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時を超える鳥たち  作者: ハインド
第1章 ハワイ事変編
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第7話 愛と絶望の記憶に包まれて その2


 コォーッ、コォーッ、コォーッ、コォーッ。

 酸素マスクから酸素が排出される音が、コックピットを支配している。アルベルとカーター准尉の二人はキョロキョロと辺りを見回す。雲は無く、視界はすこぶる良好。現在地も接触予定空域がかなり近いはずだが、まだニーナ中尉の機体は見えない。


little(リトル) shark(シャーク)、何か見えるか?」


「いえ、何も」


 見えてこない。二人の緊張がより張りつめていく。


「レーダーにも映りません。そちらのFCSはどうですか?」


「そっちのレーダーに映ってないんだ。こちらに映る訳ないだろう」


 カーター准尉は、ですよね、とでも言いたげにため息を吐いた。予定空域から出ないようにゆっくりと機体を旋回させる。機体が左に数度傾いてゆっくり、ゆっくりと周っていく。またキョロキョロを周りを見渡す。

 会話から少しして、カーター准尉が後ろを見て、今度は前を向こうとした時だった。チラッと光の反射が視界の端に見えた気がした。確認しようともう一度後ろを向いた瞬間だった。ロックオンされたことを知らせるアラートがけたたましく鳴った。


Shit(シット)!ロックオンだ!どこにいる!?」


 相手の場所を把握していないアルベルが叫ぶ。操縦桿を巧みに操り、機体をロールして機首の方向を変え、また変え、蛇行してロックオンから逃れながら、相手の位置を探す。


「見えた!7時の方向!距離推定13!」


 カーター准尉が叫ぶ。声に反応してアルベルが操縦桿を手前に、スロットルレバーを奥へ倒した。強烈な加速感と共に機体はグングンと上昇していく。5000…5500…6000…6500…。


「目を離すなよ、一気に距離縮めるからな。7500…8000…、機首反転…3…2…1…NOW!」


 アルベルは掛け声と共に機体をロールさせた。視界が引っ繰り返り、真上には空ではなく青い海が見える。全身の血が脳に集まる間も無く、体に自身の体重の何倍もの力がかかり、ブラックアウト防止のための装置で、フライトスーツに足を締め付けられる。唸り声にも似た呻きを発しなお、旋回を止めない。

[スプリットS]、そう呼ばれるこの機動で、上げた高度を一気に落とし速度を得る。小さな雲を纏い、一気に音を超えた世界へ二人を誘う。


「グッ…ッフゥッ!」


アルベルは押しつぶされてまともに空気を吸えない体に鞭を撃ち、無理やり空気を肺にねじ込む。何年か前にはすんなりと出来たこの機動で己の衰えを感じる。

機体が正しい姿勢に戻り、真上には蒼い空が戻る。右ロール、左ロールと機体を左右に振り、周囲を見回す。


flame(フレイム)!正面から来ます!11方向!」


 カーター准尉に声に反応して即座に左ロール。相手の機体を見る体制を整える。そして一瞬。黒い物体が通過していく姿を二人は目に焼き付ける。


「当該不明航空機発見!追随し警告を発します。許可求む!」


[こちらHQ。警告を許可する。警告に従わない場合、警告射撃を行い、なお従わない場合撃墜を許可する。今回は訓練のため警告、及び警告射撃を省略し敵機と認定。撃墜行動に移行せよ]


了解(ラジャー)


 会話をしながら旋回し即座に敵機の後ろに付く。


little(リトル) shark(シャーク)、機体を目視出来たか?」


「出来ました。恐らくF-35CF…だと思います」


 アルベルは驚いていた。感覚若干鈍っているとはいえ、割と激しい機動でも気絶せず、受け答えもすんなりとすることに。いままで後ろに乗った者たちは、だいたいこのスプリットSで気絶まではしないもののこんなにすんなりと喋ることは出来なかった。


「…。根拠は?」


「安定してレーダーに映らないこと。単発。傾いた垂直翼。ステルス機特有のマッドブラックのカラー。オーストラリア海軍機であること。後はカンです」


 答えを聞いて言い表せぬ感情を抱いた。

 堂々とカンと言ってのける度胸への、ちょっとした不安。

 スラスラと根拠を言えるほどの知識に対する自信への安心感。

 そして何よりこの状況下で垣間見えた彼女のポテンシャルの高さへのワクワク感。

 これらが複雑に絡んだ感情がアルベルを支配する。しかし、今は空の上。そんなことをそんな事を考えていたのではあっという間に落とされてしまう。


「…及第点だ。話は後。追撃するぞ!」


 この一言で切り替えることにした。


了解(ラジャー)


 アルベルの機体は、左右に蛇行する敵機の動きをもろともせずピタリと真後ろに付く。アルベルが見る画面には、敵機を示すコンテナアイコンと自機のFCSがどこを見ているのかを表すアイコンが表示される。少しずつ、じっくりと、ゆるやかに、アイコンが重なっていく。そして重なる。


「ロックオン、Fox(フォックス)2!」


 ミサイル発射宣言。果たして当たったのか。


[敵機ミサイル命中、撃墜]


 撃墜判定。どうやら当たったらしい。


「一機撃墜!ナイスキルです」


「まだ一機いるぞ。周囲警戒!」


 再び二人がキョロキョロと周りを見渡す。すると、またけたたましくロックオンアラートが鳴る。条件反射のように機体を回転させながら降下する。


「こちらからは見えない!見えるか!?」


 叫ぶように確認を促す。


「敵機…」


 またキョロキョロと周りを見渡す。が見えない。ロックオンアラートがミサイル接近を知らせるミサイルアラートアラートに変わった。


Shit(シット)!」


 悪態をつきながら左ロール。機体が左を向く。向いた瞬間、アルベルたちを尻目にF-35CFが、手が届きそうなほど近い距離を上空から突っ込んできた。F-35CFのパイロットがこちらを見ていたことも確認できたほど近い。永遠にも思える一瞬が過ぎていく。突っ込んできたF-35CFは海面に向かってダイブを続け、海面直前で機体を水平にして、アルベル達の機体の後ろに付くために上昇してくる。


[Egret(イグレット)1撃墜。帰還せよ]


 突然の出来事で左に傾いたまま呆けていたアルベルは、通信の声で気が付く。機体を水平に戻すと後ろに二機のF-35CFが付いてくるのが見えた。アルベルは二機を先導するように基地へと進路を取った。







 戦闘訓練が終了し帰路へ付いてしばらくして、クロエは震えが止まらなくなっていた。出撃前、戦闘中と、アルベル中尉の仕草や言動が、忘れようとした記憶をチラつかせていただった。戦闘中はまだ"マシ"だった。次から次へと状況が変化していた為、鮮明に記憶が前に出なかった。戦闘が終わり冷静になると、出撃前、戦闘中の記憶が引き出され、引っ張られるように忘れようとした記憶も引き出されつつあった。


[アプローチ管制からEgret(イグレット)1へ、レーダーで捕捉した。Runway(ランウェイ) 26R、最終進入経路へ誘導。機首方位そのまま、高度2000mまで降下してください]


「了解。誘導に感謝する」


 高度と速度が下がり、うっすらと陸地が見えてくる。離陸の時とは打って変わって、強烈な押さえつけは息を潜め、代わりに速度が低下したことで浮遊感が離陸の時より強く襲ってくる。その内、浮遊感と記憶を無理やり押さえつけていたという精神的な疲れから、心拍と呼吸が荒くなっていく。


「どうしたlittle(リトル) shark(シャーク)little(リトル) shark(シャーク)?カーター准尉?」


「なん…でもっ…ありっ、ません。気にしないで、くだっ、さい…」


 荒くなった呼吸は会話をも困難にさせた。押さえつけていた記憶は徐々に力を増し、より鮮明に、より克明になりクロエの頭を支配する。


「だが、そんなじょうた…」


[アプローチ管制からEgret(イグレット)1へ、Runway(ランウェイ) 26R、最終進入経路への進入確認。着陸を許可する]


「んんっ…。了解。着陸する」


 アルベル中尉の言葉は通信によって遮られた。滑走路が見えて、より一層速度と高度が下がる。空気は既に通常と同じはずなのに息苦しくて仕方がない。本当は蹲ってしまいたい程苦しいが、着陸のために必死で前を向く。これを乗り越えればもう終わる。この空間から出ることが出来る。アルベル中尉から離れれば、この記憶も頭の奥底にしまうことが出来る。機体が滑走路差し掛かる。終わる、はずだった。


 視界の端に黒い物体が二つ。機体に向かって突っ込んできた。一つは足元へ、一つはアルベル中尉の前、機首とキャノピーの間へ勢いよくぶつかった。黒い物体が弾け、赤い液体がキャノピーを覆った。

ぁ…、という言葉と共に抑えきれなくなった記憶が、一気にクロエを支配する。自らの絶叫耳に響きながらクロエの意識は、闇へと堕ちた。



戦闘終わりました。やはり戦闘描写を文字に起こすのは大変ですね。その辺、他の方々はすごいと思います。(小学生並の感想)

さて、前回登場のオーストラリア海軍シータートル隊ですが、隊名は鉄道特急にちなんだモノを考えていたのですが、すいません手詰まりでした…。完全に手詰まりではないのですが、オーストラリアっぽいものが浮かびませんでした。本当にごめんなさい。ここから先もちょいちょいちなんでない名前も出てきますがご容赦ください。

劇中のシータートル隊の機体は、F-35の艦載機型であるC型のアップデート機という設定で使ってます。オリジナル設定は少なめですね。

取りあえずの解説はこれぐらいですね。また解説が必要になればあとがきに書きます。

Twitterもやってます、名前はクラカヂール@なろう作家挑戦中です。進捗やなんてことはないつぶやきが載っています。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。

次回第8話です。

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