三人への不安
優花と実花は武達を夕食に誘った。時雄と正史には武について簡単に説明し、優時と正春には賢美に優しくするように諭した。
時雄と正史は以前に妻二人から武についてぼんやりと聴かされている。音楽で生計を建てているのに素人の自分達の可能性を見出して組んでいた時期があった。古いCDもその時に作った。時雄と正史は音楽に詳しくなかったが、CDを聴く度に惹きつける何かを感じている。
優花と実花の顔が何時もより明るい。十年以上も若返ったようだ。夕食を準備する上機嫌な母親二人に優時と正春は喜んだが、不安そうな父親二人も気になった。嫉妬の不快さは無いが心にしこりを感じる。妻二人を手伝いながら時雄と正史は顔を見比べる。祖父母の政江と始は孫二人の相手をしている。
武達が来た。淑彬と一緒に慇懃に挨拶する。賢美も淑彬の後ろに隠れながら頭を下げる。大人達が笑顔で迎える中、優時と正春はキョトンと賢美を見つめている。居間は広かったが満席だ。子ども三人は政江と始と一緒に、大人達六人で固まって食べた。
淑彬は賢美を盗み見ながら虹倉姉妹とその夫に質問していく。四人は答えていく。時雄も正史も美形で愛想の良い淑彬にドギマギしながら、自分達の経歴や妻との生活を語っていく。情熱的な変化は無いけれど、事件も事故もなく、平穏に暮らしている。息子も無事に育っている。妻二人は言いたい事を遠慮なく主張するが、勤勉で妥協する時は妥協する。姉妹の仲が睦まじいので正史と時雄の間も深まった。
賢美は不安そうに両親を見つめている。政江と始が優しい声で食事を勧める。午後には海で遊んできたので空腹だ。賢美は言う通りにした。想像以上に美味い。賢美の顔が明るくなり、どんどん頬張っていく。優時と正春は驚いた。歳下の女の子が自分達と同じぐらいの量と速さで食べるのだ。優時が、
「ゆっくり噛んで食べろよ」
賢美は驚いて中断する。始は苦笑いして、
「もっと優しく言わないと」
「喉を詰まらせたらヤバいよ」
正春も心配する。恥ずかしくなった賢美は顔を赤くしてゆっくり食べ始めた。賢美はまだ四歳だが、落ち着くと、行儀の良い食べ方をする。始と政江は心底感激した様子で褒めた。優時も正春も今までそこまで褒められたことがない。二人は軽い嫉妬を覚えた。政江と始は賢美の様子をうかがいながら少しずつ質問していく。賢美は答えていく。
賢美が優時と正春にも会話を始めている。緊張がほぐれたようだ。二人の男の子の祖父母は人柄が良いようだ。淑彬は大人達を見渡した。優花と実花が興味津々と武に質問していく。武も楽しそうに答える。今の武の顔は淑彬に心を許した時に見せる顔だった。淑彬は心に砂の入った気持ちになった。軽い嫉妬。けれども姉妹への疎ましさは感じない。武は二人から拒まれたと言っているが、愛の告白を一人ずつして拒まれたのだろうか。それともどちらかを愛してもう片方に嫉妬されて三角関係がこじれたのだろうか。不快よりも不可解だった。
姉妹の夫二人も困った顔をして三人を見比べている。彼等も複雑な気持ちのようだ。先程、淑彬に対して赤面しながら接していた。ファンがアイドルに抱く淡い恋心と同じだ。しかしそれはすぐに消えて武への不安が二人の心を占めている。淑彬は察した。




