かぐや姫
カグヤは焦っていた。
レジスタンスとして活動していたところ、月の政府に見つかってしまったため、細長い脱出用ポッドを操作しているのだが、どうやらこのポッドでは座標は一つしか設定できないようだ。
そしてそれは、最も近くて文明の遅れた惑星、地球だ。
焦りつつも選択肢はもはや無い。
政府の追手がすぐそこまで迫っているのだ。
急いで電源をONにして発射する。
座標は、どうやらあの細長い島国のようだ。
◆
重力が6倍ある関係なのか、不具合でポッドの大きさが約6分の1に縮小され、しかも竹藪に不時着してしまった。
「これではまるでメタリックな竹が一本生えているようではないか」
不時着の衝撃で朦朧とした意識の中カグヤはそんなことをぼんやりと考えていた。
その時であった。
<<カコーン!>>
大きな音を立ててポッドが真っ二つに斬られ、陽光がいっぺんに注ぎ込んできた。
そして逆光の中、約6倍の大きな顔をした皺しわの顔の老人が覗き込む。
「な、なんじゃこれは…!? 小さい人…!?」
突然ミニチュアサイズの宇宙人を見て驚くのも無理はない。
しかしこの老人に宇宙人だのポッドだのと事実を説明しても絶対に理解されないだろう。
ましてや自分はレジスタンスで追われている身なのだ!
カグヤはこの窮地を脱するため、意を決して嘘を決め込むことにした。
「おじいさん、私は竹の精霊です。お爺さんの元で育てていただけませんか?」
「おぉ、なんと…長年、竹取を生業にしていたからこんなご縁があったのかの~…今我が屋敷にお連れしますので、お待ちください」
チョロそうな老人で助かった。
カグヤはホッと胸を撫で下ろす。
◆
老人夫婦は本当に優しい人柄で、わが子のように大切にしてくれた。
そしてカグヤの体も徐々にこの惑星の生態系に合わすように大きくなっていった。
数か月で大人の背丈にまで成長したカグヤを見て、周囲の人間はいよいよ本当に精霊として崇め奉る者まで出てくる始末である。
「問題はポッドだ」
奥座敷でタブレットを見ながらカグヤがぼそりと独り言ちる。
復路の燃料はあるにしてもボディを鉈で真っ二つにされてしまった。
幸い機体の蓋部分だから、接合する化学物質を生成して圧着すればどうにかして再利用できそうだ。
しかしそのようなものがこの地球にあるのだろうか…ダメもとで手元のタブレットで探索したところ…なんとあるではないか!
はるか昔、月の調査団が来た際に置き忘れたオーパーツが、伝説上の宝物として奇跡的に保存されているようだ。
問題は各地に散り散りになっているオーパーツをどのようにして集めるか…
ふと、妙案が頭に浮かびカグヤは片方の口角を意地悪そうに釣り上げる。
レジスタンス活動で潜伏する際に使用していたカムフラージュ装置を利用するのだ。
この装置を使えば “その人にとって最も適した姿” に自分の姿を見せることができる代物だ。
(もちろん月では現在使用禁止。禁固刑10年)
これで “絶世の美女に映る” 設定にすれば、カグヤの姿は見る人それぞれの美女になるというわけだ。
これでヤマトの男どもを操ってオーパーツを集めさせよう。
カグヤはそう腹を決めた。
◆
目論見通り、地球人の男どもがわんさか集まってきた。
この中からカグヤはオーパーツを集められそうな、経済的余裕があり、かつ社会的地位の高い人物を5人選定していく。
後は彼らが勝手に集めて持ってきてくれるのを待つだけである。
指示を出したら呑気に菓子を食べたり、タブレットで動画を見ながらのんびり過ごしていたのだが、そんな日々に暗雲が立ち込める。
5人のうち誰一人としてオーパーツを集めることが出来なかったどころか、そのうちの一人、中納言の石上麻呂足が死亡してしまったのだ。
「とんでもない事になっちまった」
宇宙連合規定で、月の住民が他民族を傷つけた場合、罪に問われてしまうのだ。
しかもその取り締まりのため宇宙全体にセンサーを行き渡らせ監視している。
そのネットワークの精巧さはカグヤも嫌というほど経験しているため、このような事態になり、確信していた。
「やばい、もう絶対に月の政府に見つかったし」
もはや破れかぶれの気分であった。
この期に及んで帝からも求婚され、自暴自棄になったカグヤは宮中に参内することにした。
「どうせすぐに捕まるんだから、派手につかまってやるさ」そのようにすら思っている。
危険思想な女である。
参内したその夜、はたして月の役人がやってきた。
しかし予想に反してひっそりと陰に身を隠すような来訪であった。
「え、なんでさっさと捕まえないの?」
「お前な。さんざん地球人を引っ搔き回しといて
このまま終わったら話の収集がつかないだろ。
せめて話として美しく終わらせろ。
そうしなければ地球人に宇宙や月の政府のこと勘ぐられて
歴史に変な影響を及ぼしかねないだろ」
「むむぅ…。では、こうしよう」
はたして同日の夜更け、月から彩雲が降り注ぎ、天竺や唐の美しい装いをした天女たちの行列がカグヤを迎えにきた。
その行列は次から次へと舞い降り、美しい人々に誘われカグヤは月へと召されていくのである。
ホログラム装置を使用した壮大な映像であったが、ヤマトの民を信じ込ませるには十分すぎるほどの美しいホログラム映像であった。
実際にそこにいたのは物陰に隠れるように装置をいじるカグヤと、見張り役の月の役人の2人だけである。
カグヤは最後に、泣く泣く別れを惜しむ老夫婦と挨拶を交わす。
「私は月で罪を犯したのでこの星に来たのです。もう戻らねばなりません」
これだけは紛れもない事実なのであった。
了




