6話
夕暮れの日差しを浴びながら、カルダモンがやってきたのはブラッドリー家の厩舎だった。
いななき声を上げているのは「カスケード」という種類の馬だ。普通の馬よりも一回り体が大きく、スタミナとスピードに長けているが、賢く気難しい性格のため乗り手を選ぶと言われている。
「いらっしゃい、坊ちゃん。準備はできていますよ」
笑顔で迎えてくれたのは、飼育員のマービンだ。
「ウィルク山まで行くつもりだ。カスケードならあっという間だろう?」
「そりゃあもちろんですよ。こいつらは馬力が違いますから
ね」
「よしよし。夜中から雨が降るなんて話もあるからな、とっとと月光茶花を採取して戻ってきたいんだ」
「だけど、ちょっと心配ですね」
「何がだ?」
「坊ちゃん、最近あんまり馬たちに会いに来てくれないでしょう? こいつらは頭がいいから、拗ねて言うことを聞いてくれないかもしれないですよ」
「こっちも色々とやることがあるんだよ」
「それは分かりますけどね……」
「そういえば、この前渡したアブを捕まえる魔道具の調子はどうか?」
「かなりいいですね! 後でお礼を言いに行こうと思ってたんですよ。たった一日でアブがウジャウジャ取れるんです。アブは馬の敵ですからね、とても助かってますよ」
「僕の魔道具研究は、かなり馬たちの役に立ってるだろう?」
「そうなんですけど、馬たちにはそのあたりのことは分かりませんからねぇ」
「マービンから説明してくれよ」
「うーん、そうですか? やってみます」
カルダモンが本気で言っているのかどうかを図りかねて、マービンは曖昧に頷いた。
「時間がないってことなので、それじゃあ連れてきてもいいですか?」
「ああ、頼む」
やがてマービンが連れてきたのは、鋭い目つきと巨体を持つカスケードだった。
「こいつはうちで一番のやつです。名前は覚えてますか? 坊ちゃんが名付け親なんですよ」
「えーと……」
カルダモンは若干焦りながら、馬を観察する。
「確かこいつは、アンリだな」
「ビエリですよ、坊ちゃん」
「うーん、そうだったか?」
「馬の名前を間違えたらダメですよ。こいつらはちゃんと聞いてるんですから」
「怒る理由が女子だな」
「冗談じゃなくて本当なんですけどね」
「分かった、次から気を付けるよ」
カルダモンは鐙に足をかけ、勢いよく馬背に乗り込んだ。
「ヒヒーーーン!!!」
それまでおとなしかったビエリは突如として雄叫びを上げると、後ろ足で高く立ち上がり、着地と同時に一気に加速した。
「ビエリ、やっぱり怒ってたんだ……」
土煙の中、猛スピードで遠ざかっていく少年の背中を見送りながら、マービンは呟いた。
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