5話
明かりの灯る室内に立ち、カルダモンは壁に掛けられた魔武器を眺めていた。
「どれにしようかな……。できれば最近あんまり使ってないやつを持って行きたいな。けど、山だし火系のやつはやめておいた方がいいか。火事になったら大変だし……」
魔武器には悪魔の魂が宿っており、人間を破滅させようと虎視眈々と機会を狙っている――世間一般ではそのように恐れられているが、彼に恐れる様子は全くなかった。
そのとき、扉をノックする音が響いた。カルダモンが向かうと、そこに立っていたのは執事のギースだった。
「お荷物の準備整いました」
にこやかな笑みを浮かべる彼が手にしていたのは、一つのリュックサックだった。
「何が入ってるの?」
「地図や懐中電灯、水筒に手軽に食べられる食料などにございます」
「ふーん、ありがとう。ところでギース」
「何でございましょう」
「僕の代わりに月光茶花を採りに行ってくれない?」
「いえいえ、何をおっしゃいますか。兄が妹のために必死になって山を登り、薬草を採って戻ってくる――そういうのがいいのではないですか。赤の他人である私が出しゃばるわけにはまいりません」
「月光茶花が手に入れば、それでいいと思うんだけどな」
「あっと、私としたことが重要なことを言い忘れておりました」
「重要なこと?」
「リュックの中身についてですが、雨具も入れておりますので必要になりましたらお使いください」
「ってことは、もしかして……」
「どうやら、これから夜方にかけて天気が悪くなるようです」
「だって、今は雲一つないよ?」
カルダモンが見上げる空には、金色の月だけがぽっかりと浮かんでいた。
「山の天気は変わりやすいですから」
「それで雨具を……。あのさ、やっぱり一緒に付いてきてもらおうかな。一人でこれを担いで月光茶花を探すのは大変そうだし……あれ?」
さっきまで目の前にいたはずのギースは、いつの間にか姿を消していた。
「あいつ、逃げたな……」
「今の者、かなりの手練れでしたな……」
手の甲に顔を浮かび上がらせたスタンリーが、どこか悔しそうに言った。
「うちの執事は一騎当千の化け物だって、世間では言われているらしいからね」
対するカルダモンは、どこか誇らしげだ。
「あのような者が下働きとは……ううむ、これは世界征服も一筋縄ではいきそうにありませんな」
「えっ、世界征服なんて狙ってたの? もうすっかり諦めたと思ってたよ」
「いや、それは……ええと、ですね……はは……」
白々しい笑い声を残して、スタンリーの顔が手の甲からすっと消えた。
「僕の周りには、都合が悪くなると逃げるやつが多すぎる……」
カルダモンは深いため息をついた。
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