1話
この世界の流れ星は美しい。深い闇の中を、まるで雨粒のように降り注ぐからだ。
だが、この世界の人々にとってこれは日常風景らしい。妹と母親を誘ってみたものの、二人とも一緒には来てくれなかった。
さあ、そろそろ帰ろうか。
バステ山の山頂から降りようとしたそのとき、ふと声が聞こえてきた。甲高くて、助けを求めるような動物の声だ。
子猫かもしれない。そう思って声のする方へ歩いていくと、茂みの間に黒くて小さな背中が見えた。やはり子猫のようだ。震えているようだし、近くに親猫らしき姿もない。
(保護してあげようか)
泣き続ける声があまりにも可哀そうに思え、近づいていく。
あと数メートルで手が届くというそのとき、黒い子猫が振り返った。
「やったぞ! 人間だ!!」
猫ではなかった。暗闇の中で黄色の鋭い目を光らせる、猿に似た魔物だった。気がついたときには、すでに跳びかかられていた。
とっさに出した右手に、ズシリとした重みが伝わる。
「頂きーーー!!!」
はっきりと聞こえた言葉。人間の言葉を操る魔物は、非常に知能が高く危険だ。背筋に寒気が走った。その魔物が「じゅぶじゅぶ」と音を立てながら、僕の腕の中へ侵入してきたからだ。
「お前の体は魔王スタンリー様が頂いた! 悪く思うなよ!!! ハーッッハハッハハハーーー!」
あまりのショックに、手にしていた光を放つ魔道具を落としてしまった。
死を覚悟した。
「なんだこれ! くそっ、重い! 重すぎる!!」
右手の中に侵入した魔物が焦り始めた。体の中心へ向かって進もうとしているようだが、上手くいっていないらしい。
(もしかしたら、潰せるかも……)
僕は意識を右手に集中させ、魔物を押しつぶすイメージを持った。
この世界には魔法があり、発動にはイメージがとても重要になる。僕は子供の頃から滝行や水泳などの無理矢理な修行をさせられたおかげで、一流と呼ばれるほどの魔力量を持っているのだ。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!?!?!?」
呻き声を上げる魔物。それを見て、さらに自信がついた。
「やめろぉおおおおおおお!! やめてくれぇええええええええええ!?」
やめるわけがない。こいつは敵だ。このまま一気に押しつぶしてやる。
「たのむぅううう、頼みますから、ああぁああああああああああ!!!」
抵抗はすぐに哀願へと変わった。
「どうか命だけは、命だけはお助けうをぉおお!!!」
駄目だ、絶対に許さない。
「貴方様の言うことにはなんでも従います、従います! だからどうか許してください! 子分です、私は今日からあなたの子分になります!」
(子分だって?)
ちょっとだけ興味をそそられた。
「子分ですはい! ですからもう、何なりとご命令を!」
そう言われても、こいつに何ができるのだろうか。
「私は魔王です! 今はこんなに落ちぶれてしまいましたが、昔は千の魔法を持つ魔王として、万の部下を引き連れていたのです! ですからきっとあなた様の役に立ちます! どうか今回ばかりは勘弁してください! もう二度と逆らいませんので!」
千の魔法を持つ魔王。なんだか面白そうだと思った。
もし悪さをしようとしたら、そのときこそ潰してしまえばいい。
「あ、あ、ありがとうございます!!!」
僕が意識の力を緩めると、媚びへつらう声が聞こえた。
「ところで、貴方様のお名前は?」
「カルダモンだ」
「カルダモン様、これからどうかよろしくお願いします」
――家に帰って母に相談してみた。
「あら大変ね。でも今はプルドポークの調理で手が離せないの、その話はまた今度ね……」
そう言って、母はどこかに行ってしまった。
妹にも話をしてみた。「右手、黒くなってんじゃん。きしょっ!」そう言ってどこかに行ってしまった。
こうして、僕の右手には魔王が住み着くことになった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




