第22話 あゝ栄光の海軍飛行隊 その1
機体がギシギシと軋む。
[もうちょっとだ。もうちょっとでラバウルだ!]
翼に空いた穴から何か液体が噴き出している。恐らく、燃料だろう。
[海軍軍人だろう!気をしっかり持て!]
操縦席前面にある発動機から油が噴き出してガラスが黒ずんでいる。何も見えない。
[お前らが死んだら誰があの新米たちしごくんだよ!あいつら何も出来ず死んじまうぞ!]
風防も天蓋も穴だらけ。もはや役に立たず。
[聴こえてんのか!返事をしろ!]
真横を飛ぶ僚機から何か必死に声をかけられているが、何を言っているのか分からない。
[…………………!…………………………!!]
回っていたプロペラが遂に動いたり止まったりし始めた。高度を保てない。ゆっくりと、色濃い、赤い海へ墜ちていく。
「……海は…………青く、なかったか……?」
突き上げる衝撃によって大きく揺さぶられる。
[みちひこーーーー!やっちゃーーーーーーん!]
僚機の叫びは届くことは無かった。無いはずだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
南太平洋オーストラリア大陸北東沖 Coral Sea
「ギアダウン。フラップ最大。着艦フック良し。速度150。……風が強い!ふらつく!」
強い横風にあおられガタガタを機体が揺れる。
「ダメだ、着陸復行!」
速度を再び上げるためスロットルを押し倒し、下がっていく高度を上げるため機首を上げ、出していたランディングギアを格納する。空母の上をアルベル機が高速で通過する。
[Egret1着陸復行、了解。他機着陸のため旋回待機へ移行]
「旋回待機、了解」
不機嫌で単調な管制官の声が聞こえる。理由は明白で、母艦の近くに発生した低気圧の影響で、着陸復行が頻発しているからである。イグレット隊は既に6回も着陸復行をしており、アルベル機で7回目だった。空中で待機している機体はアルベル機を含め3機。
「クソ……磁気性積乱雲から出てきた迷い鳥戻して自分らが戻れないとは、情けない……」
「この機体がピーキーなのもあると思います。着陸復行率は所属飛行隊の中でトップタイらしいですよ」
「確かにそれはあるが……評価試験小隊なんだからLANGRIDGE AIR SYSTEMに言ったら改善してくれるかな……」
アルベル達イグレット隊の使用するXF-38 Sea Snakeは、ベースとなったF/A-18よりも機動性を重視した設計のためピーキーな操縦になることが早々から予想されていた。そのピーキーな操縦性が、風速の強く悪天候での状況下でパイロットたちに牙をむいた。
[Egret1、旋回待機から離脱し進路を南東へ取れ]
管制官からの指示にバックミラー越しに目を見合わせた。任務が終了し燃料に余裕がない状態であるにも関わらず母艦から離れるような指示を受けたからである。
「Egret1から管制、当機の燃料に余裕はない。指示の意図を問いたいが、よろしいか」
[Egret1へ、今警戒任務を引き継いだSwallow隊より本艦南東の海域の孤島にて、不自然な墜落機を発見したと報告があった。周囲警戒のため、現在旋回待機中の貴機及び貴隊所属機を派遣するのものである。また燃料にに関しては給油機2機を発艦させる。合流次第空中にて給油を行え]
「Egret1了解。空中待機中の2機を連れて急行する」
管制の意図を理解し、すぐさま進路を変え加速をかける。空母上では今まさに、補給用に燃料を満載した給油ポッドを取り付けたとみられる機体が発進を待っているのが見えた。
[Egret1、給油ポイントのデータを送信した。確認の上、合流後給油機とコンタクトを行え。周波数は6.824MHz、コールサインはSea Turtle]
「了解。合流後コンタクトを行う。Good luck」
[Good luck]
別れを告げ送られてきた合流地点へ向かった。
給油を終えたアルベル達は、該当海域の周辺警戒を行っていた。給油が終わる頃には積乱雲は勢力を弱め収束に向かっており、当該海域はオレンジ色の晴れ間がのぞき始めていた。発見した墜落機は、積乱雲の向こうから来た可能性ありと判断され、母艦であるコンステレーションに収容して調査することとなった。現在は母艦に搭載したヘリコプターによって回収するための準備を行っていた。
「……迷い鳥でしょうか……?」
「状況としては、そうとしか言えないな……」
この状況に二人は違和感を覚えた。イグレット隊は直前に発生した磁気性積乱雲では確かに時空を超えた航空機が出現した、そして送り返している。イグレット隊が積乱雲を監視していた中、最新鋭のレーダーを駆使して張る監視網を潜り抜けるどころか飛んでいた姿すら発見されなかったとは、非常に不可解としか言えないからであった。
「我々の監視では存在を確認できなかった……、この最新鋭機の強力なシステムをもってしてもあの積乱雲は強力な磁気性と謎を持っていると考えるべきだな」
「……まぁ、それならそれで……?」
一瞬クロエの言葉が詰まり、疑問を持ったかのような声が出る。
「どうした」
「一瞬……ほんの一瞬ですがレーダーに反応があったような……?」
レーダーに反応という言葉に反応して左右前後、上を見渡す。前回のカナダ軍747の件以降、アルベルはレーダーに反応があれば過敏に反応するようになった。沈みはじめた太陽に目を焼かれるような眩しさを我慢しながら周りを見渡す。そして警戒のため、西に機首を向けた瞬間、太陽を背にした小さいシルエットが目に飛び込んできた。
ヘッドオン。
「……?……!!」
直感的に操縦桿を引く。直後、機体を通じてカンカンという甲高い音と振動が伝わる。
「被弾!?なん……でっ……?」
自身にのしかかるGに耐えるクロエから疑問の言葉が絞り出される。
上昇して襲撃を回避したアルベルは、機体を水平に戻したり回転させてみたり、上昇と下降を繰り返して機体に被弾の影響がないか確認している。
「……チェック、エルロン、ラダー、オールクリア、燃料漏れ、無し。FCS、有効。レーダー、クリア。フラップ……左異常あり。展開速度低下。その他異常……無し!」
機体のダメージはそれほど大きくなく、被弾で関節が歪んだのか、着艦時に使用する揚力増大装置の展開がスムーズではなくなった程度だった。
「不明機FCSレーダーにて捕捉!本機後方、距離300!ロックオン可能!」
後席よりクロエの報告が狭い機内に響く。
「ロックオンはするな!攻撃してきたのが何か分からない!機体の後ろに付く!データベース用意!」
「了解!」
操縦桿を引き、機首を上げ宙返りを行う。主翼が反り返りながら、機体は闇に包まれ始めた空を半回転する。
「Egret1からEgret各機へ、孤島南側にて、不明航空機から攻撃を受けた。速やかに合流し援護位置に着け!」
[Egret5了解。急行します]
[こちらEgret6、現在孤島北側15㎞地点を哨戒中。急行しますが時間がかかります。何とか持ちこたえてください隊長!]
他所を哨戒していた隊機を呼び出す。が、うち一機は島を挟んで反対側にいる。戦闘機であるこのXF-38の最高速度をもってしても10分近くかかってしまう距離だった。
味方の援護は十分には受けられない。アルベルは、遠心力で血が脳から離れ遠くなり始める意識を必死に保ち、思考を巡らせる。
「ならば……、Egret1からEgret5へ。合流したら本機後方の援護位置へ!二機でデータを取って解析を母艦へ送り解析をあちらに任せる!Egret6はSwallow隊へ合流し哨戒任務をサポートせよ!」
[Egret5了解]
[Egret6了解、すいません隊長]
機体を水平に戻し、上昇で失った速度回復させるためスロットルを押し倒し、アフターバーナーを起動させる。機体が勢いよく加速し始める。
「ぐっ……」
頭が座席に吸い付く。吸い付いて動かぬ頭を力いっぱい振って、周りを見渡す。
「……いましたっ!あの、本機……前方、の航空機ですっ!」
レーダーを頼りに不明機を探していたクロエが後席で叫ぶ。
「Egret5は!?」
「チェック……今援護位置!」
機体後方、かなり近い位置にEgret5の機体が付いた。付いたのと同時に加速をやめる。座背に吸い付いていた頭が解放される。
「よし!ナイスタイミング!Egret5!両側から挟み込むぞ!」
[Egret5了解、行きますよ!]
すぅ……、と息を吸って止め体に力を込める。力いっぱい操縦桿を握って操作する。少し手前に引き、機首を再び少し上げ、今度は操縦桿を右手前に倒す。
機体は時計回りにぐるりと回転しながら下方へダイブする。後ろのEgret5が一拍おいて追随する。
不明機はアルベル機を見失ったのか真っすぐ飛んでいるだけであった。チャンスとばかりに勢いよくアルベルとEgret5が不明機に突っ込んでいった。
「7000……6000……5000!今です!」
クロエの声に合わせ、アルベルが期待を水平に戻そうとする!勢いのついた機体は少しだけ反り返りながら減速する、そしてピタリを不明機の同高度右側、主翼同士が触れるギリギリのところにつける。ワンテンポ遅れてEgret5が左側についた。
アルベルは心の中で上手く決まった!、とガッツポーズをとった。
突然上から降ってきたアルベル達のXF-38に呆気にとられたのか、不明機はピクリとも動かなかった。こうしてやっとアルベル達は不明機の正体を探ることが出来る。
「これは……かなり古いタイプだ……。間違いなくレシプロエンジンが動力の機体だ」
アルベルは不明機を隅々まで確認し驚いた。格子状の金属の枠でかたどられたキャノピーと一人が乗る程度の広さの機内。操縦席とプロペラの間に着けられたエンジンカウルからぽつぽつと飛び出たマフラー。左右に大きく平たく伸び、中腹手前から先端が上に向いた主翼。ジェット機に比べるととても小柄に見える大きさ。その様相から、不明機はプロペラを持つ一人乗りの戦闘機のようだった。
そしてアルベルの解析通り、ピストンの往復運動によって動力を得るレシプロエンジンを機首につけた古い構造の機体だった。
航空機の動力がタービンを使用したジェットエンジンが主流になった昨今においてレシプロエンジン機は珍しいどころの話ではなく、エアレースや曲芸飛行用に使用される特殊用途の軽飛行機で見られる程度である。珍しいと言ったどころではない物の出現に、アルベルが驚くのも無理はなかった。
「解析データコンステレーションに送っています」
後席のクロエが機体に付けられたカメラを通じ、母艦であるコンステレーションに映像としてデータを送る。これをコンステレーションに搭載されたコンピュータに解析させることにより機体番号等から情報を得られない機体がある程度の予測が示され、対処を検討できるようにしている。
データを送っている間もアルベルは観察を続ける。
「ディープグリーン一色塗りで。まるで二ホンのゼロファイターのようだ……」
ゼロファイター……。通称ゼロ戦。アルベルはかつて日本が製造していた戦闘機をこの不明機から感じ取った。しかしながら、ゼロ戦が活躍していたのはおよそ100年前。現存する機体はアメリカ合衆国いくつかあれど、まともに飛行できる機体はただ一機として存在しない。ならば──
「君は一体……」
──……どこから来たんだ?
お久しぶりです(陳謝)。およそ二年ぶりに再始動しました……。え?この二年間何をしていたかですか?……サークルを作って同人誌を作っておりました……。言い訳のしようもありませんね。仕事原稿でいっぱいいっぱいでした。それはもう、地獄の様相でした。そんなことしてた割に小説書くの下手になってね?ですか(被害妄想)。……セイちゃん横になりますね……。違った、泣きますね。
というでなろうに帰ってきました。ぶっちゃけ同人誌のあとがきにホームグラウンドはなろうとか書いて全く更新してなかったのが忍びなかったです。前回のあとがきで「僕は一生なろうします(大泉語録)(なおやる気)」とか書いてしまったせいで、数年に一度複数投稿しては年単位で更新しないとかいうマジのどうでしょう状態になりかけてたのでこれからはもうちょっと頑張ろうと思います。またよろしくね☆
解説は今回無しです。次回あります。これ解説してくれよっていう要望のある人は感想にて解説部リクエストください(露骨な感想稼ぎ)。よろしくお願いします。
お話し的には今回も起承転結+閑話の五話構成の予定です。一生懸命頑張って話進めますので、ふと思い出した時にでも見に来てください。感想、評価もいつでもお待ちしております。よろしくお願いします。
Twitterもやってます、アカウントはハインド@なろう作家挑戦中です。進捗や、なんてことはないつぶやきが載っています。最近はリツイートだらけですが。良ければ覗いてください。なんならフォローもしていただけるととっても喜びます。こちらもよろしくお願いします。
次回第23話です。お楽しみに!




