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虹倉姉妹  作者: 加藤無理
19/58

実花の変化

 四曲目も無事に終わる。五曲目に挑戦する前にこの日は一日休んだ。充実しているが想像よりも疲労は溜まっている。


 優花は遅く起きた。北海道は真夏でも涼しいはずだが、温暖化現象の影響で近年は暑い。晴間は冷房を必要とする。それでも関東圏よりは過ごしやすい。


 実花がベッドの上にぼんやりと座っているのに優花は気付いて、

「どうしたの?」

 実花は暗い顔で振り向き、

「お姉ちゃんは武さんと仲良いよね」

 優花はベッドに降りて、

「そりゃあ今、バンドを組んでるからね。実花は武さんが嫌いなの?」

「なんかねぇ。何とも言えないんだよ」

 実花は曖昧な態度をとった。優花は心配そうに実花の顔を覗き込み、

「本当に嫌いなの?けっこう心を開いていると思ってたけれど」

 実花は眉を寄せて、

「そうじゃないんだよね。なんかさ、フラレた時を思い出しちゃってさ」

 実花は中学生の時に淡い恋心を抱いた時があった。同じ同窓生クラスの大人しい男子だ。その男子は美形でもなければ体力が有るわけでもなかった。けれども賢くて気配りが上手だった。あまり目立たなかったが、実花は軽い恋慕を持った。けれども、

「俺は権利ばかりを主張する女は嫌いなんだよ」

 と、その男子は他の男子に愚痴をこぼしていたのを聴いて、実花は片思いをめた。実花を非難しているように聞こえたからだ。その日に帰宅して優花にその悔しさを吐露した。男子への暴言も吐いた。それ以来、実花は益々恋愛に消極的になった。


 優花は不思議そうに、

「武さんはアンチフェミではないと思うけど」

「そうじゃなくて。良い人だなあと何となく思うんだよね」

 実花が言い直す。優花はぼんやりと宙を睨み、

「武さんが良い人ならなんで思い詰めた顔をしてたの?」

 実花の目が泳ぎ、つぶやくような声で

「キモい言い方だけどさ、武さんの事が好きになった」

 優花の目が丸くなった。青天の霹靂へきれき。それに武は実花よりも七歳も年上だ。


 実花は暗い声で、

「だからって別にどうこうするわけじゃないけれど、明日からの練習が気まずいんだよね」

「そういうことか」

 優花も暗い声で相槌を打った。優花は着替えると朝食を摂った。実花は既に朝食を食べていた。わずか数日の実花の変化。朝食は決して不味くなかったが、優花は味を全く覚えていない。


 せっかくの合宿なのに実花は予想外の感情で集中出来ないでいる。さりとて武に事情を説明するわけにもいかない。優花は困った。


 姉妹は近くの公園に行ってぼんやりと過ごした。屋内だと気分が塞ぐが、さりとて動きすぎると更に疲れる。二人はベンチに腰掛けて樹木を眺める。時折、喋る。


 明日も実花は休もうとした。しかし優花は少なくとも一時間ぐらいは参加すべきだと諭した。実花は昼過ぎ少し参加することにした。

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