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街に出てきた。
ルナリアが消えてから17年が経って、僕はもう40歳になっていた。
でも街に来るのは初めてだった。
話には聞いていたけど、大きい! 広い! 人が多い!!
ドンッ
「わっ!?」
人にぶつかって倒れそうになる。
振り返ると、ギロっと睨まれて……謝る暇もなかった。
他の人たちも変な目で僕を見てる。
「……」
僕は、当てもなくこんな都会に出てきたわけじゃない。
村長の息子——今では立派な村長に、魔法を教えて欲しいという子がいる街の人がいないか聞いていた。
ちょうど、大貴族の当主が子供たちの魔法の先生を探していて、『魔力を失った偉大な魔法使い』として売り込んでくれたらしい。
村の子供たちの間でなら『偉大な魔法使い』でも、冗談で済んだけど、大貴族様の前では恥ずかしい……。
そうでも言わなきゃ雇って貰えなかっただろうけど……。
ゴォォォ!
魔法の炎が僕を包む。
大貴族の屋敷について早々、僕は魔法で焼かれていた。
「今の魔法が何か分かったかしら?」
大貴族の女当主のセラ様が言う。
「えっと……炎は見せかけだけで熱くなかったので幻影魔法……でも、攻撃しようと狙ってる光魔法の矢が複数隠れていました……」
セラ様が僕に鋭い視線を向けた。
「……この魔法を見破るなんて……さすが『偉大な魔法使い』ね」
あ、村長の息子のハッタリが効いてる……!?
「あなたに魔法を教えて欲しいのは、私の息子たちなの。世界一の女魔法使いと言われて美しい魔力を持つ私の息子なのに、魔力が歪でまだちゃんと魔法が使えないのよ。
野蛮な村の子を、魔法薬を作れるように育てたあなたならきっと立派な魔法使いにしてくれるわね」
美しい魔力? 歪な魔力?
魔法に種類なんてあるの?
意味がわからなかった……でも、僕は『偉大な魔法使い』だから知ってる事にする。
引き合わされた二人の息子たちは、村長の息子よりも大人しくていい子だった。
ぐんぐんと魔法を習得して、セラ様も喜んでくれた。
「これなら、息子たちの魔力がもっと整っていれば、街一番の魔法使いになれたのに。今の一番は平民の青年なのよ」
セラ様が悔しそうに唇を噛む。
——一番の魔法使い……。
村では珍しい魔法使いも、街にはたくさんいて、それぞれが競い合っているらしい。
女の魔法使いの一番はセラ様で、男の魔法使いの一番が平民の青年。
生まれ持った魔力の純度や質の良さが魔法の能力のかなりの部分に影響があるらしく、整った魔力や美しい魔力を持つものは注目されるものらしい。
胸がざらっとした。
僕は休みの日を使って、その一番の魔法使いだと言う青年に会いに行く……。
——そして、ルナリアに会った。
「……あ……」
魔法使いの青年と手をつないで歩いている女の子——。
姿は違って、妖精みたいだったルナリアとは似ていない、村にもいた普通の女の子。
だけど、僕には分かった。
彼女は、ルナリアだ——。
女の子が、ふと、僕を見た。
驚きに見開かれた瞳、そして、唇が動いた。
カ・ル・エ・ル
————っ!
言葉はないけど、僕の名前に唇が動いた。
「どうしたんだ、リリィ?」
魔法使いの青年が女の子を呼ぶ。
「……ん? なんでもない」
女の子は何事もなかったように、魔法使いの青年の家に一緒に入って行った。
僕は呆然と、ただ立ち尽くした。
——彼女の唇の動きは無意識のものだった。
僕のことなど覚えていない。
でも、彼女はルナリアの、生まれ変わりだ——。
ルナリアが消えて17年、16歳くらいに見えたあの子に生まれ変わったんだ。
それから、僕は休日には魔法使いの青年の家の前を通った。
青年とルナリアの生まれ変わり——リリィが、仲が良さそうに笑い合っている。
胸がズキンッと痛む。
でも、ルナリアが幸せならいい。
僕にはルナリアを幸せにする事は出来なかったけど、今度こそ、幸せになって——。
「カルエル先生が、平民の魔法使いのところに出かけていると言うのは本当なの?」
セラ様に聞かれた。
「あ、息子さんたちが彼を超えられないかと思って……」
嘘をついた。
リリィを見に行ってるなんて言えないし……!
「ありがとう、先生」
感謝されたら後ろめたい。
「今夜は、ルカスと出かけるから、息子たちをよろしくお願いします」
——え……?
——ルカス……。
「ルカス……嫌いだ!」
セラ様の息子が食事中に漏らす。
なんでも、セラ様に最近できた魔法使いの恋人らしい。
魔法使い、ルカス……偶然だろうか?
ルナリアが言っていた事、
『……私、カルエルの為に、作られた……』『……ルカス』
……。
胸騒ぎがした。
翌朝、セラ様は帰って来なかった。
ざわつく気持ちを抑えて待っていたが……。
昼過ぎに、セラ様の遺体が発見された。
一緒にいたとみられる、魔法使いのルカスが手配されるが、一向に見つからない。
——やっぱりっ!
ルカスは、ルナリアが言っていた、ルカスだった……!
泣いているセラ様の息子たちをおいて、僕はルナリア——リリィの元に急いだ。
リリィは魔法使いの青年と幸せそうに微笑みあって、キスした。
——っ!
「今日は朝まで一緒にいよう」
「……うん」
幸せそうな会話。
ダメだ! それ以上、してはいけないっ!?
ルカスに奪われる——!
僕は、青年の家の扉を叩く。
青年が出てきて、リリィも僕を見てる。
——でもなんて言えばいい?
ルカスに注意しろ!?
リリィと結ばれてはいけないか!?
「なんだ、あんたは……」
青年が不審な顔を僕に向ける。
「……」
リリィも怯えた顔をして青年を見た。
急に訪ねてきた、怪しいおじさんの言う事なんて誰が聞くんだ?
僕があたふたしている間に、青年が魔法をかける。
家の扉が閉じられて、もう扉を叩く音も中には届かない。
要塞化の魔法を使ったのだ。
……。
中で行われている事を想像するだけで胸が張り裂けそうだった。
でも、それで彼女が幸せになるなら、耐えられる!
でも、朝になったら——。
朝、魔法使いの青年の家の要塞化の魔法が消えた。
青年が解いた消え方ではなかった。
魔力が消失したようにスッと魔法が消えた。
この瞬間に、彼女が——。
しばらくすると青年が家から出てきた。
「リリィー! 何故だ!? 俺の魔力は……!?」
青年が半狂乱で街を探し回る……。
17年前の僕を見ているようだった。
もう、リリィは帰って来ない。
次は、また17年後——!




