白崎の嫉妬
十二月の上旬。東京都・新宿区内にある小さな喫茶店を吉田が貸し切って白崎と虹倉姉妹を引き合わせた。武と稲島も同席している。吉田自身がもう一度姉妹の意思を確認したかった。吉田は武と稲島を通じて姉妹への期待を語っている。必ずしもサー・オーシャンと組む必要はないし、武と一緒に仕事が出来れば尚良い。
吉田は再度、
「何回も上司達と貴方達の音声を聴いてます。音楽に専念したくなったら何時でもウチに来て下さい」
優花は恥ずかしそうに、
「恐縮です」
実花は言いづらそうに、
「滑り止めみたいにそちらにうかがうのは大変失礼ですよね」
「そんな事はありません」
吉田はキッパリと言った。実花が刑務官にも入国管理官にもなれなかったら音楽に専念する。夢の様な選択肢だ。姉の優花にとっても良い話だ。三年ほど働いている勤務先に大きな不満は無いが、転職にも挑戦してみたい。
稲島と武は契約について吉田に確認していく。吉田はノートパソコンの画面を見せながら淀みなく答えていく。誰がどの権利をどれくらい持つのか。報酬はどれほど期待出来るのか。
白崎はじっと姉妹を観察している。姉妹は緊張しているが、受け答えはシッカリしている。吉田達の話も真面目に聴いている。姉妹は時折目配せして、優花がたまに三人に質問してくる。白崎には興味がない。
白崎は苛立ちを覚えた。武への親しみを込めた姉妹の視線が更に嫉妬を掻き立てる。姉妹は武に淡い恋心を抱いているようだが武を取り合うような三角関係になっていない。
ふと視線を感じて優花は白崎に振り返る。白崎が睨んでいる。優花は怯えて目をそらした。実花は白崎に振り向きもしない。
武への奇妙な敗北感。白崎は机の下で指を組んだ両手に力を入れる。今まで白崎に好意を抱かない女はいなかった。若くても年増でも白崎に熱い視線で振り返ってきた。男達からの妬み。
若さに翳りが出てきたからか。ならば武も虹倉姉妹に興味を持たれない。それでは虹倉姉妹の性格と立場がそうさせるのか。今まで似た様な女達を恋に狂わせてきた。白崎は自問自答した。
武は白崎に勝った事に全く気付いていない。そもそも武は虹倉姉妹の好意に気付いているのだろうか。白崎は会話に全くと言ってよいほど参加しなかった。
帰り際に吉田は呆れて、
「失礼だよ白崎君。皆真剣に話してたのに。虹倉さん達を見習わなくちゃね」
白崎は溜息を吐き、
「武はあの子達を共有しているんだ」
「酷いな。どういう意味?」
吉田は叱りながらも戸惑った。白崎は、
「あの子達は武が好きなんだよ」
「何を根拠に。例えそうでも二人は将来の事を優先しているじゃないか」
吉田は真剣に取り合わなかった。




