表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/46

第40話 死闘 VSジャガーノート③

忘れようはずもない。

幾度となく矛を交え、殺し合い、そして最後には自分たちのすべてを奪い去っていった者たち――天支神官。

その頂に立つ一人。

ジャガーノート。


「……違いましたか? あまりにも特徴が似通っておりましたものですから……」


 女は穏やかに微笑んだまま、そう言った。

 ジェラルドがほんの一瞬押し黙る。

 本当に分かっているのか、それとも試しに来ているだけか。少なくとも、今この瞬間に「確信した」という顔ではない。ならば、まずは話を合わせるしかない。


「はあ……一体、どこでそんな話を?」

「先ほども申し上げました通り、サクマ村のザガン村長からですわ。私もあの村を通りかかりまして」

「そうでしたか」


 そこはもう誤魔化せないと判断する。


「まあ、色々と巻き込まれましてな。仕方なく手を貸しただけですよ」

「その割には、随分と親身になられたようで。お優しいのですね、本当に嬉しそうに、御三方と……可愛い一匹を語っておられましたわ」

「ははっ、ただの気まぐれです」


 ジェラルドは軽く笑って受け流した。


「では、我々はこれで」

「あら、せっかくですのに。もう少しお話を聞かせていただけませんか?」

「申し訳ない。先を急ぐ旅でして」

「……おかしなことをおっしゃるのですね」


 その一言で、空気が変わった。

 柔らかい声音のまま。だが温度だけが、すっと落ちる。


「貴方たちは船を探しておられた。けれど今はご覧の通り、船がない。であれば、時間はむしろ余っているのでは?」

「…………」

「よろしければ、あそこの喫茶店でお茶でもいかがですか? 私がご馳走いたしますわ」  


 三人は答えない。

 上品な物腰だった。笑みも崩れていない。なのに、その微笑みの奥にあるものだけが、ひどく冷たい。


「私……旅先で、少し変わった話を聞くのが好きでして……」


     ◇



 かもめが鳴いている。

 雲間から差した夕陽が、海にキラキラと光を返し、水面を赤く染める。

 シオンとブラドは、喫茶店から見える砂浜で波を避けながら遊んでいる。


「――まあ、こんなところですな。あまり面白い話ではなかったですが」


 語り終えたジェラルドが、ティーカップを置いた。

 その間、ネモも口を挟みながら、あくまで“偶然トラブルに巻き込まれた旅人たち”として振る舞った。少なくとも、外から見れば確実にそう見えるはずだった。


「いえいえ、とても興味深いお話でしたよ」


 ジャガーノートは優雅に紅茶を口へ運ぶ。


「それにしても、その魔道具とやらも気になりま

すね……」

「そこは事情がありましてな」


 ジェラルドが軽く掌を突き出し、そこから先を遮る。


「さて、船がないとなれば今日の宿を探さねばなりません。そろそろお暇しようかと、ご馳走になりましたな」

「そうですか……」


 ジャガーノートは残念そうに目を伏せた。

 だが次の瞬間には、また静かな微笑を浮かべていた。


「では……最後に、私の話も少しばかり聞いていただけないでしょうか?」

「だから、もう行くって言ってるじゃない」


 ネモが露骨に眉をひそめる。


「ふふっ……貴方たちにとっても、無関係ではないお話ですわ」


 ネモの不機嫌を意に介さず、ジャガーノートは卓上へ一枚の地図を広げた。

 そこには、この一帯の街道と村々、そしていくつかの地点に小さな印が打たれている。


「……っ」

「………」


 二人の呼吸が、ほんのわずかに止まった。


「私、実はある【痕跡】を追っておりまして……サクマ村も、その痕跡を辿った先のひとつだったのです」


 白い指先が、地図の印を静かになぞる。


「お伺いしたいのですが……貴方たちが辿ってきた軌跡は、これでお間違いありませんよね?」


 印が打たれていたのは、炭の棺にまつわる事件が起きた場所ばかりだった。


「何のことやら、さっぱりですな」

「そうですか」


 ジャガーノートはあっさりと答える。

 そして意に介さず淡々としゃべり続ける。


「ですが、これらの土地で起きた出来事を拾い集めていくと……どうにも思い出すのですよ」

「だから何の話だって――」

「氷を操る魔法使い。鉄を操る獅子の男。二人組。異様なまでに高い実力。何かを集めているような素振り。そして、あからさまに情報を隠すような動き」


 ネモの言葉を、ジャガーノートは柔らかな声で上書きした。


「そうして今になって思うのです。昔、魔王の弔い合戦と称して聖皇国に攻め入り、無残に果てたとされた魔人二人、四災禍――白雪姫と獅子軍神は、本当にあのまま死んだのかと」

「……随分と突飛な思いつきですな」

「ええ。私もそう思います」


 ジャガーノートは微笑んだ。

 けれどその瞳だけは、まっすぐ二人を射抜いている。


「世は、魔王の死で乱心した愚か者どもだったと片付けました。ですが……私は以前から、どうにも腑に落ちなかったのです。あの魔人二人は、あそこまで浅はかな死に方をするような者たちではなかった。」

「…………」

「…………」


 二人は、もはや口を挟めなかった。

 押しつけがましい圧ではない。怒号でも脅しでもない。

 だが、逃げ道だけを丁寧に塞いでいくような圧力が、確かにそこにあった。

 ジャガーノートは紅茶を一口静かに飲み、それから艶めいた唇で二人に問う。


「ねえ、どう思いますか?」


 わずかな笑み。

 その奥に、冷えきった確信を秘めているのが嫌なほどに理解できる。

押し黙る二人。

静かに微笑むジャガーノート。


「どう思いますかと聞いています……白雪姫――ネモ・アイソリテュード、 獅子軍神――ジェラルド・ハンマーロック……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ