和気藹々とした四人
始が娘二人を心配して白崎についての醜聞を伝えていた。単に武からの伝聞ではなく、始が自分で確かめてみると、確かに訴訟を何件か起こされていた。全て勝訴しているが火のない所に煙は立たぬ。
姉妹には意外だった。自分達の腕前を認めただけではなく、性的な興味で白崎が近付いた。いくら白崎が軽薄な男でも、女を選り好みするだろう。白崎は女優やアイドルと何人か交際をしていた。自分達は凡人だ。誘惑された事に気付いた姉妹は驚きつつも不快に思った。
特に実花は、
「幻滅。最悪」
と、罵った。優花は、
「これで勉強に精が出て良かったね。多分、向こうから近寄ってこないよ」
と、慰めた。実花は公務員試験の為の予備校に通っている。優花も多忙だが、優花の方が家事をこなしている。武も稲島も姉妹に余裕が出てきたら音楽を再開しようと慮っている。姉妹は半月に一度ほどスタジオを借りて練習するので精一杯だった。
時が過ぎ年末年始には姉妹は帰省した。祖父母は老いているが頭はまだ冴えていた。姉妹は安堵した。アパートに戻ると仕事と勉強。特に実花は勉強を続けていた。武と稲島とはSNSで頻繁に連絡を取り合ってはいるが、去年の十月以降、会っていない。
再会したのは盆休み前だ。東京都内のスタジオで一日借りて練習をする。何処かで生演奏会を開くわけではないが最後に録音する。姉妹の腕は錆びつくどころか味わい深くなっている。仕事と勉強での苦労や将来への不安が絶妙に糧になっている。
更に姉妹は自分達の楽曲以外でも歌いながらの演奏に挑戦した。最初は戸惑ったが、一曲ずつ何回も集中して取り組むと二曲ほど出来るようになった。稲島が、
「黙って演奏するより気分が良いだろ」
「それ以上に緊張しちゃいますね」
実花が自信なさそうに答えた。四人は真面目だが和気藹々としながら練習をした。
武は旅費と交通費とスタジオ代を負担するだけではなく、姉妹に手当を出した。担当の税理士と相談して妥当な額を銀行口座に振り込む手続きもした。電子マネーが互いにとって手軽だったが、銀行振込の方が確実だった。優花は実花に振り向いて、
「かなりもらえたね。家賃二ヶ月分だよ」
実花は頷く。
片付けを終えて四人は解散する。次回は未定だ。けれども武は寂しくはなかった。実花が公務員試験に受かって就職先が決まるまで一年も二年もかかるが気にしなかった。女の二足の草鞋は大変だが、無理強いせずに周りがそっと支えれば良い。
武のスマホが震えた。武が覗くとSNSで白崎から連絡が来ていた、
「図々しいけど相談がある。おごるから来てくれないか。場所は……」
都内の焼肉屋が指定されていた。武は断ろうと思ったが、白崎の考えと言動が気になる。単独で白崎に会うのは不安なので稲島も誘う。




