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エルフは長く生きすぎて、愛し方を忘れていた ~死の淵から転移した俺が、凍った森を溶かすまで~  作者: チュチュ


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10/20

色づき始める心


冬支度の共同作業に加わるようになってから、俺は毎日のように広場に顔を出していた。うるさくしすぎないよう、迷惑にならない程度に、周りの様子を見ながら一人ひとりに声をかける。それが今の俺にできる、精一杯のことだった。


「今日も来たのか」


薪を運んでいると、セドリックが横を通りかかった。以前のような刺々しさは薄れていたが、それでも素っ気ない口調は変わらない。


「暇だからな」


「暇なら、他にすることがあるだろう」


「これが一番、性に合ってるんだよ」


セドリックは何も言わず、俺の隣を通り過ぎていった。だがその足取りは、以前よりわずかに緩やかだった気がした。


数日後、雨が降った日のことだった。屋根の修繕作業で、俺は足を滑らせて転びそうになった。とっさに近くにあった手すりを掴んだが、体勢を崩し、肩を強く打った。


「大丈夫か」


駆け寄ってきたのは、意外にもセドリックだった。


「……ああ、平気だ」


「立てるか」


差し出された手を、俺は少し驚きながら取った。セドリックの手は、思っていたよりも力強かった。


「ありがとう」


「礼を言われるほどのことはしていない」


そう言いながらも、セドリックはしばらく俺の様子を見ていた。言葉は淡白だったが、確かに心配してくれているという気遣いが感じられた。


「お前は、いつも無茶をする」


「そうか?」


「必要以上に、動きすぎる。誰も、そこまでしろとは言っていない」


「まあ、性分だからな」


セドリックは小さく息を吐いた。それは呆れとも、諦めとも取れる、微妙な響きだった。


「昔――」


不意に、セドリックが口を開いた。


「私にも、そういう者がいた。求められてもいないのに、いつも誰かのために動く者が」


俺は息を呑んだ。ミルから聞いた話が、頭をよぎる。


「その人、今は」


「もういない」


短い答えだった。だがその声には、これまで聞いたどんな言葉よりも、深い喪失の色があった。


「聞かない方がいいか?」


「……好きにしろ」


拒絶ではなかった。俺はしばらく迷った末、静かに尋ねた。


「その人のこと、後悔してるのか。関わったこと」


セドリックは、長い沈黙の後、ぽつりと答えた。


「後悔は――していない。ただ、失った痛みが、あまりにも深すぎた。それだけだ」


その言葉に、俺は何も言えなかった。ただ、隣に立ち続けることしかできなかった。


「もう二度と、あの痛みを味わいたくない。それが、深く関わりたくない理由だ」


「……そうか」


「お前を見ていると、あの頃を思い出す。眩しくて、目を背けたくなる」


その言葉は、拒絶と紙一重の告白だった。俺はそれを、無理に押し返すことはしなかった。


「無理に、変われとは言わない。ただ――」


俺は少し言葉を選んだ。


「あんたが心を閉ざしてる間も、俺はここにいる。それだけは、覚えといてくれ」


セドリックは何も言わなかった。だが、その沈黙は、以前の拒絶とは明らかに違うものだった。


*


その夜、家に戻る途中、コンラートが待っていた。


「セドリックと、話していたな」


「……聞いてたのか?」


「里の見回りをしていただけだ。だが、エルフの耳は、お前たち人間よりずっと良い。少し離れていても、声は届く」


「盗み聞きかよ」


「盗み聞きではない。ただ、聞こえてしまっただけだ」


悪びれる様子もなく言うコンラートに、俺は思わず苦笑した。


「ああ。少しだけ、な」


「あの男が、誰かに昔の話をするのは、珍しい」


「そうなのか?」


「私が知る限り、初めてかもしれない」


コンラートの声には、静かな驚きがあった。俺は少し照れくさくなり、話題を変えた。


「あんたはどうなんだよ。最近、里の様子、少し変わってきてると思わないか?」


「変わった、というほどではない。だが――」


コンラートは、言葉を選ぶように少し間を置いた。


「以前より、言葉を交わす者が増えた気がする。理由は、分からないが」


「理由なら、はっきりしてるだろ」


「……お前か」


「まあ、そういうことにしといてくれ」


コンラートは、小さく息を吐いた。それは、呆れとも笑いとも取れる、微妙な吐息だった。


二人で並んで歩きながら、俺はふと、世界樹のことを思い出した。あれから何度か様子を見に行っていたが、はっきりとした変化はまだ見えていなかった。


「世界樹、少しは元気になってきてるのかな」


「分からない。だが――」


コンラートは、夜空を見上げた。


「お前がここに来てから、確かに何かが動き始めている。それだけは、感じる」


その言葉に、俺は小さな希望を見た気がした。まだ何も、劇的には変わっていない。だが、凍りついていたものが、少しずつ溶け始めている――そんな確かな予感が、胸の中に広がっていった。


家の前で別れる際、コンラートが不意に言った。


「また、明日も」


「監視、だろ?」


「――そうだ」


わずかな沈黙の後の返事だった。俺はその間に、以前よりも長い何かを感じ取った気がした。

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