1、アルラウネ旅立ち
「では、皆さん。ご機嫌よう。アルラウネの一族として立派に成長するのですよ」
緑色の髪の女性がにっこりと微笑んだ。
その身体に巻き付いている蔦はうねり、これから旅立っていく小さなアルラウネ達にまるで手を振っているように、動いている。
ああ、とうとうこの日がやってきてしまった。
アルーナは当日の朝から鬱々とした気分で、集合場所にやっとこさの思いで来たのだ。
鬱々とした気持ちのせいか、頭の上に一枚立っている葉っぱも萎びている。
今から回れ右で帰りたいよ。
落ち着かない気持ちを宥めるように、アルーナは自分の腰から生えている種子を身体の前に持ってきて、抱えている。
「やっと来たね」
「うん!私は花の精霊たちが言ってた国に行ってみようと思うの!」
「いいね!私は海のある町に行ってみようかな!」
他の皆が楽しげに囁いているのを耳にしながら、アルーナだけは、涙目で怯えて震えている。
その内一人一人が、自分の種子を持って、母が守る森を旅立って行くけど、アルーナだけは足がすくんで動けなかった。
「あらあら、アルーナどうしたの?」
はは様は一人旅立たないアルーナの元にやってくる。
「はは様。私、・・・私ははは様の元で一緒に過ごしたいです」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」
母であるアルラウネは、口に手を当てて上品に笑うと、腰までの背丈しかない小さなアルーナの頭を優しく撫でる。
アルーナはそれがとても好きだ。
はは様の手はとても温かくて優しい香りがする。ほわっと胸が暖かくなった。
アルーナは次の瞬間項垂れることになる。
「でもね。アルーナ」
「・・・う、はい」
「それは掟で出来ないわ。アルラウネの一族は皆どうやって花の咲かせるのかを学んだら、生まれた故郷から旅をしなくてはならないの」
「・・・はい」
「今年の子どもたちの中でも、とびっきり臆病なあなたを外に出すのは心配だけれどね。
あなたの為にも外に行かなければならないわ」
はは様の言うことが正しいことも、アルーナには分かっていた。
それでも、初めて行く外は怖がりなアルーナにとっては地獄に行くのと同じようなものだった。
そんなアルーナに、困ったようにはは様が頭を撫でる。
「そうねぇ。アルーナには、きっと人族の町は適応するのに時間が掛かるでしょうから。魔族の町に行ったらどうかしら」
「魔族の町・・・」
「そうよ。魔族の町であれば、色々な種族も居るでしょうから。アルーナと気の合う方もきっと居るわ」
掌からはは様が魔族の町を見せてくれる。
活気が溢れていて、明るい町だ。
はは様が言うように、鱗がある種族や半透明の種族、色々な種族が居た。
人族の町より、見た目だけでも多種多様。アルラウネの特徴的な、緑の肌を持つアルーナでも馴染みやすいだろう。
微笑むはは様を見て、アルーナは行かない訳にはいかなくなった。
「分かりました・・・」
アルーナは、自分の種子をギュッと握って、はは様を見上げる。
迷い込んだ人間が言っていた、まるで聖母のような微笑み。それは、アルーナの旅路を温かく見守るようであった。
行きたくないと駄々をこねても意味がないのは分かっている。
アルーナは、渋々と魔力を身体に纏わせると、見せて貰った町へ飛んだ。




