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私は溺愛されて殺される。数百年、何度も失った彼は、今度こそ私を絶対に救う。  作者: 唯崎りいち
エルヴィン

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13/17

2-5

「あ、父さん、ちょうど良かった。この子は新入生なんだけど、上級科からの転入生で学長室に案内して来たんだ」


 エミリオは父親のオスカーを見つけて事情を説明した。


 女生徒はエミリオと違って制服を着ていない。


「ああ、ここが学長室だ。エミリオは教室に戻れ」


「はい」


 そのまま、オスカーは女生徒と学長室に入って、エミリオは教室に戻っていく。


 ……俺は一人取り残されて、ただ立っていた。


 ガラッ


 学長室に扉が再び開くと、オスカーだけが出て来た。


「なんだ、エルヴィン、まだ居たのか」


 俺は自分でもなぜ動けないのか分かっていなかった。


 彼女はマリアナじゃないんだ……。


◆◇◆


 俺はオスカーの研究房に連れてこられた。


 相変わらずごちゃごちゃしている。

 生まれ変わりについての本が多い。


 アストリア王立魔法学園の教師には一人一部屋、研究房が与えられて、オスカーの助手だった頃は俺もここに毎日通っていた。


「彼女はマリアナの生まれ変わりなのか——?」


 オスカーが唐突に言う。


 いや、俺の反応を見たら、生まれ変わりを研究しているオスカーならそう思うだろう。


 マリアナは薄い金色の髪をしていた。

 ふわふわの髪が抱きしめるたびに俺の腕をくすぐる。


 さっきの女の子は茶色い髪でウェーブはかかってはいたが、マリアナほどに柔らかくはなさそうだった。


 何故、マリアナだと思ったんだ?


 見た目は全然違う。


「彼女は、ミリア・ヴァイス。16歳で上級科からの転入生だ。マリアナが死んだ年に生まれている」


「……ミリア……ヴァイス……」


 どこかで聞いた名前だと思った。


「……俺には、彼女がマリアナと似てるようには思えないが……。お前が、言うならきっとそうなんだろう」


「俺は別に……」


 オスカーは、彼女——ミリアがマリアナの生まれ変わりだと、決めつけてしまう。


 俺にも、分かっていないのに。


 だが、この17年間で初めて、心が動いた……彼女は本当にマリアナの生まれ変わりなのか?


「これから彼女は上級科一年生になるんだ。俺の魔力力学の授業にもでるし、お前の魔力判別学や禁呪予防学の授業にもでてく。あまり変な様子を見せるなよ」


「それはオスカーだけだろう。俺はマリアナの生まれ変わりに会いたいわけじゃない。俺のマイナー学科の授業はずっと先だから、それまで顔を合わせることもない」


「本当か? エルヴィン、自分がどんなに動揺していたか分かってないんだろう」


 分かってる……。


 あの時……マリアナに……目が離せなくなって、その場を動けなくなって……。


 オスカーが先に出てこなかったら、ずっとあの場で立っていたと思う。


 ただ、彼女が出てきても、声をかけることも出来なかっただろう。


 自分が何をしているのかも、何をしたいのかもわからない。


 生まれ変わったマリアナには興味がないのに、心だけは揺さぶられてる……。


 次に、ミリアに会った時、自分がどうなるのか、わからない……。


「生まれ変わりってなんなんだ……見た目も生きてきた時間も環境も違うんだ、別人じゃないのか……」


「エルヴィンも、興味が出てきたか!」


 オスカーは、嬉しそうに自分の著書を出してきた。


「自分が誰かの生まれ変わりだと言う人は、魔力の形が同じだと分かった事が、生まれ変わりに気づいたキッカケだと言う人が多いな。お前の魔力判別学でも言ってるだろう?」


「俺は教科書に書いてある事を教えてるだけだ。それが正しいかどうかは興味がない」


 魔力の判別にはいくつかの分類方法があって、過去の偉人の逸話などからどんな魔力だったのかかなり細かく割り出されている。だから、似た魔力のものは前世だと言い出す事がある。

 完全に同じ魔力かは過去に生きたものと比較はできないから真偽は不明だ。


「生まれ変わりの記憶を持っていて、若くして死んだ娘が、家族に会いに来たり、恋人に会いに来たりすることは多い」


「その家族と恋人は裕福な家なんだろう」


「……そう言う場合が多いだけだ。生まれ変わった姉が昔の弟を探し出して、貧困で瀕死だった所を助けた例もある。この本に例がたくさん載ってる」


 オスカーは著作を渡そうとする。


「俺の研究房を探せばある」


「探す気はないんだろう」


 仕方なく受け取ったが、何冊目だ?


「だいたい、生まれ変わりは古代の方が信じられていたんだ。過去に封印されて引き抜ける者がいなかった剣を、子供が引き抜いたり。生まれ変わって魔力が同じなら、解けるようになってる封印がたくさんある。人が増えすぎて、生まれ変わった者が封印に近づける機会が減ってるだけなんだ!」


 ——俺は学園に封印されている禁忌の魔法の封印の事を思う。


 十人の魔法使いと十の魔法がなければ解けない封印が、俺には簡単に解ける。


 学園の初代学長でこの国の第三王子だったアルヴィン・アストリアと俺に魔力が同じだかららしいが——。


 オスカーが言っている事が正しいわけじゃない。


 たまたま同じ魔力の波形を持つ者が封印された剣を手に取れば封印は解ける。


 魔力の波形が似ていれば、同時代に生きている者同士でも似た性格や容姿である事が多い事は知られている。


 たまたま剣を抜いた生まれ変わりと期待された少年が、封印した者と同じ性質を持ち、期待された行動をする可能性は高いだろう。


 偶然ではないと外から判断できる者がいなければ、本人の思い込みが全てになる。


 魔力の波形が同じでも、生まれ変わりか、偶然か、半断する方法がない。


「マリアナだって、『前世の私なんて知らない』『思い出したくない』と言って否定していたんだ——」


「……なんだ……それ、マリアナが……前世と言ったのか……!?」


 オスカーが驚いて、怒りの表情を俺に向けた。


 ……マリアナが死んだ朝の事は誰にも話していない。


「エルヴィン……っ!」


 俺は黙ってオスカーの部屋を出た。


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