3-4
俺は市場の開かれている広場に一人で行く。
前回、マリアナが自ら首を掻き切って死んだ場所だ。
ずっと、避けて来た場所。
ここで、俺と同じ魔力を持つ、アルヴィンも自ら喉を掻き切って死んだと言う。
広場にはアルヴィンの銅像が建っていた。
——アルヴィン・アストリア。
五百年前、このアストリア王国の第三王子で、アストリア王立魔法学園の初代学園長だった男だ。
この学園を作っただけでなく、この街、学園都市アルセリアを作ったのも彼だ。
ここがまだ小さな村だった頃に、かつて大賢者が住んでいたという塔があった。
その塔に目をつけて、魔法学園を作ったのがアルヴィンだというが……。
その男が、なぜ自ら作った都市の広場で自殺なんてするんだ……。
俺の前世だったくせに——マリアナを相手にしてなかったくせに!
「何をしているんですか?」
ビクッ
俺は声をかけられて驚く。
背筋が寒くなる——知っている声だったから。
「……ルカス……」
微笑んでいるようにも見えるが、真意の見えないゾッとする顔だった。
「……マリアナと婚約して、上級科では最優秀生徒に選ばれたいからな。初代学園長には敬意を払うことにしたんだ」
声が震えている気がする。
ルカスが、俺とアルヴィンにつながりを認めている事を、俺が知っているとは知られてはいけない……。
「ああ、僕は最優秀生徒になりたいわけじゃないから、エルヴィン様に譲りますよ」
……別にそんな事はどうでもいいけど……頭に来る。
「マリアナは、お前が侯爵令嬢と結ばれる為に、最優秀生徒として周りに認めさせる必要があると思ってキスしたんだぞ! そんな簡単に譲るな——!」
俺は手に魔力を貯める。
攻撃魔法の光が大きくなる——ッ!
「……侯爵令嬢への想いも、そんなに簡単に捨てられるのか——ッ!」
攻撃魔法の光がもっと大きくなる。
ルカスを殺せるくらいに——!
「危ないな……」
キュィンッ
ルカスが右手を挙げると、俺の攻撃魔法が消滅した。
「——……はっ!?」
俺は自分の手を見た。
「ああ、なんだ、攻撃する気は無かったのか。……失敗したな……これでバレたか」
ルカスが言う。
……攻撃するつもりなんてなかった……ただ、ルカスを脅そうと思っただけだ。
怒りを爆破させるのにちょうどいい機会だったから、ルカスの本当の力を見るいい機会だと思った——。
——必ず、俺の方が魔力が強いはずだから……。
……そんな——。
「バレたら消えるしかないな。マリアナはお前のものだ、好きにすればいい」
ルカスから、さっきまでの人の良い様子は消えている。
俺は、ルカスの本性がこっちだと知っている……けど、それだけじゃなかった——。
ルカスの姿は消えていた。
俺は、ホッとして、冷や汗が大量に吹き出した。
勝てない——。
こんな化け物には勝てない。
ルカスが、俺の攻撃魔法を一瞬で消した時に分かった。
ルカスが無限に感じる程の大量の魔力を持っている事を。
いつもは隠していたんだ。
無理だ——俺は、ルカスに絶対に勝てない……!
◇
「ルカスが引っ越した……?」
マリアナがメアリーから聞いて驚いている。
唇に手を当てて何かを真剣に考えている。
相変わらず、可愛い。
ルカスは、俺と広場で会ってから、完全に姿を消している。
俺はルカスのヴァイス子爵家を探したが、やはりヴァイス子爵家はどこにもなかった。
マリアナの父親にも聞いたが、記憶が曖昧ではっきりした答えがない。
教師たちも同じだった。
何か大規模な魔法で、マリアナの父親や教師たちを騙していたのか、実在していたが魔法で綺麗に家族ごと消えたのか……分からないが、どっちでも、ルカスなら簡単に出来るだろう。
ルカスの魔力の量は、俺には到底追いつけないものだった。
「エルヴィン……」
マリアナが俺に微笑みかける。
「きっとルカスは侯爵令嬢を失って、悲しくて引っ越して行ったのね。きっと、もう大丈夫なのよね……?」
ズキッと胸が痛む。
マリアナはルカスを善良に解釈しようとしている……。
だけど、ルカスは……。
「そうだな……」
俺はどんな顔をして言ったのか……。
マリアナは満面の笑みで答える。
「うん、ありがとう、エルヴィンのおかげね。もう本当にずっと一緒ね」
ギュッとマリアナが俺に抱きつく。
「ああ、ずっとずっと一緒だよ、マリアナ——」
涙が出た。
嬉し泣きだと思われたのかもしれない。
十七年と三年。
マリアナに会いたいと、救いたいと思った時間は無駄だった——。
せっかく時間を巻き戻してマリアナの気持ちも確かめたのに——勝てない事だけが分かった……。
ルカスはきっとまた来るんだ、マリアナと俺が結ばれた時に……。
マリアナを救う方法がもうない……。
いや、マリアナと結ばれない——。
俺がマリアナと絶対に結ばれなければ……ルカスに奪われない。
マリアナは生きられる——。
◇
エルヴィンの笑顔が悲しい。
嬉しくて泣いてるはずなのに、エルヴィンの涙が胸に突き刺さる……。
——『私は、何度もルカスに殺されるの……!』
あ……私が、自分でそう言っていたじゃない……!!
きっと、ルカスはまた来る。
エルヴィンと幸せな朝を迎えた時に、私を殺しに——。
エルヴィンの涙の意味を理解する。
エルヴィンを抱きしめる。
「ごめんなさい、気づかなくて……」
私の目からも涙が溢れ出す。
「でも、ずっと好きだから、エルヴィン……触れ合えるだけで幸せだから——」
「マリアナ——俺も、君といるだけで幸せだよ……」
私たちは本当に幸せだった——。




