二人の合奏
武が出て来た。店員達がCDとDVDとその他の商品の会計をしている。武は店員達に礼を言うと客の相手を始めた。客達は握手を求めたり先程の演奏を褒めたりした。この喫茶店では撮影が禁止されている。武は朗らかな笑顔で応対する。店の隅で店長が様子をうかがっている。
優花は店長に、
「こちらにベースは有りますか?」
唐突の質問に四十代の女店長はドギマギしたが、
「えっと、私の古いベースなら二階に有るけれど、何故?」
「借りて良いでしょうか」
優花が更に質問すると、店長は困惑気味に、
「まだ使えるか分からないし、貴方、いつ使うの?」
「今、少しだけです。無理にとは言いません」
いつの間にか客達も武も店長と優花に注目している。店長は不思議そうな顔をして階段に上がって行った。客達は七人ほど残っている。皆、若い女達である。
店長は戻って来るとベースをケースから出して確かめる。弦も本体も無事だ。錆びていないし切れてもいない。店長は躊躇いがちに優花に渡す。優花は受け取るとツマミを全てゼロにして劇場に有るアンプにベースを繋げる。スイッチやツマミを操作した後、ベースに付いていた器具を見ながら調律する。
優花は武が今日、最初に演奏した楽曲を想像しながら演奏を始める。客達も店員達も店長も首を捻る。素人でも優花の腕前は確かだと分かるが、それが本当に一流なのかどうかは分からない。
武は目を丸くしてギターを取り出すと調律を始めた。客達は目を輝かせた。優花は一曲終える。武は、
「もう一度、同じ曲を弾いてみてくれないか?」
と、頼む。優花は言う通りにする。足で調子を整えると、二人は同時に弾き始めた。武の強い音に驚きながらも優花は続ける。オオッと客達と店員達の歓声も響く。優花は自信が無かったが、何とか武と同時に弾き終えた。店長は拍手した。
客が、
「何処のバンドの方ですか?」
「スゴイですね!サイン下さい」
と、優花を褒め称えた。優花は、
「いいえ。私は素人です」
そう言いながらベースを戻し、店長に渡す。客達は不思議そうに眉を寄せる。一人が、
「それじゃあ、武と組んで下さいよ」
「はあ」
優花は曖昧に返事をする。
客達が帰ると武は優花に、
「君、もしかして虹倉さん?」
優花は気まずそうに、
「はい。断って申し訳ありません」
武は面白そうに顔を綻ばせ、
「いやいや。もしかして考え直してくれた?」
「あんなんで良かったんですか?最近、毎日練習することが出来なくて」
優花が恐縮すると武は驚いて、
「毎日でないのにあんなレベル?スゴイね。皆も喜んでたよ。組んでくれるかい?」
「仕事が有るのであまり練習出来ませんけれど、それでもよろしければ私は頑張ります」
優花がぎこちなく笑うと武は思い出したような顔で、
「ドラマーの妹さんも賛成してくれるかな」
優花は首を傾げ、
「難しいですね。実花は男性が苦手なので。でも、誘ってみますね」
「有り難う」
武は笑う。




