12、アルラウネと城下町2
「さてと、そろそろ昼頃だな」
「・・・バ、バート様もお腹すきました?」
やっぱり呼びにくい。
「ああ、アルーナも燃費は良いが食べられないことはないんだろう」
「はい、光合成の方を少なくしたら良いので」
「・・・光合成するのか?」
「しますよ」
魔王様が驚いた顔をしている。
魔王様がなんだか幼く見えた。
気のせいか。
それにしても、そんなに驚くことだろうか。アルーナは、キョトンと首をかしげる。
アルラウネは植物の魔物だ。当然光合成もする。
魔王様でも驚くことがあるんだ。逆にアルーナの方はそれにビックリだ。
「いつもフルーツばかり食べているが、お前は肉は食べるのか?」
「お肉は食べないです。野菜とかフルーツばっかり」
「そうか、ならカフェのが良いか。普通の食堂だと肉しか無いところもあるからな」
魔王様は、当たり前のようにアルーナのご飯を優先して考えてくれる。
たぶん魔王様は肉食だ。私にご飯を与えながらも、自分にご飯を召し上がっている時はステーキとかも多い。
あれこれ悩む魔王様を不思議な気持ちで見上げた。
「此処にするか」
「ここ・・・」
魔王様が連れてきてくれたのは、街の隅の方にある店だ。
甘い香りも漂ってきている。
「ああ、ここのケーキは旨いからな。魔王城にもよく卸している。ハウウェルは大の甘いもの好きだからな。何やかんや言い訳をしながら食ってるぞ」
「ハウウェルって誰ですか?」
「お前に紹介していなかったか。襲撃の後に入ってきてた魔族だ」
「ああ、あの方ですね」
ハウウェルとは、銀髪の魔族のことだったのか。
几帳面で潔癖なところがある彼が甘いもの好き、なんて知っていても良いのか。
本人は隠していそうな感じだな。会っても、スイーツの話題は振らないようにしよう。
照れ隠しに燃やされたら溜まったもんじゃない。
魔王様が扉を引いて中に入れてくれた。
透明なショーケースの中に綺麗なケーキが並んでいる。それに目を奪われていると、肩に手を乗せられた。
「いらっしゃいませ」
「二人だ。奥の席を頼む」
魔王様は懐から何かを取り出すと、スタッフに何かを見せている。
スタッフは頷いて、奥の席に案内してくれた。テーブル席で布で覆われている。他の者の目を気にしなくてもいい席だった。
「何を見せたんですか?」
「これだ。魔王軍の紋章だな。ある程度はどこもこれで融通がきく。便利なものだろう」
魔王様が見せてくれる。
木の板に細かく彫られた魔石が嵌め込まれていた。
魔石を彫るのは大変だと聞いた覚えがある。こんなに細かい意匠だと尚の事だ。
「欲しいか?」
魔王様がとんでもないことを聞いてくる。
アルーナは慌てて首を横に振った。
「欲がないな。ツケ払いも利くぞ?」
ツケ払いって、絶対それ以外の効力がスゴいやつだよね。
間違ってでも手から滑らせて落とさないように、丁寧に返した。
「私は弱いので、すぐに奪い取られてしまいます」
「心配するのはそこか」
魔王様が面白そうに笑っているが、アルーナにとっては持っていることを知られたら、襲われそうなものは要らない。
なんなら、一人で町中を歩くこともまず無い。アルーナには過ぎたものだ。
森ではお金なんて使わないからね。
「まぁいい、アルーナは今後一人で外を歩くこともないだろうからな」
魔王様の言葉にアルーナは首をかしげる。
町中限定ではなく?
謎の言葉にアルーナは聞こうとするがメニューを見せられて、流されてしまった。
「お待たせいたしました。サンドウィッチのセットと季節のフルーツの盛り合わせでございます」
メニューにあった通り、とても美味しそうだ。フルーツがつやつやとしている。
魔王様の前には、サンドウィッチとパスタのセットになっている。サンドウィッチには、フルーツが挟まっている。フルーツサンドだ。
「では頂くか」
「はい」
アルーナはフルーツが盛られた皿にフォークを伸ばす。ここにもグレイプの実が盛られている。真っ先にそれを口に入れた。
このお店のも美味しい!
アルーナの頭の上の葉っぱがピコンと立った。
じゃあ、こっちはどうだろう。
次はこの赤い実だと、フォークくぉ突き刺した。
これも甘くて美味しい。もっと食べたくなる!
「フッ、そんなに旨いか?」
「・・・んっ、はい。とても美味しいですよ。よかったら食べますか?」
フォークに赤い実を刺す。
柄の部分を差し出した。
「・・・じゃあ、食べさせろ」
「えっ・・・」
魔王様がニヤリと笑うと、口を開いた。
アルーナは、フォークを握ったまま、ピシリと固まる。
そんなアルーナを見て、魔王様は面白そうに笑っているのだ。
・・・悪趣味!
食べさせて貰う方は馴れたけど、食べさせる方には馴れていない。しかも、アルーナが幼い姿の時ばかりだ。
森にいる頃だったら気にならなかったのに、なんで最近気になるんだろう。
アルーナは頬を赤く染めて、睨み付けた。
しかも、絶対に退いてくれなさそうだ。
ううっ・・・。人目がないだけよかったと思っておこう。
フォークを持って、赤い実を魔王様の口許に入れた。
「如何ですか・・・」
「うん、旨いな」
目を細めて笑っているのを見ていると、仕方ないなという気になってしまう。
でも、不思議だな。
魔王様でもこんな風に笑うんだ。
いつものキリッとピリッとしているのが通常なのかと思っていた。
魔王様は意外な一面が多い。
可愛いもの好きだし、甲斐甲斐しいしね。
引きこもり期間は除いて、出会って間もないのに気が緩んでいる気がするな。
たぶん魔王様からしたら、ペットみたいなものなのに・・・。
アルーナは自分自身に苦笑する。
魔王様の怖い面以外をみてしまうと、遥か雲の上の魔族が身近な存在に感じてしまう。
うーん、流石に図々しいな。
アルーナは自分の考えを振り払うように、首を横に振った。
アルラウネ以外と交流がなかったアルーナが、他の魔族と関わることになって浮かれているだけだ。
そうに決まっている。
森に戻るまでは、そんな生活を享受しても良いか。
アルーナはそんな風に考えていた。




