11、アルラウネと城下町
魔王様のあだ名と名前を変更しました。
名前→アダルブレヒト
あだ名→バート
「ほら、いつまでそうしているつもりだ。さっさと出てこい」
「行かなくてはダメですか?」
「ああ、久しぶりの実体だろう。早く見せろ」
実体だから嫌なんだけど。
しばらく分身体で動いていたせいか、自分の実体で歩くのは変な感じがする。
外に出づらいな。
ウジウジと白いワンピースの裾を握る。
魔王様に起こされるまで、アルーナは寝こけていたのだ。
起こされる声に目を覚ますと、真横に魔王様の顔があって驚いていた。朝から心臓に悪いことの連発だ。
ベッドから落ちるかと思ったよ。
魔王様がどうやったのか、ウサギのぬいぐるみからアルーナの種を取り出して、勝手に実体化をさせていたのだ。
分身では見せてなかった緑の肌に成っていて、アルラウネの特徴がハッキリと出ている。
しかも、どうやってもフワメリー達の姿に戻ることも出来ない。
魔王様が魔力の流れを邪魔しているのだ。
驚いているとその混乱が収まる前に、城のメイドみたいな魔族達が入ってきた。プロの仕事で一切気配を感じなかった。
魔王様の顔を見るが、メイドが持ってきたトレーに乗っていたフルーツを口に入れるだけで気にした様子がない。
アルーナは慣れない状況に、メイド達にチラチラと視線を送るっても誰とも視線が合わない。
朝食を終えると、魔王様がメイド達にアルーナの着替えを命じて部屋を出ていった。
「ま、魔王様・・・」
えっ、置いてかれた!
「さぁさ、魔王様のご命令ですからご準備いたします」
ニッコリと笑うメイド。
その笑顔に抵抗するのは無意味だと、アルーナはすぐに諦めてメイド達に準備をされるがままになる。
お城に居るメイドだからか、アルーナより強そうで抵抗なんて出来なかった。
髪を結われ、化粧を施される。
昨日魔王様が言っていた服も、サイズが大きいものから小さいものまで準備してあった。
それに合わせた靴もアクセサリーも準備されている。
魔王様を待たせるわけにはいかないというメイドの圧に押されて準備は完了した。
そして、今は魔王様と対面する前に粘っている。
幾ら分身体で魔王様に慣れたからって、実体とは話が違う。
「俺を待たせるつもりか?」
「すぐ行きます!」
魔王様の声が低くなったことに、慌てて扉を開ける。
わぁ、すごく格好いい。
目の前に腕を組んで立つ魔王様が、今日もとても格好いい。
いつもマントを羽織っている、威厳のある服を着こなすのにも眼を引くが、今日は少しラフな装いで、普段は見えない首筋と鎖骨辺りにドギマギする。
魔王様の隣に立つ私。嫉妬で消されてしまうのでは無いだろうか。
いつの間にか路地裏に引っ張られていったりしないだろうか。
想像だけでも大変なことになる。
こんな色気が駄々漏れの魔王様と一緒に居て、無事に帰ってこれるのだろうか。
魔王様を見て固まっているアルーナに魔王様は上から下まで視線を向けると、満足そうに頷く。
「では行くか」
魔王様が肩肘を出す。
アルーナに視線を向けてくるので。掴まれという意味だろうが恐れ多すぎる。
魔王様に手を掴まれて、強引に腕を組まされた。
実体の方が成長している分、魔王様の顔と近く感じる。
転移魔法が掛かった。
瞬きした次の瞬間、景色が街中に変わっていた。初めに来た町とは違うより活気に満ち溢れていた。
路地裏に転移したのに、表の賑やかさが伝わってくる。
街中の雰囲気を味わっていると、魔王様の赤い瞳と目があった。
「体調はどうだ?」
「大丈夫です」
遠いところの転移は酔いやすいと聞いたことがある。
それを心配したのだろうか。そうか、と頷くと腕を組んだまま歩き出してしまう。
「まずは市場でも回るか。欲しいものがあれば言え」
魔王様の言葉にコクコクと頷いた。
言える努力はします!と心の中で答える。
「魔王様、魔王様!アレはなんですか!」
都会という刺激は森育ちのアルーナからしたら、眩しいものばかりだった。
一人なら慣れない街歩きにへとへとになっていただろうが、今は魔王様がエスコートしてくれている。あっちへフラフラこっちへフラフラ歩いていてもエスコートが完璧で、他の魔族ともぶつからない。
初めに遠慮していたのは何処かへ、今はアルーナがグイグイと魔王様の腕を引きながら、興味が赴くまま歩いている。
魔王様もアルーナが自由に歩くことを許していた。
歩いていると、街中の一角から楽しげなテレパシーが飛んでくるところがあった。
花や苗が沢山売っているお店。脇にはお洒落な水を上げる道具も置いてある。
本当に街に花屋があるんだ。アルーナはそんなところに感心していた。
森の中では、はは様の影響でそこらじゅうに美しい花が咲いている。
花屋は無いのだ。
植物となれば、アルラウネにとって目がない。一番アルーナの心を惹く。
「魔王様、此処に入ってみたいです!」
アルーナが魔王様を見上げる。
魔王様が優しい顔をしていて、驚いた。
「構わないが、呼び名を変えて貰おう」
「魔王様ではダメなんですか?」
「それではお忍びの意味がないからな。バートと呼べ」
魔王様のしかも、略称を呼ぶなんて良いのだろうか。
逡巡するが、魔王様が言うのならと頷いた。魔王様に近づけたみたいで嬉しい気がする。
「邪魔するぞ」
「はーい、いらっしゃーい」
奥からエプロンを身につけた女の魔族が出てきた。
「あらぁ、とびっきりの良い男と、可愛らしいアルラウネね、いらっしゃい」
微笑んで出迎えてくれたのは、サキュバスだった。
森を出てから美人にしか会ってない気がする。
あ、あのダミ声は別か。
『あれ?初めて見たアルラウネじゃん!』
『本当だ!僕も初めて見た!』
それぞれ自由に話しかけてくる。
元気一杯な様子に、大事にされているのが伝わってきた。
「うふふ、アルラウネに来て貰えるなんてなんて幸運なのかしら」
「とても花達が喜んでます。丁寧に手入れをしているんですね」
「そうよぉ。旦那様が一輪一輪心を込めてるの」
「旦那さんがいらっしゃるんですね」
「今も奥からこっそり覗いているわ」
サキュバスの店員さんが指差す方をみると、扉の向こうに大きな魔族が立っていた。
視線に驚いたように、ドンッとドア枠の上部分に頭をぶつける。
アルーナはその姿を見て、魔王様の腕をギュッと握る。ぴったりとくっついた。
アルーナがビックリしたのが分かったのだろう。魔王様がアルーナの手をポンポンと叩く。
店員さんは、旦那さんの方を向いていて気付いていない。
怖がるのは失礼なので、バレていなくて良かった。
「あらあら、大丈夫?」
「・・・ああ」
旦那さんは店員さんに頷くと、そのままそうっと奥の方に引っ込んでいった。
「ごめんなさいね。照れ屋さんなの。普段は全く店の方に姿を見せないから、よっぽど嬉しかったのね」
店員さんが可愛いわ、とにこにこと微笑んでいる。
あの巨漢な旦那さんを可愛いと言えるのがスゴい。これ惚気られてるよね。
『二人は超絶ラブラブなんだぜ。お陰で白い花なのにピンクになっちまいそうだ』
花も認める仲の良さなんだ。
微笑ましいような呆れるような。
「何か気になるのはあったか?」
「アレが気になります」
棚の一つを指差す。
「あれはランダムで種を入れてあるのよ。育て方は一緒のものばかりで、方法も書いてある紙を入れているのよ。アルラウネには必要ないかもだけどね」
「それをくれ。あとこの花を頂こう」
「分かったわ。少し待ってね」
店員さんがラッピングをしてくれる。
「これは俺が預かっておく。帰ったら好きなところに植えれば良い」
「ありがとうございます」
どんな花が咲くのだろう。想像するだけで、楽しみでたまらない。
アルーナはふんわりと笑った。
「初めて笑ったな」
「そうですか?」
「ああ、ずっと怯えていただろう」
見透かすような魔王様。
気付かれていたんだ。そういうことを気にしないのかと思っていた。
魔王様は一度もアルーナを傷つけようとしたことはない。なのに怯えているなんて気分は良くなかった筈だ。
「ごめんなさい」
「謝ることはない。それも生きる術だからな」
魔王様はアルーナを抱える。驚いて俯いていた顔を上げた。
膝の裏に腕をまわされた。
「それに俺にだけ懐く姿をみるのも悪くない」
ニヤリと笑った魔王様に胸がドキッと鳴ったのはきっと気のせいだ。




