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2-終 連追詠唱 万魔退陣冬将軍

炎天下、中央にイベルダルクの女神像を象った美しい噴水が設置してある広い石造りの広場、普段は家族が散歩していたり、労働者が昼休みしたりしている穏やかな雰囲気の広場だが、今は物々しい雰囲気に包まれている。


「この広場でこう叫びながら土下座したら許してやるよ、弱者は我々です、生意気な口を聞いてすいませんでしたってなぁ!!」

酒場で屯していた十人人余りの舎弟、その舎弟が呼んできた舎弟の舎弟が三十人程、ジェラルドとネモを取り囲みスキンヘッドは高らかに叫ぶ。

「いや……なんで僕まで?」

他人のふりを決め込んでいたネモは困惑する。

「二回マウントアンダーで大枚はたいて高い酒飲んで大騒ぎたからな、そりゃあそこがナワバリのアイツラは多少は認知してるだろうよ、俺らが仲間だってな」

「まあそれもそうか……そんでもって僕迎え酒して朝より気分悪いからここは任せるね……」

「いや、ぶん殴るぞ?」

「えぇ……一人で行けるでしょ?」

そこにスキンヘッドの怒号が飛ぶ。

「無視してんじゃあねーぞぉっ!! この余所者どもおっ!」

この期に及んで自分を無視して言い合いする二人にいよいよもってキレるスキンヘッド。

過剰なキレ具合にも思えるが、暴による圧力でここのギルドを牛耳ってきた彼に面子は非常に大切な事。

まさか広場で舎弟で囲んだ状態で無視されるという事態は彼には宜しくない事態なのだろう。

そんな怒号にも飄々とジェラルドは対応する。

「ああ、済まなかったな、で、一体全体何がしたい? まずそこを明確にしようか」

「だから土下座しろって言ってるんだろうが!」

「拒否する、理由がわからんからな」

「俺達を舐めたからだよ!」

「弱者と言った事とクエストの横取りの事か?」

「そうだよ!」

「弱者は事実を言っただけ、クエストに関してはギルド長の決める事、俺は何も間違えていない、尚の事、土下座の必要性が無いな」

「お前……マジで殺すぞ」

青筋を立てながら斧を構えジェラルドににじり寄るスキンヘッド。

「そうだな、クエストに関しては私はどうしょうもないが、弱者に関しては……君を叩きのめして証明すれば色々と角が立たないな」

「てめえっ! そもそも丸腰で何が出来んだよ! オラァッ!」

疾風の様に突進してその太い腕で斧を振り落とすスキンヘッド。

ジェラルドはそれを大きく躱し、距離をとる。

「この状況で俺達にどう弁明するんだい? 早く土下座したほうが身のためだぜ?」

せせら笑うスキンヘッド、それにひれ伏しジェラルドが広場の石畳に手を当てる。

「ははっ、そうだよな……ビビって逃げて……土下座するしかねえよなあ……」

スキンヘッドがにやりと笑う、しかしその瞬間

「金屋子神よ熱く蕩かし堅く打て……煉練鉄迦(れんれんてっか)

ジェラルドの掌から魔法陣が展開、石畳が熱く赤熱。そこからジェラルドは真っ赤な熱に滾る石と鉄で生成された、華麗な装飾が施された方天戟を生み出し握りしめる。

「武器等、大体どこでも調達出来るのでね……いちいち持っていないんだ」

スキンヘッドの表情が引き攣る。

そして思う、失敗した!! と。

いくら何でも鮮やかすぎる魔法の発動、赤熱に滾る武器を平気な顔で持つ肉体強度、そんな奴と【大量のギャラリーの中での一騎打ち】。

もしここで負けるような事があれば自分の、そして自分のチームの威信は地に落ちる。

まずいまずいまずい、そう考えたスキンヘッドは慌てて呪文を唱える。

「我が主蚩尤(しゆう)、この戟に注げ破壊の力!万力鉄衝(ばんりきてっしょう)!」

強化呪文で斧を強化し速攻で殴りかかる。

ジェラルドはそれを軽々と受け流す、そこからわざと数合、斬撃を撃ち合い、実力が拮抗したかのような鍔迫り合いに持ち込む、そして耳元で囁く。

「どうした? 魔法強化してこの程度か? 弱者よ」

「てめっ! このぉっ!」

一旦お互いは武器を弾かせ距離をとる。

二人は、この後を一瞬考え込む。

そこにスキンヘッドは大声で一喝する。

「おいっ! コイツ闇の魔法を使ってやがる! 魔王共の残党だきっと! 全員で叩きのめすぞ!」

ほんの一瞬焦るジェラルド、唐突な苦し紛れの台詞が何故か芯を食っていたからだ。

しかし闇の魔法等存在しない、魔法の事をよく分かっていないギャラリーを煙に巻いて徒党で襲う口実だ。

そこで、ジェラルドは良く通る大きな声で、わざとらしい大きなアクションで話し始める。

「おいおい、待て待て、全く、君は、嘘をついてまで私達のクエスト受注を許したくはないのか、本当に冷たく排他的な男だな」

「な……何だと!?」

「嘆かわしい、まるで【白露(はくろ)の冬の白き(さま)白銀吐息(はくぎんといき)で踏み入るを拒み、()りては全てを()(はい)す、高く反り立つ険しき銀嶺(ぎんれい)】達だ、地域のギルドの顔とも言える男がそんな排他的な様ではこの地域の活性化に支障がありそうだ」

「何だと!? 何も分からん余所者のくせに、小難しい言葉で偉そうに!」

そこに極めてだるそうに傍観を決め込んでいたネモが、言葉を差し込む。

「余所者とかそんなの関係ないよ! こんなの不公平だし駄目だよっ! 全く治安悪すぎるね、君達は、まるで【踏み入る愚かな気高き蛮勇、寒気凛冽(かんきりつれつ)が呑み込んで、冷徹無常に、気高き不遜(ふそん)()て押し返す】」

突然の繋がっていそうな全く繋がっていないネモの台詞に困惑するスキンヘッドと舎弟達。

「は?……いったい何言って?」

ネモとジェラルドはその舎弟達に、背中合せで人差し指を向けながら共に唱和する。

万魔退陣(ばんまたいじん)冬将軍(ふゆしょうぐん)

その瞬間、寒風が広場を包み込み、二人を囲んでいた様々なギャラリーの中でスキンヘッドの舎弟達の足元のみがバキバキと凍り、固められてゆく。

「ひえ……」

「まさか……二人で、会話を挟んで詠唱!?」

「はあっ!? そんな事、出来るのか!?」

「俺達だけが凍ってるぞっ!」

突然現れた意味不明な上級魔法にスキンヘッドの舎弟達は大混乱。

スキンヘッド自身も、自身がある程度の技量がある故に、目の前の二人の異常な技量に恐怖する。

「嘘だろ……もしかしてホントに……魔王の残党……」

阿鼻叫喚のスキンヘッドの一団、それを見つめるギャラリー達。

そこにジェラルドは大笑いし高らかに宣言する。

「ガッハッハッァ!! 強き男よ! これでどうだ! 我々より力に勝るお前でも、我々のこの見事なる【不意打ち】の氷の一撃! もしこのまま俺と戦い続ければ! この舎弟共は全員凍て死ぬぞ!?」

「!?」

ジェラルドのコテコテの小者悪役演技にスキンヘッドは困惑する。

「コイツラの命が惜しければ膝を折り、我々の要求を呑め! そして協力することを今誓え!」

「……っ!!」

スキンヘッドはジェラルドの全ての意図を汲む。

「わかった……わかったよ……」

スキンヘッドはジェラルドを前に膝を折る。

そこにジェラルドが悠然と近づきこっそりと耳打ちする。

「良いか、今回のクエスト、お前達の名義で受けろ、手続きは全てやれ、報酬は満額取れ、そして遂行と報酬の受け取りは我々だ。そしてこの場は卑劣な俺達の罠に嵌ったお前達、という形に手下を使って情報統制しろ、我々の実力はどんな罵倒でも風説でも良い、誤魔化せ、他言したら……その時は」

「……わ……わかった……要求は全て呑む」

「賢い選択だ……これで君は、この場では舎弟を己のプライドを捨てて救った勇者になれる……また、夕方に会おう、それまでに全てを終わらせておけ」

ジェラルドは方天戟を広場の石畳にすいと溶かし戻し、マウントアンダーの宿舎に戻って行く。

スキンヘッドは項垂れながら、一人こっそりと呟く。

「……完敗……完敗だ……」

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