多忙と中止
実花も東京にある大学に入学して、優花と同居するようになった。来年卒業する優花は学業とインターンで忙しかったが、就職先はそのインターンの受入先と概ね決まっている。従業員が十人もいない新しい小さな会社だが、意欲的である。生理用品を開発して販売している。
実花と優花の通う大学は違っている。実花は現代英語を学ぶ学部、優花は化学を学ぶ学部と専攻も違う。けれども家事を分担して仲睦まじく学生生活を送っている。
盆休みが終わった頃に優花のアカウントがコメントを受信した。武からだった。思い出した優花は吃驚した。実花にも読ませる。実花は訝しそうに、
「何故、私達にそんなにこだわるんだろうね。お姉ちゃん、忙しいから断れば?」
優花は返信した、
「せっかくのお誘い、申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。実は私達は忙しさに甘えて練習していません」
優花と実花はその後、夕食を作って食べた。実花が入浴中に再度武から返信が来た、
「それは残念です。てっきり、音楽の道に進むと考えておりました。けれども未来に向けて頑張って下さい」
入浴する前に優花は浴室から出た実花に、
「このまま音楽を完全に辞めるのは惜しいよね」
実花は不思議そうに、
「確かにそうだけど、東京は騒音に敏感でしょ。実家に戻ってたまにやるのが良いんじゃない?」
「それもそうだね」
優花は引き下がって浴室に入った。
優花は時々、武の動画を視聴したりCDを買ったりしている。二年前の勧誘をすぐに思い出せたのもその為だ。武の他にも興味有る音楽家は何人かいるけれど、武は彼等彼女達に全く引けを取らない。むしろ世間の認知度が上がらない方が不思議だ。多忙以外に断った理由は武の胡散臭さではなくて、武の技術だ。現在は半月に一回、スタジオを借りて二時間か三時間程度しか練習していない自分達が武と同等の筈がない。
実花は武に全く興味が無いようだ。ベースとドラムの評価が高いバンドの楽曲を探しては視聴している。SNSの噂を聞きつけては邦楽だけでは無く海外の曲も探す。優花は実花に無理に武を勧めない。二人の住むアパートで二人が揃っている時は二人が共通して応援している日本の中堅のバンドの楽曲を聴く。
優花も実花も性被害に遭っていない。大学のセクハラ対策委員会にそれとなく顔を出したり、女性教授と対話したり、女学生と挨拶したり、それとなく連絡を取っている。繁華街などいかにも物騒な所にはいかない。危険・不審な男を見かけたら教え合って近寄らない。
無事に交際が成就して既に婚約している学友も何組かいる。けれども優花は焦らなかった。インターンと学業で忙しい。両親も母方の叔父・叔母も見合い相手を真剣に探すと応援している。時代錯誤だが有り難い。独りで結婚相手を探して婚約する自信なんて優花にはない。




