2、アルラウネと魔族の町
「・・・着いたけど、どうしよう」
アルーナは町がすぐ見える木の影からそっと町を見ていた。
町の門には鎧を来た兵隊が立っている。
いかにも怖そうな強面にアルーナは完全に腰が引けてしまった。
視線がこちらを向こうとしているのに気づいて、パッと頭を引っ込める。
樹を背にズルズルと地面に座り込んだ。
小さく三角座りをする。
森に帰りたいよ・・・。
ウジウジとした気持ちが湧いてくる。
はは様に言われて、奮い立てた気持ちもすっかり萎んでしまった。
今日は到底、町の中に入るのは無理だ。
明日になったら勇気が出るかもしれない。
今日じゃなくても良いよね。
しっかりしなさいと、叱責する自分の声に聞こえない振りをして、森の奥に視線を向ける。
風に葉っぱが擦れる音がする。
目を閉じて息を吸い込むと、魔素に満ちた深緑の香りがする。
そっと目を開けた。やっぱり落ち着く。
この森は、はは様の森と似ていて、アルーナにはとても過ごしやすい場所になっている。
アルラウネという種族にとって、草木が生い茂る場所は自分の半身のようなものだ。
自分の手足のような場所。
樹木はこんなに町に近くても生き生きとしているのが感じられる。
前に、はは様が領主様がしっかりしているところは、森も元気なことが多いって言ってたなぁ。
こんなに快適なら、ここに住んでしまいたいぐらい。
でも、アルラウネは一度は森以外に住まなくてはいけない。
アルラウネの性質上、必要なことなのだ。
数十年前、それを初めて知った時、アルーナは森を出るのが嫌でたまらなくて、何とか回避できないかと調べていた。
そのせいで他のアルラウネが本能的分かっていることも、頭でしっかりと理解している。
うう、行きたくないよぉ。
アルーナは憂鬱な気持ちを吹き飛ばすためにも、吸い込まれるように癒しを求めて森に入っていく。
町に入る時はあんなに重たかった足も、森の中では軽々と進んでいく。
「ここは?」
しばらく進むと、少し拓けた場所に湖があった。
太陽の光に照らされて、水面がキラキラと光っている。
その近くに、ふわふわと白い毛の塊のような花が咲いていた。
近くにしゃがんで、ジッと見つめる。
指でつついてみると、毛がふわふわとこぼれ落ちていく。
「すごいふわふわだ。なんて種類だろ」
『アルラウネだ。ボクはじめて見るよ』
つついていた花から、思念が届いてきた。これがアルラウネの種族の力。
植物はみんなアルラウネと意思疎通ができるのだ。
「こんにちは。アルーナって言うの」
『アルーナはこの森はじめてだよね。ボクはフワメリーだよ』
「可愛い名前だね」
楽しそうに一斉に語り掛けてくるのに耳を傾ける。
「今日はここで寝泊まりしても良い?出来れば擬態をしたいんだけど」
アルラウネは、日常生活は女体型の魔物。はは様からは、人間の男のおぞましさを沢山聞いていた。
その時のはは様まるで、地獄の門番みたいな顔をしていた。
一人で守ってもらう者が居ない場合は、草木に成り済まして過ごしなさい。それがはは様に、耳にたこができるくらい言われた言葉だ。
アルーナは自分が狙われるなんて思ってもいないが、はは様の言いつけを破ろうとも思わない。
基本的に内向的なこと以外は、聞き分けの良いアルーナはしっかりとはは様の言葉を守ったのだ。
『良いよ~。じゃあ、ここで寝なよ。真ん中の特等席だよ!夜はお星様が綺麗でとっても見応えがあるんだ!』
「夜が楽しみだね」
楽しげに話すフワメリー達にアルーナは、はは様の森を出てから初めて、心が弾んだ。




