不可能な共有
六月の晴間の昼頃。実花は優花のアパートに来た。翌々月の夏休みに両親が設定した合コンについて話し合う為だ。SNSで連絡を頻繁に取り合っていたが、対面の方が良いと二人は判断した。
去年の夏休み以来、姉妹は武と稲島とは一度しか会っていない。三月に渋谷の喫茶店を借りて三時間ほど練習しただけだ。合コンの話について稲島は祝福していたが武は寂しがっていた。
合コンが成功して婚約が成立すれば武と会えなくなる。音楽も出来なくなる。姉妹はそんな気がした。
昼食後。優花は、
「今回の合コンが上手くいくとは限らないよね」
「でも、私達は結婚した方が良いでしょ」
実花が不安そうに言い返す。優花は、
「そうだけどさ、『結婚の強制なんてセクハラだ!』と怒る人達を見てると最近は無理しなくても良いのかなと思ってる」
「え?お姉ちゃん、結婚しないの?」
実花が驚くと優花は、
「結婚したいけど自信無い。美人で家庭的で仕事出来るのに独身の先輩がいるから」
「そういえばウチにワンオペ育児にいつも腹を立てている先輩が何人かいる」
思い出した実花は苦い顔をする。結婚する前もした後も女には重圧だ。
優花は、
「どうする?」
と、訊くと実花は、
「真面目に接するしかないでしょ。向こうも真剣だろうし」
「そうだね。でも、仮に婚約が成立したら音楽を諦めるしかないのかな」
優花が残念そうに言うと実花は、
「武さんとも会えなくなるのかな」
と、暗い声。優花は、
「あ、やっぱり実花も武さんの事が気になるんだね」
「うん。お姉ちゃんは……まだ好きなの?」
実花が躊躇いがちに尋ねると優花は宙を睨む。実花は逆鱗に触れたのでないかと後悔する。しかし優花は、
「こんな事を言うと実花と武さんに悪いけど、武さんを実花と私が共有したいんだよ」
実花は息を飲んだ。優花は済まなそうに俯いている。実花は、
「酷い。武さんに失礼だよ。私達、一度は諦めたんだし」
「まあそうだけど」
優花が顔を上げて実花を見やる。実花は困った顔をしている。優花は、
「別に私達が武さんをどうこうするわけじゃないけどね」
実花は天井を見上げて、
「武さん、もう彼女とかいるんじゃないのかな」
「まあ、そうだね」
優花は相槌を打った。
二人は武への未練を捨てて合コンに専念することにした。職場に休暇を申請して、四日ほど許可が下りた。両親は一週間ぐらいジックリと見定めるべきだと考えていたが、姉妹の職場に迷惑をかけるわけにもいかない。
姉妹は武に合コンに専念する旨と結果を報告する事を伝えた。
正直、二人共、合コンなんか失敗すれば良い。武はいつの間にか呪ってしまった。それに気付いた武は自分で驚いた。武が嫉妬しているのだ。
優花と実花に優劣は無い。どちらも対等な相棒だ。二人共、音楽を続けるべきである。そこは変わらない。しかし寂しさとは違った心の疼きを感じる。
姉妹を同時に恋慕してしまったのか。武は動揺した。同時に複数の女を誘惑し浮気を当たり前にしてきた白崎を武は見下してきた。その武が似た様な状況に陥っている。
気色悪い。武は自己嫌悪を感じた。




