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アルラウネと魔王様  作者: 化猫


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7、アルラウネの警告


 ぬいぐるみに籠城してから一ヶ月。そろそろ空腹で倒れそうだ。

 ぬいぐるみの前にセットされているフルーツにも紅茶にもしばらく手を出していない。


 あの日以来、魔王様に見つかるようなことはなかった。もし、見つかっていたら空腹で困ることも無かっただろうけど。


 ようやく魔王様の全身を突き刺すような圧から、恐怖心が薄れていく。

 外の気配を探って、誰も居ないのを確認してから分身を作った。

 今までは夜にしか置かれてなかったセットが昼間にも置かれている。

 それに手を伸ばすと、紅茶はまだ温かい。


「美味しい」


 よく考えれば、日の光が沈んではしばらく経っている。

 これはもしかして魔道具なんだろうか。

 指先でカップをつついた。


『アルーナ、ようやく出てきたか!』

「アイビー久しぶり」

『いつまで引っ込んでいるつもりなのかと思ったぞ!』

「あはは・・・」


 アイビーの言葉に耳が痛い。

 乾いた笑いを返した。


『お前は本当に小心者だな。普通の魔族ならこれ幸いと魔王様への恩を口にするぞ!』

「魔王様に向かって!?皆心臓が強いね!?」


 度胸がすごすぎる。

 到底アルーナにはそんなこと出来ない。


『魑魅魍魎どもだからな。自分の力が増えそうな案件は抜け目がない』


 アイビーが舌打ちして口悪く罵っている。

 ヒト型だったら、絶対ソイツを殺りに行ってるね。今だって、心当たりの有りそうな魔族の恨み辛みを言っている。


 その怨念引き寄せそうな感じも怖いし、知っているのも怖い。


「魑魅魍魎・・・」


 アイビーのその言葉に震え上がる。

 それを束ねている魔王様。絶対怖い人に決まっている。

 万が一バレたら勝手に部屋に入った罪で八つ裂きかな・・・。美味しく食べて貰えたら良い方なのかもしれない。


 自分の行く末が心配になる。そういえば、偉い立場の場合、逃げ道を作っておくのが普通だよね。

 ここにもそういう道ってないのかな。

 絶対魔王様には必要ないと思うけどね。


「ねぇここって、あのドア以外どうやって外に行けるの?」

『あのドア以外か。魔王様はご自身で転移魔法をお使いになるからな。基本ドアから出ていかれることも少ない』

「普段から転移魔法をお使いになるんだ・・・」


 転移魔法はものすごく魔力を使う。

 それをほぼ毎日とは、桁外れの魔力を持っていないとできない。

 アルーナは、流石魔王様と思うばかりだ。

 なんというか他の魔族とはレベルが違う。


 でも、それじゃあ別の抜け出し方なんて無いか・・・。

 このバルコニーからしか手段がない。

 私、一生ここから出られないのではないか。そんな不安にかられる。


『そういえば、先代の魔王は隠し通路を作っていたと思うぞ』

「本当!?」

『ああ、確かそのベッドの蛇の柄があるところ。その蛇の頭を右にずらすと壁から扉が出てきた気がする』

「やってみる」


 早速アイビーの言う通り蛇を動かしてみた。

 簡単に動くようになっている。

 カコンと壁の奥で何かが動く音がした。

 その壁の方に向かうと壁がうっすらと浮いている場所があった。そこに手を掛け横にスライドさせる。


「本当にあった・・・」

『外に繋がっているかは知らんが、色々な部屋に繋がっているらしいぞ』

「アイビーありがとう!」

『気をつけて行ってこい』


 アイビーに見送られて、一歩足を踏み出した。


「すごい迷路みたい」


 アルーナは、通路を歩いていた。

 明かりは付いていない。暗いままだが、アルーナにとって暗がりであろうと視界は変わらない。

 あちこち覗いたり、当てずっぽうで歩き出す。

 勿論帰り道が分かるように、アルーナの一部の種を蒔きながら進んでいるお陰で道に迷ったりはしない。

 厨房を覗くのは面白かった。


「あの方のおっしゃっていた通り。全く魔王様には困ったものだ!」


 ある部屋の前を歩いていた時、とんでもなく不敬なことを言っている声が聞こえてきた。

 ダミ声で聞きづらいな。


 アルーナは、気になってその声が聞こえる通路に歩いていく。


 小部屋になっているところに入ると、壁に耳を押し当てた。


「警告に毒物を混ぜてやったというのに、何事もなかったように政務をしやがって。誰が先代の時から治世を手伝っていると思っているのだ!」


 魔王様に毒物!

 アレの犯人はお前か!


 驚きで壁から耳を離す。

 アルーナの頭の上の葉っぱもピンッと立った。


 魔王様の部下にそんなことをする者が居るなんて。

 なんて無謀なことを。自分との力量差も分からない愚か者なんだ。

 野生だったら一発で食べられる。


 今、喚き散らしている魔族の男は力では魔王様に叶うわけがない。

 驚くほどのお馬鹿さだ。

 ガタンと物に当たり散らす音も聞こえる。


 あの毒も実際はアルーナは解毒したが、数日もすれば魔王様が自分で解除できたと思う。

 そんな相手に手伝ってやったなんて上から目線信じられない。

 ドン引きする。


「まぁ、良い。その余裕も3日後までだ」


 3日後まで?

 不穏な言葉にもう一度壁に耳を押し当てる。


「3日後になれば、警備も手薄。あ奴らに対処させればよい。それにいくら万全に見えようとも、まだ毒の影響はある筈。さすればこちらのものだ」

「対処って・・・。そういうことだよね」


 暗殺の2文字が頭を過ぎる。

 ・・・どうしよう。

 そんな責任重大な情報を当てられても、さっきのワクワク感は吹き飛んだ。


 アルーナは踵を返して部屋に戻っていった。


「アイビー!」

『な、何があったのだ!』


 部屋に戻ると早速アイビーに泣きついた。



『その魔族を此処に連れてこい!私が八つ裂きにしてやる!』

「アイビー・・・」


 はじめは驚いていたアイビーに、聞いてしまった一部始終を伝えると、激しく蔦を振り回し始めた。

 流石はアイビー見事に魔王様の部屋を傷つけることはない。

 空気中に叩きつけ、辺りにピシッとかパシッとか叩きつけるような音が聞こえるだけだ。


 い、怒り狂ってる。


 アルーナは、ヒト型じゃなくて良かったと思った。

 もし足があれば、すぐにその魔族の元に走って行って、飛び蹴りをかましそうだ。


「魔王様に伝えるべきかな・・・」

『アルーナ』

「魔王様。この前ので凄く私のことを怪しんでたよね。このことを伝えたら、今度こそバレて八つ裂きにされないかな」


 アルーナは考えすぎて、頭の上の葉っぱが萎びている。


 魔族はテリトリーを大切にする。

 そんな魔王様の私室に勝手にいるとなれば。考えるだけで恐ろしい目に遭う。


『魔王様はお強い・・・。事前に情報が無くとも打ち勝つことができる』

「・・・そう。だよね」


 アルーナはその言葉に、うなずいた。

 それでも心のモヤモヤは晴れない。

 アルーナは自分を落ち着かせるためにも、尻尾の種子を前に持ってきて、撫でた。


 聞いてしまった当日の夜。八つ裂き覚悟で寝台の天蓋をこっそり開けた。

 魔王様が目を閉じて眠っている。


 一回でも助けたからかな。魔王様に死んでほしくないと思う。

 あれからずっと悩んでいたのだ。

 言うべきか、言わないか。

 魔王様がお強いことは確かだ。きっと襲撃者にも対処できるだろう。

 あの不敬な魔族も魔王様に毒が回っている前提の話をしていた。

 解毒して完治している魔王様であれば、無傷で倒せるかもしれない。


 でも、油断をしていれば、かすり傷は負うかもしれない。

 その白磁のような頬に刀傷ができるかもしれない。

 

 自分の保身のために、口をつぐんでいて良いのか。

 テーブルの上のカップを見る。湯気がユラユラと揺れていた。

 あれから少しずつ成長をしている。今では椅子に登らなくても、テーブルの上が見れるようになっていた。


 テーブルから目を離して、もう一度魔王様を見た。

 きっと情が湧いてしまったのだろう。


 森にいた頃の自分だったら、きっと知らないふりをしていた。

 魔王様が時々書き物をしていた机に近づくと、紙とペンを抜いた。



 次の日、魔王様襲撃まで後2日。

 テーブルの上には、アルーナからの一通の手紙を置かれていた。



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