だ……。
「……っ!」
「……どうしたの? マリアナ……?」
マリアナが首を思いっきり横に振っている。
「ダメだったの……アルヴィン先生は……だから、首を掻き切って……死んだの……」
ここにアルヴィンの死が絡むのか……。
「マリアナは言っただろう? アルヴィン先生には相手にされなかったって……」
俺が言うと、マリアナが俯く……。
「……でも、アルヴィン先生は、ずっと私を守ろうとしてくれたの……ずっと、最期まで——っ!」
分からない……マリアナの言ってる事が……俺のことなのに、思い出せない……。
何か手掛かりがないかと塔の中を見まわした。
ここはカルエルとルナリアが住んでいた場所だけど、アルヴィンも中に入った事がある——。
あ、そうだ、埃を被っていた塔の中にアルヴィンも入って行った。
今は、埃がなく綺麗だった。
アルヴィンが掃除された塔の中に、魔法をかけたんだ。
埃が溜まらず、時が緩やかに流れる魔法。
いつか——ミルファとこの場所に入れるように。
絶対的に叶う事はないと分かっていても、ここだけは守りたかった。
ルナリアの部屋だった場所に、靴が二足置いてあった。
女性ものだけど、ルナリアのものじゃない事は分かる。
左右で大きさが違う二足の靴……アルヴィンが置いたんだ——。
俺は、また思い出す。
アルヴィンだった時の事を——。




