10、アルラウネと首謀者
魔王様の名前を変更しました。
「アルーナ」
「はい、魔王様」
あのダミ声の魔族が出ていった。
その直ぐ後に声をかけられて返事をする。
アルーナが魔王様の執務室で初めて声を出す。それに驚いた補佐官達は朝のように動きを一瞬止めた。
「アレが例の奴で間違いは無いんだな」
「はい、間違いございません」
「よくやった」
「ありがとうございます」
魔王様はゆるりと口角を上げる。
艶然としていて、なおさら恐ろしさが増す。
美しい魔族は怒ると怖い。
どう甚振ろうかと考えている眼だった。
あの魔族、御愁傷様だね。
アルーナは、とりあえず話していた人物が見つかったことに安堵した。
襲撃当日。
魔王様の予想通り、襲撃者は朝方にやって来た。
夜の方が警戒をしているから、警戒が緩む朝方に多いらしい。
また一つ賢くなった。
魔王様から今日はバルコニーに出ないようにと厳命を受けている。
アルーナは執務室から部屋に戻ってくるなり、ウサギのぬいぐるみに戻っていたのだ。
『アルーナ!侵入者だよ!』
「来たか・・・」
アイビーと魔王様が直ぐに侵入者へ反応する。
「アルーナ、そこから動くなよ」
魔王様の言葉に見えないと分かっていながら、コクコクとぬいぐるみの中で頷いた。
フッと笑われた気配がする。
その後すぐに何者かが滑り込むように室内に入ってきた気配がした。
本当に来ちゃった。
アルーナはひたすらぬいぐるみの中で縮こまる。
バレたら弱っちいアルーナから狙われるのは確実だ。
「よく来たな。愚か者ども。この程度の数でこの俺を殺れると思われているのは心外だな」
不機嫌そうな魔王様の声が聞こえる。
「魔王アダルブレヒト。毒は効かなかったようだな」
「毒とは何のことだ?」
嘲笑うような魔王様の挑発に、侵入者達が殺気立つ。
一応効いてたよ、とこっそり心の中で思った。
魔王様の名前ってアダルブレヒトなんだ。今更魔王様の名前を知る。
侵入者達が教えてくれて良かった。万が一知らないって言って魔王様の機嫌を損ねたら一大事だ。
キンッと金属がぶつかる音がする。
それのすぐ後に壁に何かがぶつかる鈍い音もする。
「さてと、おしゃべりは嫌いなようだな」
多分、魔王様が侵入者を壁に飛ばしたんだろう。
「俺も可愛いウサギを寝かせねばならんからな。さっさと終わらせようか」
ウサギって私のことかな。
アルーナは魔王様に子どものように扱われて、不満気に思う。
魔法の破裂する音や、侵入者達の断末魔が聞こえる。
着実に侵入者を倒しているのか、段々と音が小さくなっていった。
魔王様が勝つことは全く疑っていない。それでも、怪我はしていないだろうか。
アルーナは心配でどうなっているのか気になって仕方がない。
情報はアイビーが応援で白熱している声と、侵入者のヤられる音ぐらいだ。
アイビーが怒り狂っていないところを見ると大丈夫だと思うけど。
「アルーナ、もう出てきても良いぞ」
魔王様からお声がかかり、アルーナは直ぐに分身を作り出す。
「魔王様、お怪我はございませんか」
魔王様を頭から足先までしっかりと確認する。
毒を使われている様子も無かった。
姿を確認できたところで、ようやく一安心できた。
「ああ、この程度の輩に傷つけられるほど弱くはない」
「それは良かったです」
アルーナが頷くと、またヒョイッと軽々と抱き上げられる。
目の前を魔王様の掌で覆われた。
「眼を瞑っていろ、移動する」
言われるがまま大人しくしていると、隣の部屋に移動したみたいだ。
アイビーの魔王様を呼ぶ声が遠く聞こえてくる。
「もう開けても良い」
目を開けると、見知らぬ部屋だった。
視界の端で謎の生物が蠢いた。
そちらの方を向く。黒い軟体の生き物が身体を伸ばしながら動いていた。
未知の生き物との遭遇。アルーナは、無意識の内に魔王様の服を握っていたが気付いていない。
これは生物なんだろうか・・・?すごく伸びたと思えば、縮んでいる。
ウニョウニョと謎の動きを繰り返すこの生き物から目が離せない。
目を離した途端、急に近づいてきたらアルーナは失神する自信がある。
自慢にもならないことを思っていると、魔王様に髪を梳かれた。
「アレは俺のペットのライムだ。お前のことは食わないから安心しろ」
食べるのっ!?
今、お前のことは、って言った!
眼を剥く。
「そんなに眼を大きくすると、こぼれ落ちるぞ。お前は中のを片付けてこい」
ライムはズリズリと寄ってきていたのを、ポヨポヨと跳ねながら、魔王様の寝室に入っていった。
ねぇ、今なんで寄ってきてたの!?食べるためじゃないよね。
アルーナのことを食用として見ていたのではないかという疑惑が捨てられない。
「ほら、落ち着け」
「落ち着いていられません!」
無理無理と全力で首を横に振る。
ライムは絶対にアルーナのことを食べられるか確認していた!
魔王様はそんなアルーナを面白がるように、微かに笑っていた。
絶対に離れないと服を握りしめるアルーナを宥めながら、魔王様はソファーに座る。
アルーナは当然膝の上に置かれた。
扉がノックされた。
魔王様は緩んでいた顔を引き締めて、アルーナにフードを被せた。
「魔王様、夜分遅くに申し訳ございません」
「入れ」
厳かな命令が下される。
魔王様の鋭い雰囲気に膝の上を降りようとするが、腰に手を回されて阻まれた。
「失礼いたします。・・・っ」
昼間に見た銀髪の魔族だ。
アルーナを見て驚いた表情を浮かべるが、すぐに圧し殺した。
「奴は捕らえたか?」
「はい、ご命令通り恙無く」
「良くやった。こちらも侵入者を捕らえている。尋問して吐かせろ。他にも耳打ちをした者が居ないかの確認をしろ」
「承知いたしました」
銀髪の魔族が深々と頭を下げる。
「それと明日は1日出かける。用が出来れば伝令を飛ばせ」
明日は魔王様いらっしゃらないんだ。
折角だから、アイビーとお喋りでもしようかな。きっと嬉々として魔王様が戦っていたところを話してくれるだろう。
「馬のご用意は如何致しましょう」
「遠乗りはしない。そうだ、女物の外出着を用意しろ」
「女性ものですか?」
「ああ、これが今回活躍したからな。褒美を遣らねば」
魔王様がポンッとアルーナの頭に手を置く。
褒美って私にか!
お留守番だと思っていたので、慌てて魔王様を見上げる。
「お前の褒美を探しに行くぞ」
ニヤリと魔王様が笑った。




