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十二月の始めに武は淑彬と賢美を連れて虹倉一家の所に来た。近くの宿泊施設で寝泊まりするが、虹倉一家の倉庫二階で三日ほど二時間ずつ練習をする。十年ぶりなので虹倉姉妹はもっと練習をしたかったが、家業と年末年始の準備がある。
再開したSNSで武は姉妹の音源を確かめたが、腕は全然錆びていない。むしろ表現が豊かになっている。保育士の小林も素人以上だ。
今回は保育園で冬休み前の催し物として披露する。最初に園児達が二曲歌い、次に小林が単独で一曲、最後に三人が二曲演奏する。園児達が歌う時は小林がピアノを伴奏する。保育園と相談して賢美も園児達と一緒に歌うことになった。賢美は音源を聴きながら淑彬と一緒に練習をしている。
この三日間、武は淑彬と交代で賢美の相手をしながら午前中には農作業を手伝い、午後には虹倉姉妹と練習する。互いに音源を送り合っているので準備は出来ている。早くも一日目から形になっていた。一曲目は虹倉姉妹が過去に創った楽曲、二曲目は武の最新作。最新作は日本語以外にも英語と韓国語が含まれているが、姉妹は日本語の部分しか歌わない。
その隣で淑彬は賢美と優時と正春に歌の指導をしていた。スマホとスピーカーで伴奏を流しながら手本を披露して三人に歌わせる。武達とは互いに邪魔にならないように休憩を交互にとった。
武と姉妹の様子をうかがっていると、淑彬は不思議な感覚に襲われる。武は姉妹を同時に恋慕したと白状した。姉妹もまた武を同時に恋慕していた。三角関係どころか和気藹々としている。演奏の準備という緊張と責任を持ってはいるが、三人の顔つきには余裕が有る。演奏もどんどん改良されていっている。
姉妹は武を共有し、武も喜んで共有されている。そんな気がした淑彬は背中に冷えを感じて身体を震わせた。人間の共有は想像するだけでもおかしい。
傍らで賢美が優時と正春に韓国語を教えている。日本に住んでいるので武と淑彬は賢美に日本語を中心に教えてきたが、韓国語も少しずつ教えている。優時と正春は慣れない言語にキョトンとしている。二人は一生懸命に賢美の真似をしようとするが注意される。日本人には韓国語は発音が難しいのだ。
淑彬はニコリと笑みを浮かべる。考え直す。今の武と虹倉姉妹には恋慕が無い。人の共有も悪くないのかもしれない。淑彬は子ども達に練習を再開させる。子ども達は素直にそれに従う。賢美は二人の男の子よりも二歳歳下だが、声量も表現力も負けていない。優時は少し悔しがり、正春は羨ましがっている。武も姉妹も聴きながら楽しそうにそれを見ている。




