武の輪郭
祖父母は娘夫婦の政江・始と孫の実花を呼んで武の話を説明した。祖母はこまめにメモをしたためていた。
高橋武は現在は二十四歳。福祉関係の大学を卒業しているが、在学中に路上演奏を繰り返していた。中学生からギターを始めた。これまでに三度ほどバンドを組んだが解散している。喧嘩しなくても方向性の違いや興味で離合集散する事は珍しくない。
知識不足で著作権や税について役所等から叱責を受けるが直ちに改める。事務所や配給会社の応募に募集するが落選したり受かったりを繰り返す。自営した方が苦労は耐えないものの、気ままにやれる。
音楽は革新性も求められるが、過度な暴力性や犯罪性は排除される。歌詞がどんなに痛快であっても、犯罪を助長したりある集団や個人を追い詰めたりする内容は糾弾される。それでも正当な社会批判を試みる音楽家はいる。
武は他にも市場戦略や業界の基礎知識について解説した。
話を聞き終えた政江と始はいくつか質問した。武の年収はどれほどで、優花と実花が組めばどれだけ利益になって還元されるのか。どれほど二人は武に拘束されるのか。武自身は本当に誠実なのか。そうであっても他の男が近寄ってくるのではないのか。
祖父は腕を組み、祖母は首を傾げながら答えた。武の言い分だと三人が十分に自活出来るほどの収入が期待できる。活動方法や時間は二人に任せる。卑劣漢は武にとっても迷惑なので、なるべく避けている。
祖父母と両親は実花に振り向いた。実花は、
「高橋さんが悪い人でなくても、私は嫌だよ。だって私はそろそろ受験生でしょ」
政江は頷き、
「そうね。学歴は今でも意外と大事だし」
「学閥や学歴よりも学びの習慣自体が大事だ。大学で真剣に学ぶ姿勢が問われるんだよ」
始も同意した。祖母は武からもらったCDとDVDを出して、
「とりあえず、聴いてみる?彼と組まなくても時々ちょっと気晴らしに聴くぐらいなら良いんじゃないの?」
五人は聞き始めた。何となく祖母と母の政江と父の始は夕食の準備を始めた。
祖父と実花はテレビ画面で動画を眺める。現代的な音声の後に落ち着いた旋律が流れる。武の姿勢は派手でも奇抜でもない。淡々とギターを弾いている。しかし、声量はギターに負けず大きく、迫力がある。足で調子を取りながら複雑な旋律を奏でる。
ギターの弦は六本、ベースは四本が基本だ。それにギターは一つの音を一度出すだけでも左手で三箇所も弦を押さえて右手で全ての弦を一気に弾く。そうでない方法も多いが、それを知った姉の優花が、
「複雑だね」
と、驚嘆していた。まだ優花が中学生の時だ。優花がベースが面倒と言いながらギターに踏み込めないのはそういう理由もあった。ベースは一つの音を一度出す時に左手で一つの弦を押さえて右手でその弦を弾くのが基本だ。玄人のベーシストはそれ以外の方法も愛用するが、優花はその基本を気に入っている。大事なのは速さとリズムだ。
実花は動画の武の手を見つめる。非常に様々な弾き方をしているのが、ギタリストでない実花でも分かる。
実花は優花にSNSで武の話と動画について伝えた。




