3-2
マリアナ! マリアナッ!!
学園の廊下で魔力でおかしくなったマリアナにキスされて——。
ずっと避けていたはずなのに、俺自身が止められなくなる。
バタバタバタッと階段を登ってくる足音が聞こえる。
「何してる!?」
学園の教師たちだった。
我を忘れてお互いを求め合うようにキスする俺とマリアナを見たら、そう言いたくなるだろうな。
「エルヴィン……と、マリアナ!?」
しかも、マリアナはついさっき卒業式の壇上でルカスにキスしてたんだ。
俺は魔力におかしくなってるマリアナを唇から離して、落ち着くまで抱きしめる。
けれど、夕方の学園を教師たちが連れ立って歩いているなんて珍しい。
何かあったのか……?
「行方不明だった侯爵令嬢が遺体で見つかったんだ」
え……それはルカスの恋人だという……。
「……女生徒が……また……」
マリアナが俺にしか聞こえない小さな声でつぶやく。
まだ目が虚だった。
——また……?
俺たちは学園を追い出された。
俺の家は旧貴族邸地区で学園から近いから、馬車は特別な日にし待たせてない。
だから、今日も歩いて帰るが……。
マリアナの伯爵家のある新貴族邸地区は馬車でくる生徒が多く、帰りの時間も迎えにくる。
マリアナの家の馬車も待っていたが、みんな帰って一台だけだった。
ここまで来るとマリアナは完全に正気に戻っていた。
「エ、エルヴィン!?」
マリアナが俺に肩を抱かれて歩いている自分に気づいて驚いてる。
前回と同じように俺に抱きついて、可愛かったのに。
ただ、虚な目でつぶやいていた名前が気に入らない。
『アルヴィン先生……』
学園長だったアルヴィンの事なのか……?
けど、それより、もっと切実に気になる事があった。
「マリアナ、君は覚えているのか……!?」
俺は学園に隠されていた禁忌の魔法で、マリアナの死の真相を確かめるために時間をマリアナとの出会いの前に戻したんだ。
俺が記憶を持っているのは当たり前だが、マリアナも時間の巻き戻りの時に記憶を持ったままなのか……!?
「覚えてるって……私がルカスに殺された事を、アルヴィンも覚えているの?」
え? ルカスに殺された……?
マリアナは俺の目の前で、自ら首を切って死んだのに……。
「私は、何度もルカスに殺されるの……! アルヴィン先生の時も……!! ミリアの時も!!」
マリアナは震えている。
アルヴィン!? ミリア!?
ミリアとは、時間を戻す前にマリアナの生まれ変わりだった女生徒だけど、殺されてはいない……記憶が混乱している?
『私は、何度もルカスに殺されるの……!』
ルカスに、何度も殺されているのが本当なら、自分の死は全てルカスのせいだと思い込んでいる?
ただ、前世というのは本当なのか?
アルヴィンの時代から、俺たちは生まれ変わってマリアナが殺されているのか……?
『マリアナを君に返す——』
『もっと、可愛いがってやってくれ——』
ルカスがマリアナを自分のモノのように扱うのは、ルカスにも前世の記憶があるからなのか……?
マリアナは俺に抱きつくと、震えが収まっていく。
俺もマリアナを撫でていると落ち着く。
可愛いマリアナ。
「エルヴィンも、覚えていたの……なら……どうして……」
マリアナが悲しい顔で俺を見つめる。
……それは……。
「マリアナが、ルカスに殺されないために……」
俺はマリアナに話を合わせる。
マリアナが覚えていないなら、自ら命を断った事は無理に思い出させない方がいいだろう。
まだ、気になることは沢山ある……。
「私も……ルカスが私を殺さず、ずっとエルヴィンといられるように、侯爵令嬢とルカスの事を応援しようと思って……でも、さっき、先生たちが何か言ってた……」
マリアナも俺の為に動いていたのか——っ!
「侯爵令嬢は亡くなったの……?」
マリアナが不安そうに俺を見つめる。
「らしな……」
「——っ!」
マリアナがショックを受けていた。
俺はマリアナの馬車に乗って家まで送って行くことにした。
マリアナは呆然とした後で、静かに泣いている。
俺はそんなマリアナを抱きしめるしか出来なかった。
「ルカスは、本当に侯爵令嬢の事が好きだったのよ……だから、きっと、二人が結ばれたら、ルカスは私を殺さないと思ったのに……」
マリアナは本当にそう思っていたんだな……。
でも、俺はルカスがそんな男じゃないの
事を知っている——。
マリアナとミリアを自分のもののように扱って、俺に可愛がれと言った男だぞ——!
侯爵令嬢と結ばれて大人しくなるわけがないだろう……!
「……マリアナ、アルヴィンって誰なんだ?」
マリアナが顔を上げた。
泣いてる顔も可愛いけど……気が急くのにマリアナといるだけで癒されてる俺がいる。
俺が涙を拭うと、マリアナは戸惑いながら話し始めた。
「……ルカスとキスした時に、ルカスの記憶と心の声が頭の中に流れてきたの……『アルヴィン……あの時と同じか……』って……」
「アルヴィンと同じ……?」
初代学園長と俺の魔力同じだと、ルカスは知っているのか……?
「……それで、私も思い出したの……アルヴィン先生の事」
「……アルヴィン先生って、マリアナは初代学園長の生徒だったのか……?」
マリアナがうなずく。
「私は先生が大好きだったのに……全然相手にしてもらえなかったの……でも、アルヴィン先生はエルヴィンと同じ魔力で生まれ変わりだから、少しだけ……幸せなの」
「少しだけ……?」
「……ミルファはアルヴィン先生が好きだったの……私が、エルヴィンじゃなきゃ嫌なように……。生まれ変わっても、同じじゃない……」
「——っ!!」
……マリアナが、俺じゃなきゃ嫌だって、同じ魔力で生まれ変わりでも、俺じゃなきゃ嫌だって……!!
全部吹っ飛んだ。
十七年と三年、悩んでいた事がどうでも良くなる。
「マリアナっ! 愛してる!」
「エ、エルヴィン!?」
俺は馬車の中でマリアナを押し倒して、めちゃくちゃに撫で回す。
「マリアナ、大好きだ!」
「うん、大好き、エルヴィン!」
マリアナも俺の事を抱きしめて、昔の俺たちの戻ったようだった。
俺はマリアナが好きで、マリアナも俺を好き。
それが全てだ——。
マリアナのローゼンベルク伯爵家について、俺はすぐにマリアナの両親に挨拶する。
「マリアナを、俺に下さい」
「エ、エルヴィン!?」
マリアナが驚いている。
「ルカスに隠せなくなったんだ、正式に俺のものにしないと、マリアナを守れない」
理屈じゃない、マリアナ俺の!
マリアナが感激して俺に抱きついて、俺もマリアナを抱きしめる。
マリアナの両親の前でも構わずイチャつく。
「エルヴィン様は、『魔法を極める』んじゃなかったのかな? それなのにルカスに最優秀生徒をルカスに取られて……」
それは俺が取りたくなくて手を抜いたんだが……。
「マリアナがいないと魔法の勉強にも集中出来なかったんです。俺には、魔法よりも、マリアナが大事だから」
これは、本当のことだ。
「お父様、お母様! 私、エルヴィンが大好きなんです!」
マリアナが両親に言ってくれて、俺も心から満たされる。
正式にはルカスのヴァイス子爵家に婚約破棄の断りを入れてからだが、マリアナの両親には俺たちの事を認められた。
「エルヴィン!」
「マリアナ!」
俺たちは見つめあって、ずっと抱き合っていた。
しかし——、
ヴァイス子爵家は、前回、マリアナの死んだ後で、探しても存在しなかったのだ——。




