第6話 愛と絶望の記憶に包まれて その1
部隊編成から一か月ほどが経った。
この一か月の間に補充と演習を済ませた各艦隊はハワイを出て、元の駐屯海域へ出航した。
一方でアルベルたち第11国連空母艦隊所属第1部隊は、新しい機体の飛行ライセンス取得や艦隊の構成、機体に関する座学、トレーニングなどを行っていた。その訓練の一環でアルベルは格納庫に居た。
「今日の飛行訓練…、F/A-18によるDACT(違う機種を相手にする模擬戦闘訓練)…。相手は…オーストラリア海軍第901試験戦闘飛行部隊 Sea Turtle(ウミガメの意)隊…」
オーストラリアらしい名前である。
「君が今日のDACTの相手?噂より優男じゃないか。本当に君があの相方殺しなの?」
格納庫に何人かフライトスーツ着た者が入って来た。声の主はその先頭にいる女だった。周りの男性隊員と変わらぬほどの長身、一瞬男と見間違うほど短い金色がかった茶髪が鈍く反射している。暑さからか、フライトスーツの胸元を開けており、開けた胸元からはとても女性のものとは思えないほど逞しく真っ直ぐ伸びた首が見える。アルベルはゴリr…、非常に逞しい軍人だと思った。決してゴリラとは思っていない。
「…確かに私がそうだが、いきなり失礼じゃないか?そもそも君は誰だ?相手を確認するときはまず、自分が名を名乗れとハイスクールで言われなかったか?」
アルベルはムッとした顔をして受け答える。その声には不快感が滲み出ていた。
「おっとすまない。気を悪くしたなら謝罪しよう。私は第11国連空母艦隊所属第1部隊オーストラリア海軍第901試験戦闘飛行部隊 Sea Turtle隊、隊長のニーナ・ウィルソン中尉だ。中尉同士で隊長同士、仲良くしよう?」
笑顔で手を差し出すニーナ中尉。アルベルは取りあえず程度に握手をする。
「あぁ…そうだな。ところでDACTの内容は?」
「ところでは酷いなァ…。で、DACTの内容は…、ハワイ沖南方10㎞のハワイ州管理海域、エリアHW21Sにて行う。方位1-6-6(360°式方位)から不明航空機二機をレーダーにて感知。スクランブルで現場に急行して対応すること。不明航空機役は、Sea Turtle隊の一番機である私と二番機が担当する。勿論、DACTだから撤退はなし。そちらの機数は1機。まぁ、訓練対象が君だけだから仕方ないな。頑張ってくれ」
「そうか、了解だ」
サッと敬礼をするアルベル。それを見てすかさず敬礼を返すニーナ中尉。敬礼した手を同時に下ろすとニーナはふぅ、と一息ついて振り返り、バイバイというかの如く手を振り、格納庫を後にした。
「アルベル中尉、終わりましたか」
ニーナが出ていった出入り口とは別の出入り口からカーター准尉が出てきた。
「カーター准尉か…ライセンスの取得が終わったのか?」
「いえ、実機訓練として中尉のDACTに同行せよ、との指令を受けたため来ました」
手に持ったボードを見ながら受け答える。
「フム…。了解した、同行を許可する。発進まで少なくとも20分はある。機器の確認をした後フライトスーツを着て第1待機室で待機。先にフライトスーツを着て待っている」
カーター准尉が了解と敬礼をすると、格納庫に駐機されているF/A-18に向かった。アルベルはフライトスーツに着替えるため更衣室へ向かう。
フライトスーツを着たアルベルはガチャガチャという音を立ててヘルメット管理室に来た。
自分のヘルメットと取り、酸素供給がヘルメットに付いているマスクからされるか確認する。確認が終わると自分のヘルメットを見つめる。ヘルメットにはアルベルのTACネームにちなんだマークが描かれている。炎の釣り目とシャークマウスのように牙を剥き出し笑う顔が描かれたキャラクターのようなマークである。
しばらく見つめた後、ヘルメット管理室を後にする。またガチャガチャと音が鳴りだす。フライトスーツに着いたベルトや荷物が音を鳴らしている。
この音を聞きながら待機室に向かうのはいつ振りであろうか。最早懐かしさすら感じるほどだ。戦闘機隊に居た時はどんなことを考えていたか。少しずつ思い出していく。
待機室に到着すると鮫のマークが描かれたヘルメットが置かれていた。カーター准尉の物であった。先に準備をはじめたはずのアルベルより早く待機室に来たという事だろう。アルベルは素直に早いと思った。
「中尉、お待たせしました」
話しかけられ後ろを向くとカーター准尉がいた。アルベルは少々驚いた表情を見せる。
「あ、あぁ…今来たところだ、待ってない。早いんだな。大丈b…」
話を続けようとした。しかし、警報音で遮られた。
一気に場に緊張が走る。アルベルとカーター准尉はヘルメットを抱え、格納庫に駐機されている機体に向かって全速力で走る。走る、走る、走る。周りの整備士たちも慌ただしく動く。
アルベルは機体の前で立ち止まり、右手で左肩、右肩、頭、腹を順に触り、十字を切った。
クロエは、アルベル中尉が機体の前で十字切っているのを後ろから見ていた。見た瞬間、クロエの頭に封じたはずの、忘れようとした記憶が遮った。機体の前で大きく十字を切る男の姿。アルベルが同じ仕草をしたことで、その男がアルベル中尉に重なって見えた。アルベル中尉のその姿が視界に入る度に、息が少しずつ上がっていくように感じる。
いやそんな事はない、あの姿はアルベル中尉だ、息が上がるのは走っていたせいだ、と自分自身に言い聞かせて、機体に乗り込んだ。
カーター准尉が乗り込むのを確認してエンジンに火を入れる。電子機器のチェックをし、機体が正常な状態であることを確認する。周りの整備員からはGOサインが出ている。
「こちら第11国連空母艦隊所属第1部隊所属イグレット隊一番機、コールサインEgret1。コントロールタワーへ。滑走路使用許可と発進許可を求む」
アルベルが無線を飛ばす。
「こちらコントロールタワー。Egret1へ。滑走路の使用を許可、滑走路はRunway 8Rを使用せよ。到着し次第発進を許可する」
返答が機内に響く。了解、と返し会話を終了すると、アルベルはスロットルを倒し出力を上げる。機体が前へ進みだす。格納庫の端では整備員たちが並んで敬礼をする姿が見える。その姿を尻目に、アルベルとカーター准尉を乗せた機体は前へ進む。
「滑走路到着、Egret1からコントロールタワーへ発進許可求む」
滑走路では、民間の旅客機が滑走路に入らず横で待機していた。訓練といえど、形式上はスクランブル発進。軍用機優先なのだ。アルベルが民間機に目をやると、コックピットから敬礼するパイロットが見えた。敬礼を返し、滑走路に入る。
「タワーからEgret1へ、進路クリア、発進を許可する」
コントロールタワーから発進の許可が下りた。時は満ちたと言わんばかりにアルベルはスロットルレバーを押し倒した。
「了解。協力を感謝する」
数秒、シートに二人の体が強く押さえつけられた。強烈な押さえつけが徐々に弱まっていくと、今度は浮遊感が二人を襲う。空へ上って行くにつれて浮遊感が増し、蒼く晴れ渡った空も相まって二人は何かに飲み込まれてしまう錯覚を感じる。
その錯覚を噛み締めながら、帰ってきてしまった、と悲壮感にも後悔にも似た複雑な感情を抱くのだった。
「前回あとがきで戦闘機描写を出す予定だと言ったな」
「そ…そうだ!だから早く見せt…」
「あれは嘘だ」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」
皆様、大変申し訳ございません。戦闘描写を書くつもりでしたが、あまりも、あまりにも長くなってしまい、戦闘描写を出すどころか、話を二分割しなければなりませんでした…。本当にごめんなさい。あ、あとがきの最初はただの茶番です。適当に受け流しておいてください。
では今回の解説です。今回空白が大きい所がありました。大きい空白の所は場所の変化を表しています。
また基本的に階級の書いていない人物がの中心として書いています。例えばアルベルと書いてあれば話や心理描写はアルベルのものを。クロエとと書いてあれば話や心理描写はカーター准尉のものとなっています。
また解説が必要になればあとがきに書きます。頑張って分かりやすく書きます…頑張ります。
Twitterもやってます、名前がクラカヂールとなっていますが。進捗やなんてことはないつぶやきが載っています。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。
次回第7話です。




