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5-1

 その子を見た時に、妖精かと思った。


 とても人間とは思えない、とても可愛い子——。


 僕のルナリア——。


◆◇◆


 僕は、魔法使いの塔に住んでいた。


 僕を拾ってくれたお爺さんが魔法使いで、

ずっとこの塔に住んでいたから、魔法使いの塔と呼ばれるようになったらしい。


 僕も、お爺さんに小さな頃に拾われて、ずっと一緒に住んでいたら魔法が使えるようになっていた。


 お爺さんは、僕を拾った時にはずいぶん高齢で、僕が17歳になると亡くなった。


 近くの村の人はお爺さんの死を悲しんでくれた。


「カルエル、お前が爺さんの代わりに、村の魔法薬や護符を作ってくれないか?」


 村の人から言われた。


 今までも村の魔法薬や護符は僕が作っていたから、そのまま引き受けた。


 魔法使いの塔に僕がそのまま住み着くことを村の人たちに許可して貰えて嬉しかった。



 お爺さんは村の人に届ける魔法薬や護符以外にも、魔法の研究をしていた。


 塔に住むなら僕も魔法の研究をした方がいいように思えた。


 お爺さんの遺したメモや本を読めばなんとか研究が続けられそうだった。



 そうして、魔法薬や護符を作ってしまうと、部屋にこもって研究するという生活を続けた。


 お爺さんのメモは最初は難しくて分からない事だらけだったけど、本を片手に解読していくうちにのめり込んでいった。


 お爺さんの研究途中だった新しい魔法をいくつか完成させると、僕自身で新しい魔法を作りたいという気持ちが強くなった。


 だからますます没頭して、村に魔法薬と護符を届ける以外はずっと魔法使いの塔にいた。



 たまに近くの村の年頃の女の子たちが僕のところに来た。


 なんだか特に用事が無くて中身のない話をして帰って行く。


 早く研究に戻りたいし、なんとなく女の子は苦手だった。


 ただ、村に買いに行く必要があるものを届けてくれるから助かっていた。


 男の子たちも来る事はあったけど女の子たちより分かりやすい要件だった。


「惚れ薬が欲しいから作ってよ、カルエル」

「俺は睡眠薬な」


「うん、作った事はないけど、やってみる」


 僕が答えると、村長の息子が止めに入った。


「カルエル、お前は魔法よりももっと常識を知らなくちゃいけない」


 そう言って、村の村長の所で色々と教えて貰った。


 悪気がなくても、僕の作った魔法薬が悪用されたら僕も魔法使いの塔に住めなくなる。


 気をつけないと……!




 そうして、魔法の研究と村の魔法薬や細々した用事をこなすうちに三年が経っていた。


 僕のところに遊びに来ていた女の子や男の子たちは、村で結婚していた。


 結婚って——僕にもお父さんとお母さんはいたはずだけど……。


 僕には関係ない事のようだった。


 お爺さんも、僕を拾うまでずっと一人で魔法使いの塔にいたんだ。


 僕もきっとずっと一人だろうなぁ。


 お爺さん以外の誰かと一緒に住むなんて考えられないのに、胸の奥がざわついた。


『お前に会えて良かった——』


 お爺さんが、死ぬ前に僕に言った言葉だ。


 僕も誰かに言えるといいなぁ。



 

 ——ある日、魔法使いの塔の前に倒れている女の子がいた。


 銀色の長い髪が、倒れた彼女を守るように身体を包み込んでいる。


 髪の隙間から見える肌は透き通るように白い。


(キレイ——、妖精みたいだ……)


 僕は触れていいのか迷ったけど、倒れたままにはしておけない。


 そっと触れると、何処からか甘い香りが漂って来た。


 ゆすっても起きない彼女を、抱きかかえて魔法使いの塔に連れていく。


 彼女は驚くほどに軽く、甘い香りに包まれていた。


 寝かせられるような場所がないから、僕のベッドに寝かせた。


 僕のベッドもそんなに綺麗じゃないし、いい香りなんてしない。


 それなのに、彼女の甘い香りが部屋中を満たしていく。




 ガタッ。


 物音に目が覚めた。


 僕は机の上の魔法の研究の道具の上に突っ伏して寝ていた。


 女……の子……。


 そうだ! 昨日、塔の前に倒れていた女の子を、僕のベッドに寝かせたんだった。


 窓から陽が差し込んでいて朝になっている。


 女の子が起きたら食べてもらうつもりで食事を用意したりしてたけど、結局女の子は起きて来ないから魔法の研究をして……一晩が過ぎたらしい。


 僕が慌てて同じ部屋のベッドに寝ている女の子の方を見る。


 女の子はベッドから立ち上がっていた。


 僕が急に振り返ったことで驚いたように身体をビクつかせる。


「あ……」


 怖がらせたくはないけど、僕も何を話していいかわからない。


「……僕は、カルエル。……君は、魔法使いの塔の前に倒れてたんだ……あ、魔法使いの塔って僕が住んでる場所で……ここのことだよっ!」


 ちゃんと伝わったかな……話すのは苦手で……村に住んでれば、僕でも、ちゃんと話せるようになってたのかな。


 女の子はキョロキョロと部屋の中を見回す。


「あっ! ごめん……っ! 散らかり過ぎてて、でも、僕のベッドがこの塔の中で一番マシだったんだ。き、今日は、ちゃんと寝る場所を綺麗にするよっ!」


 空いてる部屋のベッドのシーツを洗濯して、部屋を片付けて……多分魔法で出来るかしれない。

 何処かでそう言う魔法の事を読んだ気がする。

 あ、でも、本を探す方が大変かも……。


「……」


 女の子は何も言わない。


 ……もしかして、今日は泊まるつもりなかったのかも……!


 僕が勝手に……いて欲しいからって……っ!


「……」


 女の子がじっと僕を見てる。


「……あ、ご飯食べる?」


 女の子がうなずく。


「……っ!」


 き、昨日のは食べられないから、あ、パンは僕が食べて、新しいのを彼女に出して……あと何があった!?


 魔法使いの塔の一階が食堂だけど……。


 ゴチャっとテーブルの上に使って片付けてない皿とか、色々な物が置いてある。


 ああっ! ここでも食べながら魔法の研究してるから……昨日、ご飯作った時に片付ければよかった……っ!


 ガチャガチャ、女の子が皿を重ねている。


「え……片付け、手伝ってくれるの……?」


 女の子が僕を見て、にこっと軽く微笑んだ。


「……っ!」


 か、可愛い——!


「あ、ありがとう! 後で、ちゃんと僕が片付けるから、今は朝食のおける場所だけ確保して……」


 女の子がうなずく。


「……っ!」


 僕は急いで新しいパンを出して、魔法で火をつけて鍋を火にかけて簡単なスープを作る。


 村でもっと色々な食べ物を調達して来なくちゃ……!


「僕は片付けて掃除するから、君はゆっくりしててね!」


 食事が終わって女の子に向かって言うと、僕は急いで片付けた。


 魔法の本なんて探してる暇がないから自分でやる。


 洗濯って随分してないな……あ、桶がカビてる!


 カビ取りの魔法は、お爺さんがいる頃から魔法使いの塔では必須だった。


 パンがカビていたら、魔法でとって食べた。


 ……よく生きてるなぁ、僕。


 生きる為に必須の魔法はあったけど、掃除と洗濯はお爺さんが全然気にしてなかったからなぁ。


 女の子がいるならちゃんとやらなきゃ……!




 洗濯したシーツを外に干して、部屋を片付けて床もピカピカに磨いた。


 全部の部屋は掃除出来なかったけど……使う部屋は綺麗になった。


 ……あの子は、どこにいるんだろう?


 もうすぐお昼だから、また簡単な物しか無いけど、一緒に食べて、村に買い物に行って……。


 ……いない……。


 女の子がいない……。


 ——あっ。


 ずっと、ここにいるなんて、言ってなかったのに……いや、女の子は話してもいなかったのに……。


 ——僕が勘違いしてただけだ……。



 ガチャ


 食堂のテーブルに座っていると、人が入って来た——。


 女の子かと思って振り返ると——ウサギがいた——。


 だらんと手足が伸び切って、正気のない瞳。


 死んだウサギが宙に浮いている。


「——ひっ!?」


 僕は大声で叫びそうのなった。


 でも、ウサギの後ろに、耳を掴んで宙に浮かせている女の子がいたっ!


「……獲ってきた」


 女の子が話した。


 ……話せたんだ……。



 女の子がウサギを捌いて昼食を作ってくれている。


 村の女の子ならウサギを獲るのも捌くのもみんな出来るから驚くことじゃないけど……妖精じゃなかったんだ。


 僕だってウサギくらい獲れるけど、可哀想で肉はほとんど村で売られている豚や牛の干し肉で済ませてる。


 結局、肉を食べるのは同じなんだけど……。


 新鮮なウサギの肉は、めちゃくちゃ美味しかった。


 女の子は料理が上手だ!


 でも——


「うさぎはどうやって獲ったの?」


 女の子が持っていたウサギに傷はなかった。


 僕が魔法の矢で心臓を内側から攻撃してウサギを捕まえる時と同じ様子だった。


「……魔法の矢……」


「——! 君も魔法使いなんだね……っ!」


 女の子はうなづいた。


「な、なら! ここに住みなよっ! ここは魔法使いの塔だから……っ!!」


 別に魔法使い以外が住んじゃダメって塔じゃないしたまたま魔法使いが住み着いていただけだけど。


 なんでもいい、彼女とここに居たいっ!


 ……なんか必死すぎるかも、僕。


 女の子はどこか迷っているようだった。


 でも、どうしても彼女と離れたくないっ!


 甘い香りが漂ってくる。


「……ありがとう……」


 女の子は迷った末に答えてくれた。


「——っ!!」


 僕は、もう一人じゃなくなった——。


「あ、僕はカルエルだよ、前にも言ったけど……き、君は?」


 自己紹介して右手を差し出す。


「……ルナリア……」


 ……ルナリア……。


 ……ルナリア、ルナリアっ! 名前も可愛いっ!


 ルナリアが僕の右手を握って握手する。


 よろしくの挨拶だったけど——。


 ルナリアの目が見開かれた。


「——甘い、カルエルの魔力——」


 ああ、僕の感じていたこの甘い香りも、ルナリアの魔力だったのか——。


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