5-4
か、完成した!
やっと、約束の新しい魔法が完成した!
「ルナリアっ! 出来たよ! 新しい魔法!」
朝食を作っていたルナリアの所に報告に行く。
「……っ!」
ルナリアが僕の顔を見て目を見開いて驚いてる。
「……そんなに進んでたの……?」
「うん……最後の仕上げで詰まってて、何ヶ月もかかってたんだ……」
ルナリアがなんだか恥ずかしそうだ。
「……嫌だった……?」
ルナリアが首を振る。
「……まだ、朝だから……」
あ……。
「……徹夜だったから、今はできないよ。これから、僕は寝るから、大丈夫だよ……」
僕は朝の決まりの抱き合いをしながら言う。
「……」
今度は、ルナリアが怒ってる気がする……難しい……。
「今夜、夫婦になろうね、ルナリア」
そう言って僕は部屋のベッドに入る。
ルナリアがにっこり笑って、うなずいてくれた。
僕は、今までで一番幸せな気持ちで眠りについた。
昼過ぎに起きて、ルナリアが朝に作ってくれていた料理を食べた。
ルナリアが僕をじっと見てる。
食べ終わってもずっと……。
そういえば、魔法の研究以外に何をすればいいんだろう?
畑も水やりとか鶏の世話とか、僕のできる事は全部午前中にルナリアが終わらせてる。
食器だけは洗ったけど……。
魔法を完成させても、僕は何も変わってない気がする……。
やっぱり、まだ早いのかも……。
「……カルエル……」
何もする事がなくて、ルナリアを抱きしめていると、いつになく厳しい口調で呼びかけられる。
「……うん……大丈夫、我慢するの……無理だから……もう」
さっきよりルナリアを強く抱きしめる。
僕の吐息がルナリアの耳元にかかる。
吐息の熱さに自分でも驚く。
……本当に一秒も待てなくなってる。
「お、お風呂沸かす!」
ルナリアから身体を離す。
まだ、昼をちょっと過ぎたところで、早すぎるけど、何かしてないとダメだっ!
「……うん、夜ご飯作る……」
今、食べたばかりだけど……ルナリアも待ちきれなくなっていて、嬉しくて、ドキドキする。
は、早くお風呂沸かそう……!
お風呂は僕とルナリアの部屋に二つある。
魔法で水を汲んで、熱を加えるだけでいいから沸かすのは簡単だった。
塔の上の方にお風呂があるけど、魔法が使えない人たちよりは頻繁にお風呂に入ってる。
掃除の方が大変で、僕だとよくカビさせちゃってたけど、いつもルナリアが掃除してくれてるからとても綺麗だ。
お風呂を沸かすより、二箇所のお風呂場を移動する方が大変で、すぐ終わった。
お湯が冷めない魔法もかけてある。
食堂に行っても、ルナリアの邪魔になりそうだから、自分の部屋に行く。
完成したばかりの魔法を記した巻物が、ごちゃごちゃした物と一緒にテーブルの上に置かれている。
この魔法が必要な時ってくるのかなぁ?
実用性はちょっと疑いたくなる。
でも、とりあえずは、僕が完成させた僕の魔法だ!
しばらく部屋で魔導書を読んでいた。
トントンとノックがされて、ルナリアが来た。
「……ご飯、出来た……」
まだ全然お腹が減ってない。
「……お風呂入る……?」
ルナリアがうなずく。
まだ太陽が沈みそうになくて、夜には早すぎるけど……。
お風呂に入って……色々考える……。
早く上がってもやる事がないし……夜までどう過ごせばいいんだろう……。
……考えたけど、答えは出ないまま、のぼせそうで外に出る。
お湯が冷めない魔法もこう言う時は不便だ。
魔法で髪を乾かして部屋に戻るとルナリアがいた……。
——見たことのない服を着てる……服?
なんか、スカートは太ももまでの長さしかなくて、肩の紐だけで全体を支えてる……こんな服もあるの?
「……村でずっと前にもらったの……」
「……うん」
「……カルエルの前で着たのか、いつも聞かれてた……」
んん?
「……今度、村に行ったら、着れたってやっと言える……」
ルナリアがにこっと見たことのない満面の笑みで言う。
か、可愛い……! 可愛いけど……っ!
白いルナリアの肌がよく見えて、胸がもう少しで見えそうで……。
村の人たち……最高の服を選んでくれたけど……これ、報告されるの?
「……」
「……」
僕が無言になると、ルナリアも何も話さない。
太陽は傾いているけどまだ眩しくて、いつものようにルナリアを照らしているのに、服のせいか凄く艶めかしい……。
僕は、ルナリアの肩を抱いてキスしていた。
前のように、魔力の甘い香りに包まれて……今日は、止めなくてもいいから……。
キスしながら、ルナリアを僕のベッドの上に連れて行く。
唇を離して、ベッドの上に寝て僕を見上げてるルナリアを、僕は見下ろす。
三年前に、最初にルナリアを僕のベッドに寝かせた時から、甘い香りに誘われてずっとこうしたかった。
ルナリアも僕の魔力を求めてる——。
甘い甘い魔力を、もう我慢することなく食べあって。
僕とルナリアは、完全に一つに溶け合った。
『お前に会えて良かった——』
お爺さんが僕に言ったこと……僕にもそんな相手が見つかればいいと思った。
でも、絶対に見つからないと思っていた。
でも、ルナリアになら言える。
ルナリアに会えて良かった——!
もう、ずっと離さない。
「……カルエル……」
ルナリアをずっと抱きしめていたら、ルナリアが口を開いた。
「んー?」
幸せすぎて、何も考えられない……。
外は赤く染まって、夕陽が差している。
「……甘い魔力の香りがしないの……」
言われてハッとする。
僕とルナリアをつないでいたモノ。
「どうして……」
ベッドから上半身を起こした僕の真似をして、ルナリアも起き上がる。
「……カルエルは、私の魔力が好きだった……?」
ルナリアに言われて考えたけど、そんな事ない、僕はルナリアが好きだから……。
じっとルナリアを見て気づいた。
魔力の香りのしないルナリアは、もっと魅力的だった。
シーツで胸を隠してるルナリア……もう見たから隠してる意味がないと思うのに……また見たくなる。
ルナリアにキスする。
「これが本当のルナリアなんだ……変な感触……魔法薬が失敗して固まった時みたいに、ぷにぷに……」
ルナリアの唇が離れた。
「……カ、カルエルも、変……っ!」
真っ赤になってる。
でも、僕の口の中も、ぷにぷにかも。
「……ルナリアのぷにぷに好き……」
僕はルナリアにキスしながらベッドに押し倒した。
「ルナリアは、嫌い?」
真っ赤なルナリアが首を振った。
僕はまたルナリアに重なって、ルナリアも僕の首に腕を絡める。
もわっとルナリアの匂いがした。
甘くないけど、いい香りで、ずっと嗅いでいたい。
ルナリアにも僕の匂いが伝わった……。
「……汗の匂い、なんか嫌……」
「う……」
でも、ルナリアは僕を離してくれない——。
僕は魔力の匂いのしなくなったマリアナを一つ一つ確かめていく。
外は真っ暗になっていた。
ベッドの上から近くの魔法のランプに灯りをつけた。
ルナリアを照らす光の上で僕の影が揺れて……またドキドキする。
「……ルナリア、大丈夫? 痛くなかった?」
「……凄く痛い……」
え……。
ルナリアは、表情が変わらないことがあるから、いつもなら小さな変化も見逃さないように気をつけてるのに……気づかなかった……っ!
「……ご、ごめん」
僕がうなだれてると、ルナリアが微笑んで抱きしめてくれる。
僕も抱き返す。
「私、この為に生まれてきたの——」
はっきりと聞こえる、ルナリアの満足そうな声に、僕はホッとする。
疲れたのか、ルナリアは眠そうで……でも、話し続ける。
「……ルカスは、怖かったけど……本当のことを言ってた……」
胸の奥がザワつく。
ルカス……はじめて聞く名前……。
「……お母さんとお父さんに会えなくなったけど……カルエルに会えた……」
僕も、ずっと小さな頃に、お母さんとお父さんと、会えなくなった……。
もうほとんど覚えてないけど、ルナリアも同じだったんだ……。
でも、それだけじゃない……何か……。
「……私、カルエルの為に、作られた……」
——っ!
ルナリアが眠りに落ちた。
……僕だって、ルナリアの為に生まれてきた——そう思いたい。
『作られた……』
魔法の灯りがルナリアを照らす。
最高に幸福な夜なのに……胸がざわつく。
不安を消すように僕はルナリアを強く抱きしめた。
絶対に離れないように……ルナリアがそばにいてくれたらもう何もいらないから——。
朝、ルナリアは消えて、僕の魔力も全てなくなっていた。




