第2話「選ばれない理由」
――誰も、近づいてこない。
人で溢れた街の中心で、影山は立ち尽くしていた。
視線は感じる。
確かに“見られている”。
だが――
「なんでだよ……」
誰一人、声をかけてこない。
まるで“観察されているだけの存在”のように。
ざわざわとした空気。
小さな笑い声。
「……あの人じゃない?」 「無理でしょ」 「選ぶ理由、ある?」
耳に入る断片的な言葉。
「……っ」
胸の奥が、じわりと痛む。
いつもと同じだ。
現実と、何も変わらない。
いや――違う。
「……制限時間、一日だったな」
影山は、ぐっと拳を握る。
「だったら……こっちから行くしかないだろ」
彼は歩き出した。
ターゲットを探すように、周囲を見渡す。
(どうすればいい……?)
頭の中で、必死に考える。
(可愛い子?優しそうな人?それとも……)
だが、その思考はどこかズレていた。
“自分が選びたい相手”ばかりを見ている。
“相手がどう感じるか”を考えていない。
――その時だった。
「……あなた」
不意に、声がかかった。
振り向く。
そこにいたのは、一人の女性。
派手ではない。
目立つわけでもない。
だが、静かで、落ち着いた雰囲気を持っている。
「え……?」
初めての“接触”。
影山の心臓が跳ねる。
「わ、俺……?」
「ええ」
女性は、じっと彼を見る。
その目は、不思議と冷静だった。
「あなた、困ってるんでしょう」
「……!」
図星だった。
「わ、分かるのか?」
「少しだけね」
彼女は小さく微笑む。
「でも、ひとつ聞いていい?」
「な、なんだ?」
「あなたは、“誰かに選ばれたい”の?」
その問いに、影山は即答した。
「当たり前だろ!」
声が強くなる。
「そのためにここにいるんだ!
選ばれなきゃ意味ないんだよ!」
女性は、少しだけ目を細めた。
「……そう」
短い返事。
そして――一歩、後ろに下がる。
「え……?」
「残念」
彼女は静かに言った。
「あなたは、まだ“選ばれない側”のまま」
「なっ……なんでだよ!?」
思わず叫ぶ。
だが彼女は首を振るだけ。
「あなた、自分のことしか見てないもの」
「……は?」
「“選ばれたい”って言葉の中に、
“誰かを大事にしたい”って気持ちが見えない」
言葉が、刺さる。
「そ、それは……」
反論しようとして、言葉が詰まる。
「この試練ってね」
彼女は、少しだけ声を落とした。
「“誰かを選ぶゲーム”じゃないの」
風が吹く。
彼女の髪が揺れる。
「“選ばれる理由を持てるか”を試されてるの」
「……」
何も言えない。
「じゃあね」
彼女は背を向けた。
「時間、あまりないみたいだから」
「ま、待てよ!」
手を伸ばす。
だが――
その瞬間、彼女の姿は消えていた。
「……は?」
人混みの中。
どこにもいない。
まるで最初から存在しなかったかのように。
――その時。
『ヒントを一つあげるわ』
頭の中に、あの声が響く。
女神の声。
『今の彼女……“選ぶ側”だったのよ』
「……っ!?」
『チャンスは一度とは限らない。
でも――無限でもない』
冷たい笑い声。
『頑張りなさい。
“欲望だけのあなた”が、どこまで変われるか』
プツリと、声が途切れる。
静寂。
「……ふざけんなよ」
影山は、息を吐いた。
だが今度は――さっきとは違う。
少しだけ、理解してしまった。
自分が、何も見ていなかったことを。
「……誰かに選ばれるってのは」
小さく呟く。
「ただ、願うだけじゃダメってことかよ……」
視線を上げる。
人々の表情が、さっきとは違って見える。
それぞれに感情がある。
意思がある。
“選ぶ理由”を持っている。
「……だったら」
影山は、ゆっくり歩き出した。
今度は――探すのではなく、“見る”ために。
その一歩が、
彼を少しだけ変え始めていた。




