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時を超える鳥たち  作者: ハインド
第2章 オセアニア邂逅編
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第21話 幻へ消えた747 その5


「岐(シィー)隊5番機、ヤン・リンシン曹長であります!昨日(さくじつ)は共に任務を行い光栄でございました!」


 アルベルとクロエの前でお手本のようにきれいな敬礼をする青年がいた。彼の名はヤン・リンシン。先日撃墜された岐(シィー)隊の5番機、岐(シィー)5である。にこやかに敬礼する青年を前にアルベルとクロエは驚きの顔を浮かべ、青年の横に立つ岐(シィー)隊隊長、ウォン・リンシン少佐はため息を出す勢いで片手で頭を抱える。


「リンシン曹長……一体どうやって?」


「幽霊ではない……ですよね?」


 驚く二人に、リンシン少佐がことの顛末を話す。


「曹長は撃墜時既に機体から脱出(ベイルアウト)した後でな。不明飛行物体(アンノンウン)が撃墜したのは、もぬけの殻でオートパイロットで囮になっていた機体だったのだ。そして、貴君らの任務を受け継いだ韓国海軍のトゥッキィ―隊が発見、救助したというわけだ」


「はぁ……、それで囮……」


 ことの顛末を話したリンシン少佐。横でしてやったりといった顔で立つリンシン曹長。リンシン曹長の顔を見てリンシン少佐がわなわなと震えはじめる。そして──


「曹長……貴様は事がうまく進んでご機嫌だろうが、私は本部に貴様が喪失した国の税金がふんだんに使われた貴重な先行量産機をどう弁明するか悩む立場にある訳だ。その私に対して貴様は何か言う事は無いのかね?」


 ──笑顔で問い詰め始める。勿論、リンシン少佐の目は笑っていない。危機を感じたのか、リンシン曹長は一歩引き、引きつった笑顔を見せる。


「あ……あはは……あっ、シータートル隊の方々にも挨拶に行かないと……し、失礼しまーす!」


 そして逃げた。目の前で繰り広げられる茶番めいた光景にアルベルとクロエの二人は唖然する。


「全く、困ったものだ」


「まぁ、生きていたのですから良かったではないですか」


 怒るリンシン少佐を宥めるアルベル。遠くからリンシン曹長の大きな声とシータートル隊の面々の阿鼻叫喚とした声が聞こえる。


「ほんと、よかったですね……」


「あぁ。全くだ……」


 再び頭を抱えるリンシン少佐。


「ど、どのような人物であれ、生きていたことは良かったです。撃墜されたと聞いて私たちも非常に気になっていましたから……」


 クロエは、自身は少し俯きながらリンシン少佐にねぎらうような言葉をかけた。恐らくクロエの頭では、過去の記憶がフラッシュバックしかけているのだろう。励ますような言葉と少々俯き加減の笑顔だがその声は暗いものだった。


「……そうだな。ま、私個人としても……」


「私個人としても家族(ファミリー)の一人が生きていてくれて嬉しい……ですかい?隊長殿?」


 けたけたとした笑い声と悪意の見え隠れする言葉に、リンシン少佐の声が遮られる。


「……チェンファン少尉。貴様……」


 声の正体は、岐(シィー)隊2番機で副隊長でもあるリ チェンファン少尉と取り巻きの隊員たちだった。ニタニタと笑いながらチェンファン少尉は言葉を続ける。


「そんな怖い顔しないで下さいよ。隊員が無事だったことは、みんな良かったと思ってますよ。でも隊長はみんなより彼が生きていたことが嬉しい、なぜなら彼が自身の家族だからで……」


「少尉」


 ドスの利いた声がその場を静まり返らせた。チェンファン少尉をまばたきもせずにリンシン少佐が睨み付ける。その眼光はまさに、もう一歩進めば容赦なく獲物を殺す獣の目。あまりにも強すぎる殺気に、にらまれていないはずの二人の背中が冷や汗で濡れる。


「これ以上は上官への侮辱と取るが、覚悟はできているのか?」


 チェンファン少尉の目も殺気を漲らせる。まさに一触即発、息が詰まる。あまりの緊張で二人が声が出せなくなっていると、突然後ろから走って来たリンシン曹長がリンシン少佐とチェンファン少尉の間に割って入った。


「ご両名とも、落ち着いてください!バーン中尉とカーター准尉の前であります!思うところはありましょうが、ここはどうか、おさめてください!」


 リンシン曹長が割って入った事でチェンファン少尉の気が削がれたのか、ニヤリと含み笑いをして取り巻きを連れて去って行った。リンシン少佐の目は未だ強い殺気があふれ出ていた。それもチェンファン少尉が見えなくなると徐々に元に戻って行った。


「すまない……見苦しいところを見せた……」


「一体何だったんですか……?」


 状況を飲み込めないアルベルが、落ち着いて謝罪をするリンシン少佐に問いかける。


「あぁ……。今我が国……中華共和国は二つに割れている。正確には割れかけているんだが……。政治的な理由でね。本国で政府の統制に反発する自由派と政府に付き従う中央派の二つの派閥で小競り合いが起きていて、その影響が我が隊にも及んでいる。私の出身はその自由派の中核がある地域でね。そのせいで他の隊員から疎まれているんだ」


 チェンファン少尉の高圧な言動の原因はここにあった。中国はリンシン少佐の言う通り二つに割れつつあった。このことが軍内部での派閥にも影響しており航空隊の隊長であるリンシン少佐にも付いて回っていた。


「でも、さっきチェンファン少尉は曹長と少佐が家族と言って……」


「えぇ、確かに私と少佐は家族です。正確には、はとこになるのですが」


 クロエの指摘にリンシン曹長が少し困り顔で答える。


「私たちの家は、所謂香港マフィアってやつで、九龍城砦があった時代に城砦内の一角を自警団として治めていた一族なんです。九龍城砦が取り壊されて以降は、ただの不動産会社と旅行代理店になりましたけどね」


「何処の国もそうだと思うが、マフィアは自分たちの組織をファミリーと呼ぶ。それは、時には苦楽を分かち合い、時に同じ師の許(もと)で寝食を共にし、同じ未来を語り、そして命を懸けあう。だからたとえ血のつながりが無くとも同じ師の許(もと)に集った者同士は兄弟であり、姉妹であり、家族だ。だから親が違ってもヤンは私にとって、"家族"なんだ」


 横からリンシン少佐がリンシン曹長の肩に手を置いて答える。家族という言葉と二人の並んだ姿をみてクロエの眉が、ピクリと動く。


「おっと、そろそろ本国への始末書を書き始めなければ。今回は本当に助かった、ありがとうEgret1!」


 時計を見て、改めて礼を言い、リンシン少佐とリンシン曹長は去って行った。アルベルとクロエには、去って行く二人が姉弟に見えた。

 家族という言葉を耳にしてうつむき加減になっていたクロエが口を開いた。


「……あの二人は家族です。間違いなく血のつながった……家族です。……でもリンシン少佐は言いました。血がつながってなくとも寝食を共にし、同じ未来を語り、そして命を懸けあい、同じ師の許(もと)に集った者同士は兄弟であり、姉妹であり、家族だと。それは、私たちパイロットと同じです」


 アルベルの方を向き、背中で腕を組み下を向く。


「ハワイを出る前、中尉は私たちは相棒(バディ)、そして相棒(バディ)は家族同然といいました。でも家族そのものではない、家族の代わりにはなれないと」


 アルベルの心にチクリと棘が刺さる。


「私……分からなくなっちゃいました、家族がなんなのか」


 溢れ出そうな涙を目一杯我慢した、半(なか)ばやけくそのクシャクシャの笑顔で、クロエが顔を上げた。

 チクリ、チクリとしたアルベルの心の痛みがズキ、ズキ、と増していった。


「……私は今、准尉にかけられる言葉を持ち合わせていない……。私自身の意見を変えることも……ない、……と思う。だから、今君に何か言うことは出来ない」


 ギリッという歯を食いしばる音と共にクロエはアルベルに背を向ける。


「だが!」


 アルベルが声を再び発すると、クロエも振り返り、もう一度アルベルの言葉に耳を傾ける。


「家族同然たる相棒(バディ)が悩んでいるなら一緒に悩む!一緒に考える!ここは多国籍部隊が集まる洋上を移動する町、航空母艦!君の答えとなるヒントは沢山あるはずだ!だから!」



 一息置いて──


「一緒に、君の答えを探そう」


 ──手を差し出す。

 一瞬あっけにとられ固まるクロエ。マズイこと言ったかもというネガティブな感情がアルベルに芽生え始めたその時、アルベルの差し出した手をクロエが握る。


「探してくれますか……?私の……家族を……家族の形を……」


「あぁ!必ず、どこまでも、君が見つけるまで!」


 握られた手を握り返し、誓いを立てた。声を押し殺し、クロエが泣き崩れた。




「うーん、若さっていいねぇ。どこまでも、純粋だ」


 航空母艦コンステレーション艦長、ロックス艦長は遠目にアルベルとクロエのやり取りを見ていた。


「ルーカス、君の娘は最高の相棒に巡り合えたようだ。まだいろいろ悩んでいるようだがね」


 虚空に語り掛け終わると手に持っていたコーヒーを啜った。そこに通信兵の一人がやって来た。敬礼をされ、敬礼をし返す。


「カナダ政府及びカナダ軍統合作戦本部より電報が届いております」


「うむ。ここで読み上げてくれ」


「了解。……先日のカナダ副総督搭乗のカナダ軍所属行方不明機の発見及び護衛の件について感謝を申し上げる。当該機は貴艦所属の飛行隊からオーストラリア空軍へ護衛を引き継がれた後、無事にオーストラリアに辿り着いた。本件に関して後日、カナダ政府から貴艦所属の航空部隊へ勲章を授与するのもとする。第11国連空母艦隊所属、空母コンステレーション艦長ケビン・ロックス中将宛て、カナダ政府総督ラルゴ・ゴネより……以上です」


「ご苦労。下がって良し」


 通信兵は敬礼をして持ち場に戻って行った。


「無事にオーストラリアまで着いたか。……艦内放送で知らせてやるか」


 コーヒーを片手に艦内を歩いていく。




 クロエがひとしきり涙を流したあと、艦内を移動していると食堂横の多目的広場に人だかりが出来ていた。見た所、国籍関係なく騒いでいるようだ。


「これは予想外だ」

「あと数票で逆転もあるぞ」

「あと入れてないの誰だ?」

「ここまで接戦になるとは」

「再集計を要求したいな」

「ギャンブルなら大番狂わせに近いぜ」

「で、最終的にどれになりそうなんだ?」


「なんでしょうかあれ」


「分からない」


 二人からは事の中心は大勢の人に隠されて見えておらず、これが何の騒ぎなのか分からなった。そこへ──


「バーン中尉!カーター准尉!」


 ──ツヅキ一尉が現れた。


「ツヅキ一尉、これは一体何の騒ぎで?」


「艦内で話題になっていた、世界で一番美しい飛行機は何か、の集計結果だそうです」


 世界で一番美しい飛行機は何か。しばらく話題なっており、しばしば激しい議論が交わされていたようである。その議論に終止符を打つため、誰かが密かにアンケートを取り今日広場に途中結果と投票していない人物の名前を張り付けたのだった。

 あまり興味は無かったがここまで大事(おおごと)になっているとは思っていなかったアルベルであった。そして何より、掲載物には、赤線で消された名前に囲まれてアルベルの名前が書かれていた。


「おっ、きましたね中尉!飛行隊の中で投票していないのは中尉だけみたいですよ!」


 群衆に混じっていたイグレット隊の隊員がアルベルを見つけ、騒ぎの中心へと誘う。


「なっ!?みんないつの間に」


 小さな赤いシールを渡され、さぁ張れ!と言わんばかりにアルベルに注目が集まる。どうしたものか……、どれがどうとかあんまり考えたことが無いアルベルは掲載物を前に困り顔になってしまう。

 ガサッ……。困ったアルベルを救うように艦内放送用のスピーカーから音が聞こえはじめ、周りの注意もスピーカーに逸れた。そして、艦内にロックス艦長の声が響き渡り始める。


[全船員に通達する。先程カナダ政府から電報があり、先日のカナダ副総督搭乗のカナダ軍所属ボーイング747が無事にオーストラリアに着陸したそうだ。この件に関し、本艦及び本艦所属部隊にカナダ政府から感謝が述べられた。本艦の使命が十分に果たされた結果である。また、本件の功績から、前線に立った航空部隊にカナダ政府から勲章が送られるそうだ!存分に喜んでほしい!]


 放送が終わるとそこかしこで歓声が上がった。両手を上げて喜ぶ者、肩を組んで喜びの歌を歌う者、笑顔で握手を交わす者。それぞれがそれぞれの喜びを表していた。

 747を発見したアルベルもその後の経過に、良かったと小さく拳を握り喜んだ。


「さ、喜ばしいことついでにこっちも頼みますよ、バーン中尉殿」


 再びアルベルに注目が集まる。周りの盛り上がりは最高潮。逃れることは出来ない。が、この艦内放送を聞いたアルベルは何に票を入れるべきか、決めていた。


「……これだな」


 ペタリ。歓声の中シールが張られる。


「これで、飛行隊所属は全員投票されたな」

「あと二、三日すれば結果出るだろ。今は勲章のお祝いだ。酒飲みてぇなぁ」

「すぐに任務が来るんだ。酒は無理だろう」

「せっかく飛行隊に勲章が送られるんだ。パーティーでもしないとな」

「甲板でバーベキュー出来ないか具申してみよう。それなら当番も非番も楽しめるだろう」


 アルベルがシールを張った事で飛行部隊所属の兵士の投票は終わったようで、周りはアンケートの集計結果から、勲章授与のお祝いをどうするかの思案に移ったようだった。掲載物の前で笑顔で佇むアルベルにクロエとツヅキ一尉が寄って来た。


「勲章授与とは大きく出ましたね。我々スワロー隊も貰えますかね?」


「どうでしょう。でも今貰えなくとも、きっとこれから似た機会は多くあるでしょう。それが……」


「我々の使命だから、ですね中尉?」


「そうだ准尉。我々は、あの747のような航空機をこの太平洋で探していくんだ。いろんな時代の、飛ぶ鳥を」


「……なんだかお二人とも憑き物が落ちたような顔をしておりますね。精悍(せいかん)な顔立ちだ」


 ツヅキ一尉の指摘に少し驚いた二人だが、顔を見合わせてニヤリと笑う。


「気のせいですよ」


 アルベルとクロエの二人はにこやかなまま、人の流れに任せ多目的広場を後にする。


「そういえば何であの飛行機に投票したんですか?」


 ふと、クロエに先ほどのアンケートについて聞かれる。アルベルは少し考えた後、答えた。


「縁があったから……かな」





 アルベルのシールが張られた欄には三つの数字だけが書かれていた──


「まぁでも実際、美しかったよ。最高にね」


 ──747と……。

本編こんなに長くなる予定じゃなかった(泣)。そもそも起承転結で4話って言っておきながら起承転結+閑話で閑話が長いって何事だろう。ま、まぁ伏線修正とかあったし多少はね。多少ってレベルじゃねぇぞ!


さて、恒例の解説ですが、解説部分は無さそうですね。無いと思ってるのはお前だけ定期っていう人は感想にて解説部リクエストください(露骨な感想稼ぎ)。また解説が必要になればあとがきに書きます。いつもの感じです。


さて次回は次の起承転結に参ります。もはや不定期でも一生懸命頑張って話進めますので、ふと思い出した時にでも見に来てください。僕は一生なろうします(大泉語録)(なおやる気)。感想もいつでもお待ちしております。よろしくお願いします。


Twitterもやってます、アカウントはハインド@なろう作家挑戦中です。進捗や、なんてことはないつぶやきが載っています。最近はすっかりモタスポリツイート垢ですが。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。



 次回第22話です。お楽しみに!

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