目を覚ますとそこには
鉄のような匂いが鼻孔をくすぐる。ズキズキと頭痛に襲われながら私は目を開けた。次第にピントが合っていき、目に入ったものは赤。
それが鮮血だと理解した時――、
「キャァァァァァァ!」
私は悲鳴を上げた。
それからすぐして、ドタバタと足音が近づいて来る。どうやらどこかの一室らしいこの場所の扉が開き、複数人が現れた。
剣を持った、まるでどこかの国の軍隊みたいな男性たち。それからコンカフェのメイドさんにしては大人しめのメイド服を着たお姉さんたち。
私が呆然としていると、男性たちがにじり寄って剣をこちらに向けてきた。
「ベルベット・ミュラー、今度こそ言い逃れはできない」
「殺人容疑で連行させてもらおう」
ベルベット・ミュラー?殺人容疑?何やら訳の分からない単語ばかりで理解が追い付かない。私が横で倒れているこの女性を殺した?そんな訳ないじゃない。一体どういうことなの。
私が呆然としていると、お姉さんたちの中から一人が進み出てきて、果敢に男性と私の間に立ちふさがった。
「騎士様方、どうかお待ちを! お嬢様はこのように手足を縛られているのです。そのようなこと、できる訳がございません」
そう言われてやっと気づいた。私の手足は何やら堅い紐のようなものできつく縛られていて、簡単にはほどけそうにない。ジタバタしてもびくともしないなんて、どんだけ頑丈なんだ、この紐は。
「ふん、紐など自作自演でどうとでもなる」
「なんということをおっしゃるのです!」
バッサリと切り捨てる男性(騎士様?)に対して、お姉さんも引き下がらずに応戦する。そんな中で口を挟みにくいのだけれど、さすがに見ているだけというのも、ねぇ。
「あのー」
ということで、さっきの絶叫以降初めて口を開いてみる。
「どうなさいましたかお嬢様!」「なんだ」
「こちらの紐をほどいて下さりませんか? 先程まで意識を失っていたようで何もかも分からないのです」
なんとなーく、雰囲気に合わせていつもより丁寧な口調を使ってみた。
するとハッと気付いたお姉さんが、慌ててこちらに向き直って懐からナイフを取り出した。メイドさんコスって懐にナイフを忍ばせるんだったっけ?
そんな私の内心には気付かず、彼女は「失礼いたします」と言ったのち、私の手足を縛る縄をほどいた。
縄はほどいてもらったものの、私は到底立ち上がれる状態ではなかったようだ。右も左も分からないまま、知らない名前で呼ばれ、殺人容疑をかけられ、手足を縛られているという状況が思ったより身体に堪えていたのだ。立ち上がろうとしたものの、そのまま頽れた私をお姉さんが支えてくれ、男性に向かってはっきりとこう告げた。
「立ち上がることも出来ない御令嬢を取り調べにかけるなどということ、騎士様方はなさりませんでしょう? どうかお嬢様のお身体が回復するまでお待ちくださいませ」
そう言われると反論できないのか、騎士様方(?)は私への取り調べを諦めて、血を流して倒れている女性の方に注目し始めた。むしろ、そっちが優先じゃないの?可能性は低いけどまだ生きているかもしれないのに。そんなことを言う気力もないので、私はお姉さんのなすがまま、この場所から離れることとなった。
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