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時を超える鳥たち  作者: ハインド
第2章 オセアニア邂逅編
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第19話 幻へ消えた747 その3

お待たせいたしました。


「こちら第11国連空母艦隊所属第1部隊所属イグレット隊一番機、コールサインEgret1。 岐(シィー)隊。状況を知らせよ」


[こちら岐(シィー)隊一番機、岐(シィー)1(イー)。状況を報告する。10:11、磁気性積乱雲の発生を確認。10:13、情報を集めるため、岐(シィー)隊は二手に分かれデータ収集を開始。10:16、磁気性積乱雲から正体不明の飛行物体に遭遇。同時刻、岐(シィー)3(セン)から岐(シィー)6(ッイォ)の第二分隊の位置を喪失(ロスト)、第二分隊との交信不能に陥る。現在も交信が出来ない]


 通信を受けて、アルベルが渋い顔をする。通信の相手は、中国海軍岐(シィー)隊の隊長の岐(シィー)1、ウォン・リンシン少佐。

 磁気性積乱雲は、その名の通り強い磁気を帯びている積乱雲のことである。規模も直径15kmの通常の積乱雲の大きさから直径200kmに及ぶ台風並みの大きさまで観測されており、その高さは高度10000mを優に超える。発生条件や予兆など分かってない部分も多い。なおかつ積乱雲内は激しい雷や、雹などが存在しており、航空機は入れない。そして何より、強い磁気を帯びている為、突入すればレーダーをはじめ、無線、ネットワーク、各種搭載された電子機器に深刻なダメージを与える可能性がある。交信が出来ないという事は、この磁気性積乱雲の中にいる可能性が高い。第二分隊は更に攻撃を受けているとの前情報もある。

 アルベル達イグレット隊は、岐(シィー)隊の要請を受けて、磁気性積乱雲に対して真っ直ぐ向かっていた。


「その分隊は今どこに?」


[分からない。こちらも探してはいるが、強い磁気の影響ででレーダーが乱れている。そちらの位置もまともに追えない。この通信もどこまで持つか……]


「分隊の位置も分からないのか?こちらでは交戦中と報告が受けているが……」


[こちらでは全く感知できていないが……?]


 まいった、と言いたげなアルベルにクロエが話しかける。


「積乱雲を一周して探してはどうでしょうか。幸い、私たちの隊は全機が追加レーダーを装備しています。戦術データリンクを使用して、編隊を組みながらデータの交換を行えば全体像が見えるかも……」


「……そうだな……良い考えだ。それで行こう。Egret1からイグレット隊各機へ。これより、フォーメーションを組んで磁気性積乱雲を周回してデータ収集並びに、岐(シィー)隊の分隊を捜索する。戦術データリンクをアクティブへとした後(のち)、当機を先頭にデルタフォーメーションをとる。積乱雲に対し、左回りで周回する。各機続け!」


[Egret2、了解(ラジャー)]


[Egret3、了解(りょうかい)]


[Egret4、フォーメーション入ります]


[Egret5よりEgret1へ]


 Egret5から通信機越しにアルベルを呼ぶ声が聞こえる。


「どうしたEgret5」


[前方の磁気性積乱雲によるノイズの中、一瞬だけ数機の反応がレーダーに映りました。確認お願いします。10時の方向、方位228!]


「了解した。准尉、確認を」


 後部座席に座るクロエに指示を出す。


「確認します。データリンク接続、広域レーダー起動。索敵開始」


 XEF/Aー38の下部に取り付けられた大型の増設レーダーが、動き始める。XEF/Aー38及びXF/Aー38は、隊機同士でデータを共有し、補完しあうことで、隊一つが巨大なレーダーとなり、単機の時よりも高精度の索敵をすることができるのである。クロエはそれをフル活用して反応を探した。


「……確認しました。方位216、反応6……いえ、7!激しく移動しています。……戦闘中の模様!」


「見つけた。イグレット隊各機へ、作戦変更。レーダーで確認した機影を追う!」


[[[[[了解(ラジャー)]]]]]


[岐(シィー)1からEgret1へ。岐(シィー)隊第一分隊はレーダー上で第二分隊を捕捉出来ず、助けに行きたいが身動きが出来ない。イグレット隊と合流し、第二分隊助けたい。よろしいか?]


「どうしますか、中尉?」


 岐(シィー)1からの通信を受けて、クロエがアルベルに指示を仰ぐ。


「……合流を許可しよう。隊列後方へ付いてくれ」


[了解した。心遣い感謝する。謝謝]


 後方から二機、戦闘機が接近してくる。中国海軍、J-29。中国が独自に開発したステルス戦闘機であるJ-20をベースに空母に搭載出来るように作られた機体。岐(シィー)隊の機体である。


「後方に岐(シィー)隊の合流確認しました」


「よし。全体へ伝達!イグレット隊は、前方の磁気性積乱雲を上昇しながら右方へ回避。全速力で迂回し、岐(シィー)隊第二分隊のケツを追っている不明飛行物体(アンノンウン)に対し、後方上空から奇襲をかけて攪乱(かくらん)させると同時に岐(シィー)隊第二分隊を救助する!全機方位350!」


 スロットルレバーを押し倒し速度を上げながら、操縦桿を右手前に引き付ける。機体が増速してスゥーっと高く上がっていき、他の機体が追随する。積乱雲に近づくにつれて空の光が遮られ、暗くなっていく。音速に近い速度で迂回する。キャノピーに強く打ちつけられる雨が後方に流れて視界を歪ませる。


「もうすぐ不明飛行物体(アンノンウン)の上空に到達します。到達まで……40秒!」


「了解。……Egret1より各機、これより不明飛行物体(アンノンウン)をエネミーと呼称する。カウント後にダイブして攪乱(かくらん)する、各機続け。全機、戦闘準備。FCS active(アクティブ)、on-line(オンライン)。レーダー連動、シーカーオープン、マスターアームON(オン)」


 操縦桿とスロットルレバーを持ち直す。短い、短い、静寂。聞こえるのは自分の呼吸音と心音だけであった。後ろにいるクロエに合図を送り、カウントを始める。


「増槽(ぞうそう)捨て。カウント…………3、2、1、GO(ゴー)!」


 各機体の中央に設置された大きく重い増槽(ぞうそう)が脱落していく。スッと操縦桿を左前に倒す。機首が下を向きながら左にぐるり。機体が左捻りをしながら下を向き、岐(シィー)隊第二分隊を追いかけまわす不明飛行物体(アンノンウン)へダイブした。激しく加速しながら突っ込むその姿は、まるで海に向かって突っ込む海鳥のようだった。


「レーダーロック!撃てます!」


 後ろからの叫ぶように発せられたクロエの声に反応して、トリガーに指をかける。


「……LOCK(ロック)…………FIRE(ファイア)!FOX(フォックス) 2!FOX(フォックス) 2!」


 今度はアルベルが叫び、トリガーを二回引く。


[FOX(フォックス) 2!FOX(フォックス) 2!]


[FOX(フォックス) 2!FOX(フォックス) 2!]


 通信機からもミサイル発射の合図が聞こえる。超高速でダイブする編隊から、白い尾を引きミサイルが放たれる。ミサイルを放たれたことでイグレット隊の存在に気が付いたのか、不明飛行物体(アンノンウン)3機が慌てて散開(ブレイク)する。3機の内、2機は多少損傷したが回避した。残りの1機は回避が間に合わず、チャフ、フレアを撒いて足掻いたが、ミサイルが直撃して爆発四散する。


「岐(シィー)1、ナイスキル!」


 当たったのは岐(シィー)1から放たれたミサイルだった。不明飛行物体(アンノンウン)を撃墜した岐(シィー)1に対して、アルベルは称賛の声を上げた。


「准尉、分隊の様子は?」


 機体をダイブ状態から戻す動作をし、不明飛行物体(アンノンウン)と距離を取りながら、後部座席のクロエに声をかける。


「岐(シィー)3から岐(シィー)6までをIFFで確認。多少損傷しているようですが、通常速度で飛行しているので大丈夫だと思われます。……それより中尉……」


 報告していたクロエの声色が変わる。それに合わせてアルベルも──


「准尉も気が付いたか」


 ──声に緊張感が張りつめる。その理由は……。


「ハワイの時の機体ですよね?」


 およそ一か月前、突然ハワイ沖に現れた謎の航空機3機によるハワイ強襲。アメリカ陸軍第9沿岸警備隊の哨戒ヘリコプター1機を撃墜し、定期哨戒任務中だったヒッカム空軍基地所属第15航空団のF-15、18機をものの数分で叩き落とした機体。

 黒く、後退翼と前進翼の二枚の主翼を持つ複翼機、機体の中心から後方へ伸びる後部機銃、真上から見えるエイのようなシルエット。所属どころか、誰が作り、何処から来たかも分からないあの機体と同じ機体が岐(シィー)隊第二分隊を追いかけまわしていたことに二人は気づいたのだった。


「1機撃墜したが、このままではすぐに不利になる。准尉、コンステレーションと通信できるか?応援を要請したいのだが……」


「コンステレーションは積乱雲の向こう側ですよ。電波の強度最大にして届くかどうか……」


[その役目、私に任せてもらえないか?]


 救出した中国機の一機から通信が入る。


[こちらは岐(シィー)5(ゥオー)。イグレット隊、まずは救出、感謝する、謝謝。だが、すまない。被弾場所が良くなくてな。右エンジンの不調、それとどうも燃料が漏れているらしい。対処はしているが、戦闘になれば航続距離は勿論、隊の足を引っ張ることになるので帰投したい。その際にコンステレーションに応援要請の旨、伝えよう]


 アルベル達に並ぶように隊列の前に出てきたJ-29は、通常の速度は出ているものの、主翼、胴体にいくつか穴が開いており、そこから白い煙のようなものが噴き出していた。それを横目にアルベルは次の行動のため思考を巡らせる。

 この時点で、岐(シィー)5を帰還させず戦闘になれば、万全の状態(コンディション)ではない岐(シィー)5は、不明飛行物体(アンノンウン)の二機に撃墜される可能性が高くなる。仮に撃墜されなくとも、戦闘を行えばガス欠に陥り、脱出(ベイルアウト)したとしても、この天候では最悪乗員と機体のどちらか、または両方の喪失が考えられる。が、岐(シィー)5が帰投したとして、それをあの二機が追わないという可能性は決して低くない。そうすれば二機を丁寧にコンステレーションまで案内する羽目になる。そしてそもそも岐(シィー)5はアルベルの指揮下にない。撤退には岐(シィー)隊の隊長である岐(シィー)1の指示が──


[私らが囮になろう]


 ──思案を巡らせていたアルベルに、岐(シィー)1が通信を飛ばす。


[岐(シィー)5は単機で撤退させます。その間、不明飛行物体(アンノンウン)の二機を岐(シィー)隊で引きつけます。その内に、イグレット隊は磁気性積乱雲のデータ収集を]


「待ってください!それでは岐(シィー)隊が危険にさらされることに!」


 通信を聞いていたクロエが口を挟む。確かに、この提案は岐(シィー)隊のみにリスクを背負わせるものである。しかし……


「了解した。検討を祈る」


 アルベルはあっさりと了承した。これに、クロエが怒り出す。


「何故了承したんですか!二機に減ったとはいえ、相手の戦闘機はハワイのF-15を無傷で全滅させたんですよ!しかもたった数分でです!」


「岐(シィー)隊も、同じ道を辿ると?」


 怒るクロエをなだめるような口調でアルベルが話し始める。通信機のスイッチをオフにした状態で。


「……」


「……君にとって、損傷機を抱えながら我々のために撤退せず、あまつさえ敵を引き付けるといった岐(シィー)隊を見捨ててデータ収集をすることを了承した私の判断に、理解に苦しんでいるのだろう」


「そこまで分かっていながら何故……」


 何故、と聞かれ苦虫を噛み潰したような顔をアルベルは浮かべた。


「私だって、こんなリスクを押し付けるような提案は飲みたくない。目の前の脅威を消せるならさっさと消して、全員が安全な状態でデータ収集をしたい。だが、この状況では何が必要なのか考えなければならない。我々がデータ収集をせずに岐(シィー)隊と共に二機を撃墜出来れば、確かに脅威は去る……」


 苦虫を噛み潰したような顔が、さらに険しくなる。


「……だが、磁気性積乱雲何が起こるか分からない。救援を要請してデータがありませんじゃ、救援に来た部隊を別の危険にさらすことになる。そうすれば岐(シィー)隊で済んだはずの被害が全体に及ぶんだ」


「だから、誰かに危険を押し付けるのですか!誰かに、命を賭けさせるのですか!」


 クロエがさらに声を荒げた。アルベルも険しい顔で答える。


「それが軍人だよ。守るべきものを守るために、人柱が必要なら最低限の損害で済むようにする。その損害は絶対に自分たちから出す。本来、あってはならないことだがね……」


 それが軍人であるという言葉にクロエはさらに噛み付く。


「……そんなの間違ってる……」


「そうだな、俺もそう思う……だけど、そう判断しなきゃいけない場面は確実に存在する。……岐(シィー)1……ウォン・リンシン少佐はその辺よく分かっている人だ。損傷機を戻し、レーダー機能が高い私たちにデータ収集を任せ、人柱には自分がなる……。状況判断が早い。……信じよう彼女だって国選抜の実力者だ」


 納得こそできなかったものの、思う所があったのかクロエは喋ることを止めた。黙り込んだ二人。二人の静寂を打ち破ったのは、けたたましい警告音と機械音声。


[WARNING、WARNING。WARNING、WARNING。RADAR NEW REACTIONS。RADAR NEW REACTIONS]


[何事だ!?]


 現状を把握できない岐(シィー)1から、慌てた声が飛ぶ。


「状況報告!クロエ!」


「はい!積乱雲中心付近に新たに複数反応発生!数……2?……いえ、5!真っ直ぐこちらへ向かって来る。航空機と思われ……会敵まで14秒!」


「早い……イグレット隊全機警戒体制!何が出てくる……来るぞ!構えろ!」


 あまりの急な展開に隊の動きが乱れる。その隊をまとめるため、警戒体制を指示して、左旋回で積乱雲から距離を取る。左に傾いた機体、視界全面に積乱雲が写る。


「何が……来るっ……!?」


 その場の全員が息を飲む。戦慄の瞬間が訪れる。


「来た!」


 雲の中から現れたのは、大型で、エンジンが4発、他者を寄せ付けない王者の風格に、二階建て、そして〝ジャンボ″と親しまれたあの機体だった。




「747だとっ!?」




 だいぶ遅くなりました。待っていていただいた皆様、ありがとうございます。遅くなった事お許しください(チャー研並の謝罪)。許してクレメンス……。6000文字超えたことも許してクレメンス……。


 さて。恒例の解説ですね。久しぶりな気もしますが……。

 今回、中国海軍のJ-29が登場しました。ナンバリングに関しては第16話 出港のあとがきに書きましたね。ご参照ください。J-29のコンセプトとして掲げたのは、ステルス性と格闘性能でごり押しです。そのコンセプトにちょうど適したのがJ-20でした。そこで大型なJ-20の小型化と空母搭載に適した重量にすることにしました。具体的には全長の縮小と全体的な体積減少、ただしカナード翼はそのままという感じです。フランスのラファールが全体像が近いでしょうか。前々から疑問視されていたJ-20のステルス性については、ステルス性を高める素材を開発したという事で一つ。

 続いては隊名についてです。岐(シィー)隊の岐(シィー)は日本語でトキと意味します。ペリカン目トキ科トキ属で、中国、日本、韓国に生息したが日本本土では絶滅した英名Nipponia(ニッポニア) nippon(ニッポン)の新潟県の県鳥、けものフレンズでアルパカのカフェでかばんちゃん一行とお茶していたあのトキです。隊名ルールの鉄道の特急の名前でもあり、新潟方面の上越新幹線で東京~新潟で運行している列車ですね。私もこの前乗りました。選定理由は、中国にちなんだ名前を探していた時に見つけました。もうトキは大陸にしかいませんしね……。

 解説はここまでとなります。


 さて。今回もかなり遅くなってしまいました。ここ一年は環境が不安定であまり小説を書く事が出来ませんでした。今年に入り、だいぶ環境が安定してきたこともあり、今回から少し更新速度上げれればと思います。年号も変わるし(ぶっちゃっけ年号変わる前に投稿出来てよかった……)。一生懸命頑張って話進めますので、ふと思い出した時にでも見に来てください。感想もいつでもお待ちしております。よろしくお願いします。


 Twitterもやってます、アカウントはハインド@なろう作家挑戦中です。進捗や、なんてことはないつぶやきが載っています。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。

 次回遂に第20話です。お楽しみに!

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