落ち着く
九月の下旬。激しい台風が通り過ぎた直後の東京都・池袋。そこにある焼肉屋の二階を吉田は手配して貸し切りにしていた。サー・オーシャン五人の他には稲島と武、韓国の男性アイドルグループ三人、吉田をはじめとするマネージャー達の二十人ほどが来ていた。
互いに自己紹介と握手をした後、いくつかに分かれて焼肉を堪能した。武は稲島と吉田と白崎と一緒のテーブルについた。隣のテーブルは韓国のアイドル二人と彼等に対抗心と羨望を持つサー・オーシャンのメンバー二人。後ろはマネージャー達四人。韓国語と英語と日本語が飛び交う中で武達は日本語で会話していた。
稲島と吉田は焼肉と野菜を焼きながら韓国のアイドルに驚嘆していた。表現される技術と情緒だけでなく、韓国のアイドル達は過酷な受験勉強や兵役もくぐり抜けてきた。それを武はぼんやりと聴きながらアイドル達を眺めていた。意外にもアイドル達は和気藹々としている。
白崎は溜息を吐くと、
「俺達、後少しで三十歳だよな」
武は向き直った。白崎が自分の年齢を気にするのは意外だ。武は、
「何があったんだ」
「俺もそろそろ落ち着いた方が良いのかなと最近思ってる」
白崎は宙を睨みながら答えた。武は吉田に詳しい話を目で促した。吉田は、
「今すぐに引退するのはまだ早いけどね」
武は白崎を見据えて、
「酒とか女遊びとか控えるんだな」
白崎は不快そうに目を細める。武は、
「それが相談なんじゃないの?」
「半分違う。虹倉姉妹ともう一度会わせてくれないか?」
武は眉間に皺を寄せた。稲島も眉を寄せる。吉田は、
「御二人が安全な状況で会わせて欲しいそうなんです。真面目な御二人と会えば白崎君が本当に落ち着くんじゃないかと僕も思う」
武は吉田と白崎を見比べた。吉田は白崎の醜聞を揉み消してきたが、悪漢ではない。いつも余裕を振りまいた笑みを浮かべている白崎は真顔だ。武は、
「二人に伝えておくけれど、期待しないで欲しい。会いたがらないかもしれない」
吉田が困った顔をして、
「けっこうスキャンダルを説明してしまったの?白崎君を嫌うのは自由だけど炎上は困る」
「二人は元から男性が苦手なんだよ」
稲島が助け舟を出す。吉田は少し安堵して、
「そうでしたか。まあ、嫌がれば諦めよう、白崎君」
白崎は不満そうに頷いた。
武は白崎が未だに下心を持っているのではないかと疑った。
焼肉も野菜も美味い筈だが物足りなさを感じた。けれどもサー・オーシャン五人と韓国のアイドル達が一曲ずつ熱唱したおかげか、場が一気に盛り上がった。武は韓国人達の表現力に驚嘆した。韓国語と日本語と英語の混ざった複雑な歌詞を情緒豊かに表している。
最後に稲島と武はマネージャー達からギターを借りて自分達の楽曲を披露した。二つのアイドルグループ達の反応は悪くなかった。韓国人の一人が武とSNSのアカウントを教え合った。




