3-1
「マリアナ……」
私は誰もいない教室でルカスにキスしていた。
この魔力、エルヴィンと同じ……。
エルヴィン! エルヴィン!!
整いすぎた純度の高い魔力。
エルヴィンの魔力に何も考えられなくなった私は、エルヴィンの魔力を求めてルカスにキスしている。
頭がボーッとして、自分が何しているのかも分からなくなってる……。
——でも、私は魔力が欲しいんじゃない。
私は、エルヴィンだから……エルヴィンだから触れていたいと思うの。
そう、素直になるだけ……。
あ……でも、違う……!
今、触れている腕が、身体が、エルヴィンじゃない!
あ、嫌だっ!
エルヴィン! エルヴィン!!
嫌なのに……身体が離せない……。
——っ!
ルカスが、私の身体を離す。
「マリアナ……この魔力はエルヴィンのものだ」
私はルカスの唇をボーッと見つめる。
大好きなエルヴィンの魔力がある場所……。
「この魔力が欲しいなら、エルヴィンから貰え」
ルカスが言う。
うん、エルヴィンがいい……エルヴィンじゃなきゃ嫌だ……。
私はうなずいた。
「エルヴィンは、まだ学園にいる」
◇
私は、ルカスから唇が離れて頭がはっきりしてきた。
「……ル、カス」
「良かった……マリアナ様……何ですか?」
「……え? 私、ルカスとなんで、教室にいるの……?」
ルカスが赤くなった。
「……マリアナ様が、僕に最優秀生徒のキスをしていたら、止められなくなって……先生方に避難させられたんです……」
ルカスは、本当に本当に真っ赤だった。
私も同じように真っ赤になる。
ルカスの口からエルヴィンの魔力を感じて……おかしくなっていって……。
前回の記憶では、エルヴィンとキスすると、私がおかしく——素直になっちゃうから、エルヴィンがすごく慌ててた気がする……。
私も、なんとなくおかしすぎるって思っていたけど……それを人前で!?
最優秀生徒のキスで——!
前回の最優秀生徒はエルヴィンとだったから、なんとかなった……なってなくても、仲が良すぎる婚約者同士ってことで私も気にならなかったけど……。
ルカスに対してあんなキスしてたらおかしいわ!?
「先生が言ってました。たまに魔力に惹かれすぎる生徒がいるって。マリアナ様は魔力判別能力が高すぎるからそのせいだろうって」
「……そうなの……」
前回も聞いた気がするけど、エルヴィンとだったから、あまり危機感を持ってなかった。
まさか、殺された相手とキスしておかしくなって、さらに二人っきりになるなんて……。
二人っきり……ゾクっと背筋が凍る。
ルカスは人の良い顔で困っているのに……。
「あ、侯爵令嬢に見られたら困るでしょう……あ、そうか、侯爵令嬢は行方不明って……」
ルカスは、侯爵令嬢が行方不明と騒がれてるのは、行き違いがあっただけだと言っていたけど……。
「ああ、そうだ、侯爵家に戻っていると思うので会いに行きたいんですけど……」
ルカスは私の様子を見て言う。
ああ……私のせいで帰れなかったのよね……。
「ごめんなさい。侯爵家に行って、早く侯爵令嬢に会ってあげて……」
ルカスは、侯爵令嬢が心配なのか、すぐにでも出て行きそうだったけど、
「……待って、ルカスのキスで感じる魔力が、触って分かる魔力と違っているの……なんで?」
キスの魔力はエルヴィンのもので——。
「ああ、僕は体の中が魔力が外と違うらしいんです」
「え?」
「外の魔力より、中の魔力が整っているから、驚かれるんです」
「そうなの……」
でもエルヴィンと同じ魔力だったのはどうして……?
説明になってない事がある——。
ルカスは、荷物を持つと、本当に急いで侯爵令嬢の元に向かって行く。
でも、教室を出る前に私を振り返る。
「エルヴィン様は、二階の廊下に居ますから、仲良くしてくださいね、マリアナ様……」
ゾッとする。
他意は無さそうな善良な表情に底知れなさを感じる。
でも、私は、「ありがとう」と微笑んだ。
どうしてルカスは、私とエルヴィンを応援してくれるの?
ルカスに好きな人がいて、婚約者の私も別の人が好きな方が都合が良いから?
——『この魔力が欲しいなら、エルヴィンから貰え』
エルヴィンの魔力に包まれる夢の中で、聞いたような気がする……。
それから——、
——『アルヴィン……あの時と同じか……』
ルカスから流れ込んできた記憶……エルヴィンがアルヴィンと同じ?
アルヴィンって誰……?
甘い匂いが鼻をついて、誘われるように唇を舐める。
唇に残ったエルヴィンの魔力が身体を駆け巡る。
『エルヴィン様は、二階の廊下に居ますから——』
エルヴィンがいる——。
◇
俺が廊下で物思いにふけっていると、声が聞こえた。
「……アルヴィン……」
マリアナの声。
暗い教室の廊下の先にマリアンがいた——。
「……あ、違う……エルヴィン……」
マリアナの虚な目が、俺とキスした後みたいだ。
卒業式の最優秀生徒のキスで、ルカスの唇を貪るように求めて、教師たちにルカスと一緒に連れて行かれていた。
ルカスの魔力も俺の魔力くらい、君をおかしくさせるものだったのか?
それで、今までルカスとキスしてたのか——。
グサッとナイフで心臓を刺されるような痛みだった。
でも、俺が望んだ事だ。
——これは——仕方ない……っ!
マリアナを守る為だ——っ!
それより、マリアナが俺をアルヴィンと呼んだッ!?
このアストリア王立魔法学園の初代学園長がアルヴィンだ……。
俺と同じ魔力をしていた……五百年前の人物。
『——前世の私なんて知らない! やめて!』
『思い出したくない!』
マリアナは死ぬ前に言っていた。
前世を知ってるマリアナが俺をアルヴィンと呼んで——っ。
俺が、本当にアルヴィンなのか——?
マリアナが俺の首に抱きつこうと手を伸ばす。
さっき、卒業式の壇上でマリアナがルカスに同じように手を伸ばして、キスしていた。
魔力におかしくなったマリアナが俺の魔力を求めてる——俺の魔力に触れて、マリアナも本当に俺の魔力を求めていたと証明されるのは嫌だ……!
サッと身体が動く。
俺が避けると、マリアナはそのままバランスを崩して倒れそうになる。
「あ……エルヴィン……」
マリアナが悲しい声を上げる。
倒れていくマリアナ——。
マリアナを避けて、それで、何を守っているんだっ! 俺はっ!!
ドサッ。
「エルヴィン……」
倒れたマリアナの下に俺はいた。
「……怪我してないか、マリアナ」
マリアナは、俺を無視して俺の唇を奪う。
やっぱり、俺の魔力が欲しかったのか? マリアナ。
マリアナの甘い魔力が俺にも流れ込んでくる。
——俺も、ずっとこうしたかった……。
……十七年と三年ぶりのマリアナだ。




