再結成
虹倉一家は翌朝も農作業をしている。優時と正春を送って戻った後、正史は実花に、
「二人は大丈夫だ」
一家は安堵する。作業をしながら政江と始は来年にアパートに引っ越しして半ば引退するかどうかを話し合っている。アパートから実家に通って娘達を手伝う予定だ。両親は七十を過ぎている。責任と不安を感じるが、老親を無理させるわけにもいかない。十分な経営と采配をしている自信は無いが、アルバイト仲間も夫の時雄も妹一家も協力し合っている。
仕事が一段落して休憩している優花に時雄は、
「武さんは良い人だよな。君達を選ばずに引き下がったんだから」
「そうだね」
優花は相槌を打った。時雄と正史を見比べると、二人共、穏やかな顔をしている。昨晩は緊張した面持ちだった。恋慕が再発するのではと疑ったのだろう。優花の隣で茶を飲んでいた実花が苦笑いしながら時雄と正史に、
「二人共、妬かないでよね」
「ハハハ。仕方ないだろ。あんなにカッコいいからね」
正史が気さくに言い返す。時雄は、
「大丈夫だよ。もう、俺達は割り切っているから」
正史は皆を見渡して、
「優花ちゃんと実花、武さんともう一度バンドを組んでみたら?淑彬さんも一緒に」
優花は頭を振り、
「あの夫婦は完全にプロだよ」
「この間も小林さんが君達を絶賛してたよ」
時雄が煽る。実花は困った顔をして、
「SNSをブロックしたまま音信不通になっちゃったんだよね」
「もう、帰っちゃったんじゃない?」
優花が言った。
政江と始の驚く声。その後から、
「お忙しい中すみません、ちょっと良いですか」
と、武の声。二組の夫婦が振り向くと、武と淑彬がこちらに手を振っている。賢美が淑彬と武の間でこちらを黙って見つめている。政江が引き合わせる。武は、
「一度だけ、組んでみないか?」
二組の夫婦は互いに顔を見合わせる。
「嫌でなければ日程と場所はそちらに任せるよ。もう、俺はブロックを解除した」
「「おおっ」」
時雄と正史の感嘆の声。淑彬が微笑んでいる。優花は、
「分かりました」
「それじゃあ失礼するよ、邪魔したね」
と、武が言うと淑彬と賢美を連れて立ち去った。優花と実花は顔を見合わせる。どちらも不安と喜びの混じった複雑な笑顔。二人も武のSNSのアカウントをブロック解除した。
虹倉一家はまたも仕事にとりかかる。穏やかな再結成である。
武は運転しながら淑彬に、
「本当にこれで良いのか」
「うん」
淑彬は短く返事をした。武の告白を聞いた翌朝、先程朝食を摂った時に淑彬は思いついた。一度だけ敢えて三人を引き合わせよう。三人の恋慕の再熱や気まずさが気にならないわけではなかった。けれども三人の現在の音が聴きたくなった。それを聴けば全てが分かって全てに納得できる気がした。




