セドリックの告白
コンラートを避けるようになってから、俺は以前にも増して、里の作業に没頭するようになった。手を動かしていれば、余計なことを考えずに済んだ。
「今日も、精が出るな」
セドリックの声だった。振り返ると、薬草籠を抱えた彼が、いつものように素っ気ない表情で立っていた。
「まあ、暇つぶしだ」
「以前より、口数が減ったな」
指摘され、俺は思わず苦笑した。セドリックにまで気づかれるとは思っていなかった。
「そんなに分かりやすいか」
「分かりやすい、というより――お前らしくない」
その言い方に、俺は少し驚いた。セドリックが、俺の「らしさ」を気にかけてくれているとは、思ってもみなかった。
「コンラートのことか」
図星を突かれ、俺は言葉に詰まった。
「……何で分かるんだよ」
「里は狭い。噂は、すぐに広まる」
セドリックは薬草を整理しながら、淡々と続けた。
「フィンとの諍いも、耳にしている」
「あんたの耳にまで入ってるのか」
「エルフの耳は良い。それに――お前のことは、少し気にかけている」
その一言に、俺は思わず顔を上げた。以前の拒絶ばかりだったセドリックからは、想像もできない言葉だった。
「なんで、俺なんかを」
セドリックは、しばらく黙って手を動かし続けた。それから、ぽつりと呟いた。
「お前を見ていると、昔の自分を思い出す」
「昔のあんた?」
「――私にも、かつて心から想う相手がいた」
その言葉に、俺は息を呑んだ。以前ミルから聞いた話が、頭をよぎる。
「聞いてもいいか」
「好きにしろ」
セドリックは、薬草籠を地面に置き、遠くを見つめるように語り始めた。
「彼女とは、里の中で共に育った。長い時間をかけて、少しずつ心を通わせていった。それが、私たちのやり方だと信じていた」
その声には、懐かしさと痛みが同時に滲んでいた。
「だが、ある日、流行り病が里を襲った。長命種である私たちにも、時折そういうことがある。彼女は、それに罹った」
「治せなかったのか」
「手は尽くした。だが、及ばなかった」
セドリックの声が、わずかに震えた。長い年月を経てもなお、その痛みは癒えていないようだった。
「彼女を失ってから、私は誓った。二度と、あれほどの痛みは味わいたくないと。だから、深く関わることをやめた。誰とも、心を通わせすぎないように生きてきた」
「それで、ずっと一人でいたのか」
「一人でいれば、失う痛みもない。それが、私が選んだ生き方だ」
その言葉には、諦めと同時に、確かな信念があった。俺はそれを、簡単には否定できなかった。
「後悔はしてないのか。あんたの生き方」
「――分からない」
セドリックは、初めて曖昧な答えを返した。
「後悔していない、と言い切れれば楽だっただろう。だが、お前を見ていると、時々、自分の選択が正しかったのか、分からなくなる」
「なんで、俺を見てそう思うんだ」
「お前は、失うことを恐れず、それでも誰かのために動き続けている。その姿が――眩しくて、同時に、羨ましい」
その告白は、俺の胸に深く刺さった。セドリックの拒絶の裏にあった痛みと、それでも消えない憧れのようなものが、初めてはっきりと見えた気がした。
「あんたは、羨ましいなんて言うほど、弱くないだろ」
「弱いさ。だから、こうして心を閉ざしている」
セドリックは、そう言って薬草籠を持ち上げた。
「お前とコンラートのことは、私には口を出す資格はない。ただ――」
一度言葉を切り、セドリックは俺の方をまっすぐ見た。
「後悔だけは、しないように生きろ。私のようにはなるな」
その言葉を最後に、セドリックは立ち去っていった。俺はその背中を見つめながら、胸の奥に、これまでとは違う種類の熱を感じていた。
――失うことを恐れて、心を閉ざしたセドリック。
――それでも、俺を見て何かを感じてくれている。
コンラートとの間で生まれていた不安が、少しだけ違う形に変わっていくのを、俺は感じていた。届くかどうか分からなくても、動くことをやめない。それが、俺のやり方だ。ならば、このままコンラートを避け続けるのは、俺らしくない。
夕暮れの空を見上げながら、俺は小さく息を吐いた。明日、もう一度、コンラートと向き合おう。そう心に決めた。




