実花の変化
四曲目も無事に終わる。五曲目に挑戦する前にこの日は一日休んだ。充実しているが想像よりも疲労は溜まっている。
優花は遅く起きた。北海道は真夏でも涼しいはずだが、温暖化現象の影響で近年は暑い。晴間は冷房を必要とする。それでも関東圏よりは過ごしやすい。
実花がベッドの上にぼんやりと座っているのに優花は気付いて、
「どうしたの?」
実花は暗い顔で振り向き、
「お姉ちゃんは武さんと仲良いよね」
優花はベッドに降りて、
「そりゃあ今、バンドを組んでるからね。実花は武さんが嫌いなの?」
「なんかねぇ。何とも言えないんだよ」
実花は曖昧な態度をとった。優花は心配そうに実花の顔を覗き込み、
「本当に嫌いなの?けっこう心を開いていると思ってたけれど」
実花は眉を寄せて、
「そうじゃないんだよね。なんかさ、フラレた時を思い出しちゃってさ」
実花は中学生の時に淡い恋心を抱いた時があった。同じ同窓生の大人しい男子だ。その男子は美形でもなければ体力が有るわけでもなかった。けれども賢くて気配りが上手だった。あまり目立たなかったが、実花は軽い恋慕を持った。けれども、
「俺は権利ばかりを主張する女は嫌いなんだよ」
と、その男子は他の男子に愚痴をこぼしていたのを聴いて、実花は片思いを止めた。実花を非難しているように聞こえたからだ。その日に帰宅して優花にその悔しさを吐露した。男子への暴言も吐いた。それ以来、実花は益々恋愛に消極的になった。
優花は不思議そうに、
「武さんはアンチフェミではないと思うけど」
「そうじゃなくて。良い人だなあと何となく思うんだよね」
実花が言い直す。優花はぼんやりと宙を睨み、
「武さんが良い人ならなんで思い詰めた顔をしてたの?」
実花の目が泳ぎ、呟くような声で
「キモい言い方だけどさ、武さんの事が好きになった」
優花の目が丸くなった。青天の霹靂。それに武は実花よりも七歳も年上だ。
実花は暗い声で、
「だからって別にどうこうするわけじゃないけれど、明日からの練習が気まずいんだよね」
「そういうことか」
優花も暗い声で相槌を打った。優花は着替えると朝食を摂った。実花は既に朝食を食べていた。わずか数日の実花の変化。朝食は決して不味くなかったが、優花は味を全く覚えていない。
せっかくの合宿なのに実花は予想外の感情で集中出来ないでいる。さりとて武に事情を説明するわけにもいかない。優花は困った。
姉妹は近くの公園に行ってぼんやりと過ごした。屋内だと気分が塞ぐが、さりとて動きすぎると更に疲れる。二人はベンチに腰掛けて樹木を眺める。時折、喋る。
明日も実花は休もうとした。しかし優花は少なくとも一時間ぐらいは参加すべきだと諭した。実花は昼過ぎ少し参加することにした。




