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5-8

 僕は、新しい街に来ていた。


 セラ様の息子たちを数年、一人前の魔法使いになるまで教えて、別の街の魔法を学びたい高貴な人を紹介してもらった。


 セラ様の息子たちの時は期限を決めなかったから、一人前になるまで待ったが、僕の目的はあくまでルカスとルナリアを追うことだ。


 次は、いつでも街を移動できるように、一年の契約を結んだ。


 セラ様の家から支払われた資金は莫大なもので、細々と暮らせば17年は働かずに生きていけたが、初めての街で貴族とのつながりを持つことにはかなりのメリットがあった。


一年毎に街を変えて、ルカスとルナリアを探す日々。


 それから、ルナリアの生まれ変わりと同じ年頃の男の子の魔法使いのことも調べた。


 魔力の純度の高い男の子がいたら、狙われているのは彼かもしれない。


 ただし、前回の事件と近い街に住んでいたら候補から外れる可能性がある。


 魔力の純度の事はよく分からないけど、多分、ルカスに前世から二百年追いかけられてる僕ほどに魔力の純度が高い男はいないのだろう。


 だから、ある程度の魔力の純度なら場所を優先して妥協して狙いをつけているんだと思う。


 ルカスが今はどの辺りで狙いを定めているのかは、魔力の純度の高い女性の魔法使いが殺される事で分かるはずだ。


 ——出来れば、その前にルカスの居場所を突き止めて、犠牲者を減らしたいが……。




 ルナリアの生まれ代わり、リリィが消えて十年が経っていた。


 新しく赴いた街で嫌な話を聞いた。


 つい先日に、とある下級貴族の家に強盗が入り両親が殺されて、9歳になったばかりの女の子が行方不明になっているそうだ。


 それは、きっとルナリアの生まれ変わった子だ——!


 ルカスが見つけて連れ去ったんだ……魔力を奪う器として利用するために!


 ……ルナリアも両親から引き離されたような事を言っていた。


 僕が魔法使いの塔に住んでいたから、ルナリアを近くに連れてくる必要があったんだ。


 それに、ルナリアがはじまりだから、しばらく自分のそばで、ちゃんと僕から魔力を奪えるようにルカスが直接育てたんだと思う。


 ルナリアはルカスが怖いとも言っていたし。


 リリィは二回目で、生まれた場所の近くにちょうど魔力の純度の高い男がいたから、両親の元にそのままにしていたんだろう。


 そういうことなんじゃないのか?


 この場所から離れた位置に次のルカスの拠点があり、そこに次に狙われている男の子がいる。


 だからここから女の子を連れ去る必要があった。


 そして、次の一年はこの街とも離れた場所に行く。


 探す範囲が少しづつ狭まっていく、


 そうして更に五年が経って、近くの街で優秀な女魔法使いが殺された。


 その街に僕の拠点を移して、ルカスやルナリアの生まれ変わり、魔力の高い男の子を探した。


 魔力を持たない僕に純度の高い魔力を持つ男の子を探す事は出来なかったし、魔力の純度の判別自体が、かなり高度な技術だと言うことがこの頃の僕にもやっと分かって来ていた。


「カルエル先生は、何故そんなに魔力の純度の高い男の子の事を気にしているんですか?」


「あ、僕の研究の一つなんです。僕は魔力がなくなってしまったから……」


 なんとか誤魔化して、教え子の貴族の家を通じていくつか情報が入って来た。


 休日に魔力の高い男の子たちに——もう青年と言っていい歳をしていた——会いに行った。


 結局、あれから——リリィが亡くなってから——十七年が経っていた。


「あなたが、カルエル先生ですか!?」


 この十七年で僕は有名人になっていた。


 サラ様の息子たちをはじめ、教え子たちが活躍していたし、最初の弟子だった村長の息子の子供が村で平民に魔法を教え始めていて、師匠だった僕の名前が勝手に広まっていた。


 17年前——リリィを助ける為に魔法使いの青年の家の扉を叩いた時に、この名声があれば何か変わっていたのかもしれない。


 しかし、今、目の前にいる青年に、恋人の話をして、決しって結ばれてはいけないと言えば、僕に向けられた尊敬の目が、一瞬で不審者を見る目に変わるだろう。


 ……この魔法使いの青年たちとルナリアが恋をすることは止められないと思う。


 ただ、早くルナリアに会って、そこからルカスの居場所を突き止めて——ルカスを殺す。


 僕がこの手で、ルカスを殺す!


 それだけが、この不老不死の怪物からルナリアを救う方法だ——!



 そして、一人の青年の元に16歳になった少女が現れた——。


「カルエル先生、俺、彼女が出来たんです!」


 久しぶりに会った青年が紹介してくれた少女——リディア。


 彼女は僕を見て、驚いた後に微笑んだ。


『また、会えた』


 そう言っているような、蕩けそうな微笑み—。


 きっとまた無意識だったんだろう。


 すぐに、彼女は青年の顔を不安そうに見上げた。


 僕の胸はまたズキズキと痛んだけど、この彼女の幸せを守らなくちゃいけない!


「リディアさんは魔法が使えるんですね。どこで魔法を学んだんですか?」


 僕はリディアに聞いた。


「……叔父が魔法使いだったので、教えて貰ったんです」


 リディア——ルナリアが僕に答えた……!


 34年ぶりだ……あの日、眠ってしまったルナリア……話す事が出来なかったリリィ……。


 涙が溢れそうだった。


 でも、僕にはルカスの情報が必要だった。


 9歳で両親を亡くしたリディアは最近まで、街の近くの村で叔父と暮らしていたらしい。


 16歳になって、叔父の紹介で街に働きに来て魔法使いの青年に出会ったのだと言う。


 街の近くの村——。


 僕はすぐに向かった。


 かつて魔法使いの塔に住んでいた時に近くにあった村を思い出す暖かい雰囲気の村だった。


 ここに魔法使いの魔力を奪いルナリアを利用し尽くす男——ルカスがいる!


 すぐに殺せるとは思っていない。


 今は、居場所を確認するだけだ。


 そう思ったのに——僕はルカスに捕えられていた。



「久しぶりだな」


 僕は暗い部屋の中心の椅子に縛り付けられていた。


 目の前にはルカス。


 ずっと昔——3歳の僕を襲った男と同じだ。


 そして、奥には——!


「お前が僕を探しているのは17年前から知っていた。だから、ずっとこちらから見張っていたんだ」


「……!」


「魔力もないのによくここまで辿り着いたな。ご褒美に見せてやろう。僕が、お前の魔力をどうやって奪い取ったのか——!」


 ルカスが奥のベッドに近づく、そこにはシーツにくるまった裸のリディアがいた——。


 ——もう、あの青年とそんな仲だったのか。


「お前……今は、カルエルと言ったか? 前回の男も、今度の男も、お前程の魔力は持っていないが、せっかくお前にために作った男から魔力を奪う道具があるんだ、使わない手はないだろう?」


 道具……ルナリアが、道具……。


 僕は怒りで身体が震えるのが分かった。


 ルカスが、ルナリアを道具としてしか見ていないのは知っていたが、直接言われたら怒りが腹の底から湧いてくる。


 目の前にはリディアもいるんだ!


「ふ……」


 だが、僕の様子をルカスは鼻で笑う。


「僕の魂を切り取って、一番魔力の強い男を求める魔法をかけて、人間の生まれ変わりの輪に投げ込んだのがコレだ。この魔法を確立するまで大変だったが、出来てしまえばなんでも僕の思い通りになる道具だ。呼べばこうして、すぐに僕のところに戻って来る。コイツは僕の魂で僕自身なのだから」


「……お前の……魂……」


 ルナリアは、ルカスなのか——?


「そう、お前が愛したのは、僕なんだ——」


 ——違う!


「切り離されたなら、ルナリアは、ルナリアだ!」


 僕の叫びに、ベッドの上のリディアが目を覚ました。


「……カルエル……!」


 リディア——ルナリアが僕の名前を呼ぶ。


「……カルエル! 会いたかった……!」


 シーツを引きずって、ルナリアが僕の前に来る。


 シーツ握っていた手が開かれて、ルナリアの身体が僕の身体を包んだ。


 椅子に縛られた僕はルナリアを抱きしめる事は出来ない。


 ルナリアの唇が僕の唇に重なって、どちらの目からも溢れ出した暖かい水が、唇の上で混ざりあった。


「……ルナリア、僕を思い出してくれたのか——」


「ずっと、生まれ変わって記憶はなくてもカルエルを探してた。でも、強い魔力に触れると……魔力に引っ張られてしまって……。会えばあなたがカルエルだって思ったのに、身体が思う通りに動かなかった……」


「……ルナリア……! それが聞けただけでどんなに嬉しいか……!」


 僕とルナリアの再会を、黙ってルカスは見ていた。


 けど、ふと鼻で笑う。


「感動の再会は終わりだ」


 ルナリアの身体が僕から引き離されて、だらんと手の力が抜けた。


 ルカスが何かしたのか。


「さあ、僕にキスしろ、ルナリア」


 ルカスの命令にルナリアの身体が動く。


 正気のない目でルナリアがルカスにキスして……。


 長い長いキスの後、ルナリアの唇がルカスから離れる。


「こうやってお前みたいな間抜けな男たちから奪った魔力を僕が貰うんだ」


 ルカスが僕に説明する。


「っ!」


 同時にルカスの右手が魔法を使う形になる——かつて、ルナリアがウサギを仕留めていた、心臓を内側から破壊する魔法の矢——。


 パン


「やめろ!!」


 僕が叫ぶより早くルナリアの心臓が撃ち抜かれ、ルナリアが床に倒れた。


 ——っ!


「また次の男から魔力を奪ってもらう。ただ、今回みたいな男だとつまらないな。やっぱり僕は、君の魔力が欲しい」


 そう言って、ルカスが僕にも魔法を使う形をした手を向ける。


「次も、また、お前にルナリアをやろう——」


 パン



 ——僕は、こうして死んだ。


 でも、また、ルナリアに出会って恋して幸せだった。

 奪われるても、君を一度は手に入れられるから。


 その繰り返し——。


 僕は、ルナリアを助ける事は出来なかった——。


 弱くて、ごめん——。











 ——三百年後。


 俺は、魔法使いの塔の前で、前世を思い出す。


 そうか、俺は……僕は、カルエルだった。


 あれから、何度も出会った彼女……。


 ——っ!


 僕は、必ず目の前で殺された彼女を救うと決めた——!


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