優花の苛立ち
優花は武に実花が疲労が取れないから休んでいると伝えた。武は困った顔をしたが、受け入れた。
武が今回の楽曲を一通り弾く。優花は耳の神経を研ぎ澄ませながら観察する。昔の自分と今の自分を比べながら未来に足を向ける作品。
二回目は二人で合わせて弾いてみる。優花は基本をしっかり押さえているが簡単な方法で合わせてみる。悪くはないが物足りない。二人はそう感じた。何度も合奏して試行錯誤する。
昼前には様になってきた。優花は満足した。しかし武は、
「実花ちゃんのドラムが無しなのが勿体ないね」
少し不満気味だ。優花は睨んだ。武は驚いて、
「あ、ごめん。優花ちゃんを否定したわけじゃないんだよ。昨日まで三人でやってきたからね」
「すいません。そうですよね」
暗い声で優花も謝った。その直後に思い出して、
「昼過ぎには少しだけ、実花も参加します」
武は微笑み、
「それは良かった。無理しないで欲しいけど」
優花は複雑な気持ちになった。苛立ちに似た感情。何故、そんな感情を抱くのか優花自身には分からなかった。
昼過ぎに優花は本当に実花を連れてきた。武は満面の笑みを二人に向ける。二人は気まずそうに目を泳がせる。
優花がいつもより実花に厳しめだったが午後は想像以上の出来だった。武は満足した。録音もできた。姉妹はクタクタになっていた。武は、
「疲れているなら明日は午後だけにする?」
「はい。すみません。私達、そうします」
優花が答えると実花は驚いた。武は、
「お大事に」
と、案じた。
宿泊施設に戻った時、実花は困惑気味に尋ねた、
「お姉ちゃん、どうして怒ってるの?」
いつもの優花は温和だ。特に実花には優しい。しかし今日は顔が強張っていた。何度も注意してきた。優花は俯いて、
「怒っているというよりは……」
言葉を濁す。実花は優花を見つめる。優花は、
「もしかしたら私も武さんのことを好きになったのかもしれない」
「え!」
実花は驚いて声を漏らした。優花は実花に説明した。
振り返ってみれば今日、初めて武と二人きりになった。最初は緊張したが練習しているうちに有頂天になってきた。騒いだわけではないけれど、実花の存在を指摘されて不快を覚えた。それは妬みだと今、気付いた。
話を聴いた実花は低い声で、
「この後、どうするの?お姉ちゃん」
ベッドに座っていた優花は、
「略奪するつもりもないけれど、キッパリ武さんを諦めて実花に譲るのも違うんだよね。武さんは物じゃないし」
「そうだけど……お姉ちゃんは嫉妬しているんでしょ」
実花が怯え気味に言った。優花はぎこちない笑みで、
「まあね。でも、漫画のキャラみたいにヒステリックにならないよ」
二人は溜息を吐く。優花は、
「そうだ。武さんの恋愛遍歴を訊いてみようか」
「なんで?武さん本人はモテないと言ってたよ」
実花が尋ねると、
「幻滅するか諦めがつくでしょ」




