↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフは長く生きすぎて、愛し方を忘れていた ~死の淵から転移した俺が、凍った森を溶かすまで~  作者: チュチュ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/20

セドリックの告白


コンラートを避けるようになってから、俺は以前にも増して、里の作業に没頭するようになった。手を動かしていれば、余計なことを考えずに済んだ。


「今日も、精が出るな」


セドリックの声だった。振り返ると、薬草籠を抱えた彼が、いつものように素っ気ない表情で立っていた。


「まあ、暇つぶしだ」


「以前より、口数が減ったな」


指摘され、俺は思わず苦笑した。セドリックにまで気づかれるとは思っていなかった。


「そんなに分かりやすいか」


「分かりやすい、というより――お前らしくない」


その言い方に、俺は少し驚いた。セドリックが、俺の「らしさ」を気にかけてくれているとは、思ってもみなかった。


「コンラートのことか」


図星を突かれ、俺は言葉に詰まった。


「……何で分かるんだよ」


「里は狭い。噂は、すぐに広まる」


セドリックは薬草を整理しながら、淡々と続けた。


「フィンとの諍いも、耳にしている」


「あんたの耳にまで入ってるのか」


「エルフの耳は良い。それに――お前のことは、少し気にかけている」


その一言に、俺は思わず顔を上げた。以前の拒絶ばかりだったセドリックからは、想像もできない言葉だった。


「なんで、俺なんかを」


セドリックは、しばらく黙って手を動かし続けた。それから、ぽつりと呟いた。


「お前を見ていると、昔の自分を思い出す」


「昔のあんた?」


「――私にも、かつて心から想う相手がいた」


その言葉に、俺は息を呑んだ。以前ミルから聞いた話が、頭をよぎる。


「聞いてもいいか」


「好きにしろ」


セドリックは、薬草籠を地面に置き、遠くを見つめるように語り始めた。


「彼女とは、里の中で共に育った。長い時間をかけて、少しずつ心を通わせていった。それが、私たちのやり方だと信じていた」


その声には、懐かしさと痛みが同時に滲んでいた。


「だが、ある日、流行り病が里を襲った。長命種である私たちにも、時折そういうことがある。彼女は、それに罹った」


「治せなかったのか」


「手は尽くした。だが、及ばなかった」


セドリックの声が、わずかに震えた。長い年月を経てもなお、その痛みは癒えていないようだった。


「彼女を失ってから、私は誓った。二度と、あれほどの痛みは味わいたくないと。だから、深く関わることをやめた。誰とも、心を通わせすぎないように生きてきた」


「それで、ずっと一人でいたのか」


「一人でいれば、失う痛みもない。それが、私が選んだ生き方だ」


その言葉には、諦めと同時に、確かな信念があった。俺はそれを、簡単には否定できなかった。


「後悔はしてないのか。あんたの生き方」


「――分からない」


セドリックは、初めて曖昧な答えを返した。


「後悔していない、と言い切れれば楽だっただろう。だが、お前を見ていると、時々、自分の選択が正しかったのか、分からなくなる」


「なんで、俺を見てそう思うんだ」


「お前は、失うことを恐れず、それでも誰かのために動き続けている。その姿が――眩しくて、同時に、羨ましい」


その告白は、俺の胸に深く刺さった。セドリックの拒絶の裏にあった痛みと、それでも消えない憧れのようなものが、初めてはっきりと見えた気がした。


「あんたは、羨ましいなんて言うほど、弱くないだろ」


「弱いさ。だから、こうして心を閉ざしている」


セドリックは、そう言って薬草籠を持ち上げた。


「お前とコンラートのことは、私には口を出す資格はない。ただ――」


一度言葉を切り、セドリックは俺の方をまっすぐ見た。


「後悔だけは、しないように生きろ。私のようにはなるな」


その言葉を最後に、セドリックは立ち去っていった。俺はその背中を見つめながら、胸の奥に、これまでとは違う種類の熱を感じていた。


――失うことを恐れて、心を閉ざしたセドリック。


――それでも、俺を見て何かを感じてくれている。


コンラートとの間で生まれていた不安が、少しだけ違う形に変わっていくのを、俺は感じていた。届くかどうか分からなくても、動くことをやめない。それが、俺のやり方だ。ならば、このままコンラートを避け続けるのは、俺らしくない。


夕暮れの空を見上げながら、俺は小さく息を吐いた。明日、もう一度、コンラートと向き合おう。そう心に決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。