5-3
ルナリアが村で夫婦になる方法を聞いて来てしまった……っ!
「……カルエル……」
ルナリアは、僕をじっと見つめてる。
まだルナリアの頬は赤くて……可愛すぎる……!
でも、僕はやっぱりルナリアと夫婦にはなれない——。
「……ごめん、ルナリア……」
ルナリアが泣きそうな顔になる。
「あ……ルナリアが嫌いなわけじゃないから……」
僕が、まだ何も出来ない子供だから……身体ばっかり大きくなって……だから、ルナリアが大人だと思って好きになってくれても、ルナリアを守れないから……。
「……カルエルは、新しい子が来たらその子と夫婦になるって、村の人が……」
「え? なんで……!?」
ポロッとルナリアの目から涙が溢れた。
「……っ!」
ルナリア……ど、どうしよう……。
僕はルナリアを抱きしめた……やっぱり、甘い匂いがする……。
大好きだ——。
「僕がルナリア以外の子を好きになるなんて考えられないよ……」
「……じゃ……」
ルナリアは僕を見上げる。
可愛くてこのまま夫婦になってしまいたい。
「でも、今はダメ! まだ、ルナリアの事、ちゃんと大事に出来ないから」
「……大事……?」
「僕はルナリアが思ってるより子供だから……もっと大人にならないと……」
ルナリアが少し考えてる。
「……カルエルのこと、大人だと思ったことない……」
あ、そっち。
でも、それはそうか……。
「だ、だったら、夫婦になれないの! 大人じゃなきゃダメ……!」
ルナリアはまた考えてる。
「……どうやったら、カルエルは大人になるの……?」
どうやったらだろう?
「それは……魔法かな。お爺さんの残した研究は完成させた事あるけど、自分でちゃんと新しい魔法を完成させられてないから……」
「……魔法の研究……今と変わらない……」
そうかも……結局ルナリアに頼ることになる。
でも、魔法を完成させないと、僕はずっとこのままだ。
「ルナリア、何年かかるか分からないけど、待っててくれないかな……。絶対に、完成させるから……!」
「……うん……!」
ルナリアが微笑んで僕を抱きしめる。
僕もまたルナリアを抱きしめた。
でも、ルナリアが何かに気づく。
「……抱き合うのは、してもいいの……?」
あ……夫婦でやる事だって言っちゃった……。
「……だ、抱き合うのは良いことにする!」
だって、こんなにいい匂いであったかいのに、一緒に住んでルナリアと抱き合えないなんて無理っ!
「……朝と夜、毎日二回……」
「うん、二回、必ず抱き合おう。あとは何回でも抱き合っていい事にする……っ!」
ルナリアの表情が、柔らかくなる。
「……絶対ね、カルエル……!」
◆◇◆
僕は、ルナリアと夫婦になる為に、魔法の研究に没頭した。
……前とあまり変わってない……。
ルナリアが掃除も料理もやってくれるけど、僕も前よりもっと手伝ってるからっ!
朝、魔法で畑の野菜に水をあげて、鶏の世話をする。
「……カルエル、魔法の研究は……?」
ルナリアは僕が手伝うより魔法の研究をしてる方がいいらしい。
「……魔法の研究、進まないの……?」
研究に詰まって息抜きで手伝ってることもあるけど……。
「ルナリアを手伝いたかっただけだよ。……息抜きならルナリアを抱きしめた方がいいし……」
僕はルナリアを抱きしめた。
ぎゅーっと長く。
「……やっぱり、進んでない……」
ルナリアに呆れられる。
ルナリアは僕が抱きしめる長さや強さで、魔法の研究の進み具合が分かるようになっていた。
夜に魔法の灯りを付けて研究してると、ルナリアが来た。
夜の抱き合う決まりの時間。
ギュ。
「じゃあ、おやすみ、ルナリア」
けど、ルナリアが僕の顔をじっと見てる。
「……魔法の研究、進んで良かった……」
にこっと微笑んでるルナリア。
ああ……早く研究の続きしたいって思った事がバレてる……。
でも、にこっと笑うルナリアに、早く研究を完成させたいって気持ちが強くなる。
ルナリアは自分の部屋に戻って寝てる。
夜はこれからだ。
「よし! 頑張ろう」
◆◇◆
村に魔法薬を届けに行くのは、いつもルナリアと一緒だった。
「……魔法の研究して……」
ルナリアは僕に魔法の研究をずっとしていて欲しいみたいで……それは、早く夫婦になりたいって思ってくれてるってことで、ものすごく可愛いけど……。
村の人たちに、変な事を教えられないか心配で、一人では行かせられない。
まあ、一緒に行っても、僕が魔法薬や護符を必要な場所に届けてる間に、村の女の子に誘われて話しをして知識を増やしている。
「……男の人は必ず浮気するから、カルエルも……」
「え!? そんな事ないよ! きっとこの村の男の人だけだよ!」
大丈夫なのか!? この村の男たち!
「また変な事を吹き込まれてるのか、ルナリアは」
「村の叔母さんたちは、なんでも大袈裟だから」
村長の息子と奥さんに会う。
この村で、ルナリアと会わせても安心な、数少ない人物かもしれない。
奥さんは妊娠中でお腹が大きくて、ルナリアがじっとお腹を見てる。
やっぱり会わせられなかったかも……!
「もうすぐ産まれるから、生まれたら会いに来てね」
ルナリアがうなずいている。
「……今は何ヶ月?」
あ、ルナリアの方が、僕より詳しいかも。
村の叔母さんたちに、ルナリアは本当に色々な事を教えて貰ってるらしい。
村長の息子夫婦と別れて、村から帰る。
村を出たあとで、ルナリアの足が止まった。
村の方を振り返って見てるけど……あ……。
別れたばかりの村長の息子夫婦が、キスしてる。
夫婦だから普通のことなんだけど……ルナリアが……。
ルナリアの方を見ると、ルナリアが僕を見つめていた。
……。
気まずい空気を感じながら、魔法使いの塔への道を歩く。
ルナリアは多分、キスしたくなったと思う。
チラチラとルナリアの方を見ると、ルナリアと目が合う。
ずっと僕を見てるのかも。
——僕は立ち止まった。
ルナリアがまた僕を見る。
いつもの真っ直ぐなルナリアの瞳……。
ああ、ルナリアだけじゃなくて、僕がキスしたいんだ——。
吸い込まれるように、僕はルナリアの唇に、自分の唇を重ねる。
ちょっとだけ、ちょっとだけだから——。
でも、ルナリアの甘い香りが強く僕を包んで、もっと強くルナリアの甘い魔力が僕の身体に入り込んで来る——。
止められなくて、ルナリアの唇をもっと味わいたくなる。
——もっと!
ドタッ。
僕とルナリアは地面に倒れていた。
……僕がルナリアを押し倒したらしい……。
唇が離れて、僕は正気に戻った。
でも、ルナリアが倒れたまま、僕の首に腕を回して——キスしようとする。
「だ、だめ! ルナリアっ!」
僕はルナリアの身体を離す。
ルナリアは、とろ〜んっとした目を僕に向けている。
僕の魔力にルナリアも当てられてる……!
まだ僕にキスしようとしてるルナリアを胸の中に抱きしめる。
ギュッとしばらく抱きしめていると、ルナリアの声がした。
「……カルエル、キスってすごい……」
手を離してもルナリアはキスしようとして来なくなって、落ち着いたみたいだ。
「……うん、凄すぎた……」
僕とルナリアは手をつないで、魔法使いの塔に向けて歩き出した。
「……カルエル、早く新しい魔法、完成させてね……」
「うん、頑張る……!」
——それから三年後、23歳になった僕は、ついに魔法を完成させた。




