14、アルラウネとお仕事2
「これは素晴らしい!」
目の前の樹は、自ら樹の根を地面から引き抜いてそこに立っていた。
出たと思えば、樹の根の一本一本が蠢く。
ズリズリと他の樹にぶつからないように移動を始めた。
レノス様は邪魔にならないギリギリのところに立ち、恍惚とした顔で見ている。
ちょっと気持ち悪い。
樹はそのまま日の当たりの良い場所まで移動すると、次は地面を堀っている。
「器用ね」
思わず感想が漏れた。
「これを器用の範囲とするのは、如何なものかと思いますが」
「ハウウェルじゃないか」
「レノス殿。お邪魔しております」
アルーナは隣に来たハウウェル様を見上げる。風にさらわれて、銀髪の髪が翻る。
いつの間に居たんだろう。
それとなく一歩ハウウェル様から離れた。
目の前で樹が自分で地面に埋まっていく。
スコップ要らずだ。
『ふぅ~。極楽極楽』
ご機嫌そうに今でも鼻唄を歌いそうだ。
それに極楽って天国を指す言葉じゃなかったっけ?
『アルラウネありがとう!』
「どういたしまして」
『いや~、もうずっと嫌だったんだよね。隣と近いし、日が足りないし。もう散々よ。これでようやく、のびのびできるわ』
満足そうにして貰えて良かった。
嬉しそうな樹に、アルーナも嬉しくなる。
『あっ、これお礼よ。丁度食べ頃だから美味しいんじゃないかしら。他の魔族がそのくらいに成ったら持っていくもの』
「ありがとう。美味しくいただくね」
樹が差し出してきた紫色の実を貰う。拳大でツヤツヤとしていた。
『なぁ、俺らも良いか?』
アルーナと樹のやり取りを見ていた他の樹が話しかけてくる。
「なに?」
『俺も移動したいんだが』
「良いよ」
『本当か!?』
頷いて、話し掛けてきた樹に近づくと、他の樹からもテレパシーが届く。
それを皮切りに次々と話し掛けてきた。
皆がそれぞれ一気にテレパシーを送ってくるせいで聞き取れない。
「ちょっと待って!一本ずつだよ!」
『じゃあ、俺が先だな』
『次は私!』
次々と順番を決めていく。
沢山の樹が希望してくる。
ちょ、ちょっとそこまで一気に魔力を渡せないよ!?
アルーナは、アワアワと対応する羽目になった。
「お疲れさまですな」
「あ、ありがとうございます」
レノスから差し出されたカップを持つ。
今は休憩時間に入っていた。
お昼時まで樹達に捕まっていたのだ。
樹達の移動にはアルーナの魔力が必須。アルーナは自分の分身体を維持するギリギリまで使う羽目になった。
それでも、まだ希望する樹達がいるので明日もこの続きを行うことになりそうだ。
今は気力が尽きそうだ。魔力を渡すのも沢山だと疲れる。
アルーナはグッタリと、背もたれに凭れた。
明日で終わるといいけど・・・。
ぼこぼことした地面もならさないといけないし。
レノス様は、合間に樹達から聞き取り調査のようなものをしていて、それは何十枚もの紙に書いていた。
今も休憩中だというのに、アルーナに紅茶を入れるとレノス様はテーブルに向かって猛然と書いてある。
研究者ってやっぱり変わっている。
そういえば、ハウウェル様はいつの間にか居なくなっていた。
レノス様はこの様子だし、用件は大丈夫だったのだろうか。
「アルーナ」
「魔王様」
「・・・」
呼び方を不満そうにしている。
いつもならここで訂正していたが、防音のある部屋でもないし、一応レノス様もいる。
全く魔王様がいらっしゃったことに気付いていないけどね。
全く紙から視線をあげる気配がない。
しかも、そんなレノス様を魔王様が咎めないことに、頻繁にあるのだろう。
むしろ、レノス様はよく魔王城に上がれたな。
誰がどこで聞き耳を立てているか分からないのに。
「ここはお部屋じゃないですよ」
「構わない」
むしろ、構ってほしい。
アルーナには魔王様の言葉を拒否することはできない。
「バート様、私に何かされたら助けてくださいね」
「無論だ。昼を持ってきたから一緒に食べるぞ。ハウウェルから聞いたが魔力を立て続けに使っていたのだろう。しっかり休め」
魔王様が何処からか、皿を取り出した。
椅子をアルーナの側に引き寄せると、魔王様が腰かける。
「魔王様もお昼まだだったんですか」
「ああ、一緒に食べようと思ってな」
ハウウェル様、それを知っていてタイミングを見計らう為に見に来てたなんて、まさかそんな事はないよね?
まさかとは想いながら、魔王様が口に入れてくれた果物を食べる。
「ちなみにそのテーブルの果物の山は何だ?それぞれ結構な量だ」
「樹がくれたんです」
「・・・?樹がくれたのか?」
魔王様が首をかしげながら、魔法で水を出すと一つ洗う。
白磁の長い指で果物の真ん中を叩くと、くし切りに八つコロンと皿の上に転がった。
魔法ってこんなに細かい作業ができるんだ。感心する。
魔王様はなんて事無いかのように追加でそれをアルーナの口に放り込む。
「新鮮なのも良いだろう」
「・・・んっ。ありがとうございます。とても美味しいですよ。魔王様もいかがですか」
「ああ、じゃあ頂く」
「私も頂いていいかね?」
あっ、レノス様戻ってきた。
インクで汚れた手を魔法で洗っている。
「レノス。どうだった?」
「今後ともよろしくお願いしたいですな。実に素晴らしい。樹が動き出した時のあの感動!ぜひ、陛下にもお見せしたい!」
レノス様は頬を紅潮させ喜んでいる。
それだけ喜んで貰えたら嬉しい。
今も自分が見てきた感想を滝みたいに言い続けている。
よくそこまで色々な言葉を使って褒められるな。
魔王様がドン引きしている気配がする。
アルーナも嬉しい気持ち半分、気持ち悪さ半分だ。
「・・・樹が動くのか」
魔王様がチラリと、アルーナを見る。
レノス様との会話を諦めたんだな。
「自分で移動してもらったほうが楽ですから。自分で土の中に埋まってくれるので掘らなくてもいいですし。もともと入っていたところは午後から埋める予定です」
「そうか」
魔王様が複雑そうな顔をする。
「どうしました?」
「いや、別に何でもない」
魔王様が歯切れ悪そうに言い、紅茶を飲んでいる。
どうしたんだろう?
「陛下も成長されているのですな」
レノス様は微笑ましげに、目を細めている。満足したのか紅茶を飲んでいる。
あれだけ喋っていれば、それは喉が渇くだろう。
というか、成長ってこの図体で?
隣の魔王様を見上げた。
アルーナはツッコミそうになるが、押し黙る。
「・・・うるさい」
「ほほほ」
楽しげなレノス様に対して、魔王様が睨みつけている。
なんだか拗ねた孫を微笑ましげに見る好々爺のような雰囲気。
二人は仲が良いんだろうか。
思ったよりも温かみのあ関係性みたいだ。
それになぜか深く安堵したのだ。




