君主からの提案
前回の続き。
この国の騎士団に紆余曲折あり、牢獄に収監された。
しかし、数日後に牢獄からどういうわけか馬車にて移動した。
到着した場所は、別の牢獄でも死刑台でも、尋問する場所でもなかった。
お城だった。
老兵が後ろを振り返り、私の顔を見た。
「ふん。間抜けな顔をしているぞ。」
いや、連れてこられた場所がお城の真ん前だったら誰でもこうなるよ、絶対。
あんまりにも驚きと混乱で動けないでいると、後ろにいたまた別の騎士が槍をドンドンと地面について早く行けと、私に急かしてきた。前にいる2人も、早く来いという顔で見ていた。
おそらく開いていた口を閉じて、歩き始める。
背格好の広い老兵と、スタイルのよい女性騎士についていく。勿論、私の周囲には完全武装の騎士らがついている。もし、隠していたナイフで応戦しようとしても、彼らが持つ剣や槍で綺麗に串刺しになる。
「無駄口を叩くなよ。」
城の敷地に入る最後の門が開かれた。ここの門は他とは異なっていて、他よりも装飾がなされていて、厳重な警備と分厚い構造であった。仮に戦闘になっても、簡単には破壊と突破はできないようになっていた。
少々長い道のりを歩いて、城内に入った。
城内は、シャンデリアやステンドグラスなどによって明るく灯されていた。床は基本的には石畳。タイルが敷き詰められているが、一部は木造もあった。絵画や何かしらの像や花瓶などの装飾。そして、城に使える従事人や警備のための騎士ら。城に何か用でもあると思われる人などがいた。
「お待ちしてました。」
大広間の真ん中に立っているレイピアを持つ女性がいた。この人の髪型は黒い髪でストレートヘアーだった。黒い髪は、ここには私ぐらいしかいなかったため目立っていた。体格は、おそらく私よりかは細いかもしれないが、鍛え上げられていることが分かる。
「ご案内します。騎士団の皆様は控室にてお待ちを。」
「頼むよ。じゃあな。」
「失礼のないように。」
やっと終わったという感じの雰囲気を出していたが、騎士らの顔は、「まぁ頑張れよ。」というような、哀れみか、感謝なのか分からない顔をしていた。特に、あの女性騎士は、今までの発言や態度とは打って変わって表情は柔らかかった。まるで、こっちが本心のように。
「こちらです。ほら、歩いてください。」
騎士らに代わって、白を基調とした制服に統一された兵士らが今度は数名並んでやってきた。
おそらく、近衛兵とかそこらへんの人間だと思われた。
また歩き続け、何回か階段を上った。
そして、豪華な装飾がされた扉の前に来た。
……謁見の間だろうか。
扉がゆっくりと開かれると、太陽の光が少しずつ開かれる扉から廊下に入ってきた。全て開かれると、謁見の間の内部が見えてきた。
一番奥の方に玉座。その前までには、たぶん宰相や大臣。多くの近衛兵。執事やメイドらがいた。
そして、玉座のほぼ真ん前の場所に歩かされる。
王様に目を合わせるのは、不敬、無礼だと思い目を合わせずに下を向いていた。前にボディーガードで聞いたこともないような国の王様や大統領などを護衛した時に初めて会う時はあの……社長以外の社員は必ず目を合わさないようにしたり、顔を下げたりしていたものだ。
「皇女様、お連れしました。」
ん?
皇女様?
てっきり王国だと思っていたが、帝国だとは思っていなかった。しかも、女性の君主で皇女。つまり、君主=男性というイメージだったので、”皇女”という近衛兵の言葉に驚いた。まさか、皇女という想定はしてなかった。気になって顔を見てみたいという好奇心があるが、無理やり頑張って下を向き続ける。
しかし、そろそろ私がここに連れて来た理由と、どうすればよいのかを命令されないと困るのだけど。周囲の会話も続いているので、騒がしくあまりいい気持ちはしなかった。私が真ん中にいることもあり、より居心地は悪かった。
突然、ざわざわ騒がしかった謁見の間が、ピタリと急に静かになった。
警戒という意味でも王女のいる方に目をちらりと見る。
皇女は手を挙げている。
ただそれだけなのに。手を挙げているだけなのに、
圧倒された。
「汝、面を上げよ。」
命令とあれば、仕方ない。顔を上げる。
……本当に、皇女だった。
ドレスは少々の装飾と白を基本にしつつ、黄色も混ざった王女にしては少し質素なドレスを着ている。髪は薄い黄色ワンカールで、肩くらいまで髪を下ろしている。身長は、私とほぼ同じくらいだろうか。私は、身長175センチメートルであるので、高い方ではあるが……。
「ふーん。近衛隊長、報告を。」
「はっ! この者は、先日の騎士団による密輸集団摘発において、城下町の正門において抜け穴に騎士団が捜査していた際に、城の正門にて不審者を確認したため警備中の隊が声をかけたところ、不審者は逃走。その不審者の特徴をいち早く騎士団及び帝国直轄の傭兵団などに伝令。その後、不審者の特徴とほぼ合致したとして、そこにいる白銀騎士団団長らが声をかけ、質問しました。」
白銀騎士団団長。あの老兵が率いる騎士団か。
「その最中に密輸集団が隠していた銃器にて攻撃してきました。白銀騎士団と、密輸集団を取り締まっていた青龍騎士団は、付近にいた市民らを守りつつ反撃しようとしましいたが、そこの者が騎士団の銃器とボウガンにて、密輸集団を攻撃、無力化。密輸集団は、1名治療が間に合わずに死亡しました。が、それ以外は全員無事で、この者は致命傷にならないようにしてたと思われます。」
「ふーん? そこの者、近衛隊長が今言ったのは本当?」
いきなり皇女が私に投げかけてきた。
私は、3つの選択肢ができてしまった。
1つ目。質問に素直に答えること。質問に正直に言わなければ本当に殺される可能性がある。言っても必ず助かるとは言えないないが。
2つ目。1つ目の逆。何も言わないこと。まぁ、これを選べば普通に殴られたり蹴られたり、普通に殺される可能性が高い。この選択肢は選ばない方がいい。
3つ目。逃げる。これは、一番死ぬ確率が高い。……私の世界では、死んでるのだけども。
「……はい。」
素直に答えることにした。
素直に答えたことで、皇女は満足そうに頷いた。どういうわけか、ニヤニヤと笑っている。
近衛隊長も頷き、その後も様々な質問が続いたが、私は正直に話をしていった。
「では、出身と身分を明かせ。」
一番厄介なことを聞いてきた。そもそも、この世界にはフランス、ゲルマン(ドイツ)も日本でさえ確認できてない。そんな世界に日本なんて言っても全員。
「???」
と、なるだろう。
だが、東洋の国とか、まだ未開の土地だと言えば、この危機を脱することもできるかもしれない。ここで何も言わなければ、余計に怪しまれるに決まっている。ここまでの質疑でも、周囲から冷たく、怪しむ目で見られてるのだから。
「日本。」
言った。
どうなる?
「は?」
ですよねー。
「どういう国なの?」
皇女が口を開き、私に問いかける。
近衛隊長も、私を見て問いかける。
正直に話すだけだった。
自然があり綺麗で、様々な文化と歴史があるといったありきたりなことから、経済や防衛などについても。まるで、中学や高校教師のように伝えていった。
一通り話し終わると、この場にいる人間は様々な反応を示していた。
驚き。
興味。
恐れ。
様々な思いが空気を支配した。冷静なのは騎士団の彼らと、近衛隊長だった。いや、冷静に見えて実は何かしらの思いなどはあるかもしれない。
皇女は笑っていた。
不気味なほどに。
まるで、悪魔だった。
「まぁ、出身国については追々話してもらえばいいわ。それより、本題に入りましょ。」
本題?
今までの質疑は何だったのかと言うくらいに、空気が変わった。
「あなた、その国では何の職をしてたの?」
は?
職?
「ボディガード。あ、えっと、つまり。重要な人を守るような職を、はい。」
伝わったのかは知らないが、皇女と近衛隊長はどちらも納得がいった顔で、騎士団らも頷いていた。
まるで、「こいつなら、良い」とでも言うように。
「ボディガード、ボディガードね。ふっ。」
皇女は、何度か「ボディガード」と小さくも大きくもない声で呟いていた。呟いてから、皇女は手を挙げた。
すると、皇女が手を挙げたとほぼ同時に。
まるで予定されてたように、後ろにいた近衛兵らが私の拘束具を解いた。
近衛兵らが下がると、玉座から皇女が歩いてくる。
皇女は私の目の前に立つ。
上から私を見下ろす。
「汝、千夏よ。私のボディガードになりなさい。」
私の運命は、どうなるのか。
今後もよろしくお願いします。




