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2話

 



 ソードマウンテンの中腹に佇むのは、ブラッドリー家の邸宅だ。代々、戦と騒乱の中で勢力を拡大し、鉄壁の結束を誇ると言われるこの一族は国家からも一目置かれている。


 山には未発見の動植物が生息し、屋敷には金銀財宝が眠っているとも噂されるが、それを狙って無断侵入した者は誰一人として生きて戻ることはない。


 そんな恐ろしい邸宅の一室に、カルダモンの部屋がある。


 広くて豪勢な室内だが、お世辞にも綺麗とは言えない。部屋中を埋め尽くす大量の「物」があるからだ。


 何も知らない人間が見れば単なるガラクタに思えるが、知識のある者が見れば恐れをなすだろう。それらは一見ガラクタのようでありながら、すべて「魔武器」「魔道具」と呼ばれる代物だからだ。


 彼らが恐れる理由――それは、それらの品々に「悪魔の魂」が宿っているからに他ならない。


 魔力を通すことで無から水や火、土を作り出せる一方で、人間に害を及ぼす危険な品も存在する。魔力を通した瞬間に皮膚が爛れたり、視力を奪われたりするような恐ろしい効果を持つものまであるのだ。


 だが、部屋にいるカルダモンがそれらを恐れているかと言えば、そんな様子は微塵もない。むしろ、心底楽しそうにそれらを眺めていた。


「あのー、カルダモンさん」


「ん?」


「いつまでもそうやって魔道具ばっか弄ってないで、そろそろ適当な魔物でもぶっ殺しに行きませんかね。退屈ですよ、俺は」


 カルダモンの右手の手の甲に、猿のような顔が浮かび上がって口を開く。自称・魔王のスタンリーだ。


 普通の人間なら悲鳴を上げるような光景だが、カルダモンは気にする様子もなく、黙々と机に積み上げられた魔道具の一つをいじりながらノートにスケッチを描いていた。


「僕はこういうのを触ってる時が一番幸せなの。少なくとも、昨日届いたやつを一通りチェックするまでは家から出る気はないよ」


「そんなこと言わずに、お願いしますよぉ」


「無理だね。そんなに外に出たいなら、早いところ他の体に乗り移ったらいいじゃない。僕としてもそのほうがありがたいんだけど」


「そりゃそうしたいですけど、俺は誰にでも乗り移れるわけじゃないんですよ。適合できる体じゃないとすぐに崩れちゃって、使い物にならないんですから」


「ってことは、あの猫は適合者だったんだ?」


「一応そうですけど、俺が乗っ取る前からほとんど死にかけでしたからね。腹ペコで痩せ細ってて……たぶん母親に捨てられたんじゃないですかね。人間は猫が異常なほど好きなので言い訳させてもらいますが、俺が乗っ取らなくても長くは無かったと思いますね」


「ふーん……」


 カルダモンが気のない相槌を打った、そのとき――。屋敷の隅々にまで響き渡るほどの、凄まじい悲鳴が聞こえてきた。


「ん……」


 一瞬だけ顔を上げたカルダモンだったが、すぐに興味を失ったように作業へ戻った。


「あのー……見に行かなくていいんですか?」


「いまのはシナモンの声だ。どうせクモか何かが部屋に出たんだろう。放っておいても大丈夫だよ」


「なるほど、そんなもんですか。人間というのは仲間意識が強い種族だと思っていましたがね……」


「種族意識が強かったら、戦争なんてしてないだろ。毎日一日も欠かさずに争い続けてるんだから」


「そう言われてみれば、確かに……」


 スタンリーが妙に納得した声を上げた、そのとき――。


 バタンッ! と突然部屋の扉が勢いよく開いた。入ってきたのは、金髪のツインテールを揺らした少女だ。


「ちょっとお兄ちゃん! なんですぐに来てくれないのよ!」


 カルダモンの妹、シナモンだった。






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