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虹倉姉妹  作者: 加藤無理
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軽い失恋

 吉田は心に引っ掛かりを覚えている。白崎の火遊びが鳴りを潜め、代わりに白崎は仕事や練習に専念している。メンバーに厳しく叱咤しているけれども、むしろサー・オーシャンの士気は高くなっている。それはマネージャーとして確かに喜ばしい。


 しかし舞台裏では白崎の笑顔が減っている。以前は睡眠を億劫にしていたのに最近の私生活では食事よりも惰眠を貪るようになった。吉田は心配して白崎に心療内科を受診させた。医師は一週間ほどの静養を勧めた。


 吉田は日程調整したり関係者達に謝罪した。心労による鬱病は昨今珍しくないので表立って批判する者はいなかった。吉田は更に白崎にスマホの使用を制限させた。無論、断酒もする。サー・オーシャンのメンバーも時折見舞いに来る。白崎は大袈裟だと思ったがそれに従った。


 虹倉姉妹は今でも仕事と勉強を優先させながら音楽活動をしている。一流のアイドルであるはずの白崎が静養するのは矛盾している。白崎はもどかしさを感じた。


 姉妹に再度会おうとは思わない。会っても虚しいだけだ。姉妹を誘惑するつもりだったのに武に負けた。更には姉妹は吉田の信頼を勝ち取っている。白崎は悔しさよりも虚しさを覚えた。人生節目の挫折。


 所詮、女なんて才能有る美形を先を争って求める生き物だ。女の敵は女。白崎を巡っての女同士の争いを白崎本人は間近で見てきた。しかし、虹倉姉妹にはそれがない。二人がフェミニストだと何処かで聞いたが、それも違う気がする。白崎は天井を眺めながらボンヤリと思考した。


 ホームヘルパーを雇っているので家事をしなくて良い。仲間達が何度も見舞いに来る。皆、「頑張れ」ではなくて「焦るな」と慰める。白崎は大袈裟だと思った。白崎は鬱病ではなくて軽い失恋をしただけだ。


 吉田も足繁あししげく家に来ていた。二人の時に吉田は、

「白崎君。女に敬意を払わなければ最後に傷付くのは男だよ」

 と、諭した。ここ数日、白崎を観察していた吉田は白崎の敗北に気付いていた。白崎が黙っていると吉田は、

「女を対等なビジネスパートナーだとちゃんと思わなければ女も男を見下すよ」

 と、再度諭した。白崎は暗い声で、

「分かってるって、吉田さん」

「明日また受診して先生の許可が下りれば復帰しよう」

 吉田は軽く白崎の肩を叩くと立ち上がる。白崎の家を後にした。


 恋愛にウブな武だからこそ、虹倉姉妹を対等な相棒として扱い、信頼関係を築けた。白崎は虹倉姉妹と武の事が分かった気がした。拍子抜けをしたが気が楽になった。近日中に復帰出来るだろう。

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