第16話 出港
7月25日、午前10時、アメリカ合衆国ハワイ州、パールハーバー
所属不明機ハワイ州接近事件から約1か月。この日、国連軍所属正規空母コンステーションの就航、及び出港式典をコンステーションの甲板上で行っていた。各国の軍人が、甲板上にパイロットスーツや作業着ではなく、正装をして臨んでいた。
「……で、あるからして、国連の太平洋における治安維持活動の新たな力になることを、アメリカ合衆国大統領として、大いに期待する。また……」
多くの軍人の前で、アメリカ合衆国大統領が演説をしている。自国の大統領を見つめながら、アルベルは自らの記憶を遡る。
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「お話があります……」
後部座席でクロエが声を荒げたと思えば、今度はシュンとした声を出した。
「何だ?」
「うまく言えるか分かりませんが……今、思っていることを言います……。お話というか、お願いなのですが、…………二人の時、二人きりでいるときに、私のことを准尉や、カーター准尉ではなく、クロエと呼んで欲しいのです……」
驚いたと言わんばかりの表情をアルベルが浮かべる。話があると言われ、なにを話されるか考え、遂に降りると言われるのではと思い、心の準備までしたアルベルは、あっけにとられたのだ。
「そ……それは、どういう、意味だ?」
驚きからか、声が裏返る。
「中尉、声が……」
「いや、大丈夫だ。話を続けて」
声色が戻る
「あ、はい。……私が飛ぶ目的は、戦闘中にいなくなった母の部隊を探すこと。この決意に揺らぎはありません。でも、先程の戦闘や、昼の飛行でパニックになること。中尉の後姿を見ただけで、言いようのない不安に襲われること、これでは母を探すどころか、戦闘にも参加できません。中尉の後ろに乗っている以上、足手まといにはなりたくありません」
クロエは話を続ける。
「それで、今日気が付いた事があります。中尉、私が格納庫で取り乱した時、私の名前を呼びませんでしたか?」
「呼んだ」
「呼ばれた時、取り乱していた時には聞こえなかった周りの音が何故かスッと、聞こえることが出来たのです。……思えば父を失ってから、私のことを名前で呼ぶ人はいませんでした。私が求めているのは、精神の平衡とか難しいものじゃなくて、気兼ねなく名前を呼んでくれる人……心の拠り所なのかなって……」
「心の拠り所ねぇ……」
心の拠り所という言葉が、アルベルの心に引っかかる。
「君は私がなんて呼ばれているか知っていてそれを言っているのか?」
「勿論です。でも、会った当初からあの呼び名を呼ばれるような人には見えませんでした。相方殺しと呼ばれるには……あなたは優しすぎます。あまりに他人に気を遣いすぎています」
優しい。気を遣う。クロエの一言一言がアルベルの心に刺さる。
自分はそのような評価をされる人間では無いのに。
「……分かった。君が、自分を乗り越えるために考えて導き出した一つの答えなら、相棒として、協力しよう」
本当にこれでよいのか、自分はそれをするのに適した人間か、思う所はいくつかあれど、彼女がそう望んだのだから、相棒として協力しよう。そう思ったアルベルだった。それと同時に、釘を刺しておくべきだろうと考えた。
「だが、これだけは覚えておいてくれ。私はあくまで君の相棒だ。確かに相棒は家族も同然だ。でも私は、君の心の拠り所である"君の父親”の代わりにはなれない。」
「それでも……そうだったとしても!」
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ハッと、アルベルが数週間前の記憶から戻ってきた。いつの間にか大統領の挨拶から艦長の挨拶に変わっていた。しかも既に終わり際だった。
「まだ終わってないのか……。あと、どれくらいあるんだ?」
「勲章授与と昇進発表、パレード飛行よ。……意外と不真面目なのね。ちょっと驚きだわ」
隣にいるニーナ中尉が小さな声で受け答えた。
「どいつもこいつも私の事を買い被り過ぎだ。……艦長の挨拶も終わったな。勲章も昇進も関係ないからパレード飛行見て終わりか。早く終われ」
こんな堅苦しい式は早く終わってくれと願うアルベル。そこに水を指すように……
「出港時の甲板での総敬礼忘れてる」
はぁ……、と溜息を付いた。この間も式典は続く。
しばらくして、ゴオォォ……という音が遠くから聞こえてくる。
「来た。パレード飛行隊」
大空を我が物顔で六つの翼が、飛行機雲を引きながら闊歩する。
オーストラリア海軍 第901試験戦闘飛行部隊 Sea Turtle隊 F-35CF スーパーライトニングⅡ
中国海軍 第3艦隊第285戦闘飛行隊 岐隊 J-29 殲撃-29
韓国海軍 第38飛行中隊 토끼(トゥッキィ―)隊 KFX-M1
日本海上自衛隊 第4護衛艦隊群第923戦闘試験飛行中隊 Swallow隊 XF-01M
ロシア海軍 極東方面太平洋艦隊所属特殊飛行中隊 комета(コメタ)隊 T-70
アメリカ合衆国海軍 第485試験飛行小隊 Egret隊 XF-38 Sea Snake
そして、それらを操るのは各国の飛行隊に散りばめられたタイ王国海軍第2飛行中隊の隊員
「式典終了後、直ちに出港する。飛行隊以外の乗員は持ち場に付け!」
出港命令が出て後ろに並んでいた水兵たちが慌ただしく動き始めた。
「今から呼ぶ者は前の壇上へ上がれ。第485試験飛行小隊 Egret隊隊長、アルベル・バーン中尉」
一度敬礼をして、簡素な壇へ上がる。
「極東方面太平洋艦隊所属特殊飛行中隊 комета(コメタ)隊隊長、ソフィア・スミルノフ中尉」
呼ばれて出てきたのは白髪の少女。背格好が小さく、幼さが残るその顔は女性士官にしてはあまりに幼い出立だった。アルベルは、この少女を先日の事件で自分を助けたパイロットだとはとても思えなかった。それほどまでに、機体や機動から受ける印象がかけ離れていた。
「……なにか?」
どうやら見つめてしまっていたようで、声をかけられた。小さい背格好、白髪、幼い顔、どこか哀しげで深い海のような青い目をした少女。スッと目をそらし、前を見る。
「いえ、なんでもありません」
「…………」
二人の間に沈黙が流れる。
「第901試験戦闘飛行部隊 Sea Turtle隊隊長、ニーナ・ウィルソン中尉」
次々と名前を呼ばれ、壇上に上がる。
「第4護衛艦隊群第923戦闘試験飛行中隊 Swallow隊隊長、マコト・ツヅキ一等海尉」
「第3艦隊第285戦闘飛行隊 岐隊隊長、ウォン・リンシン少佐」
中国の隊長が出てきた。こちらは、いかにもといった女性士官だった。長身、凛とした顔だち、そして威圧感。
ウォン少佐はニーナ中尉の横に並んだ。鍛え抜かれた肉体を持つニーナ中尉と、長身を持つウォン少佐が並ぶと威圧感が、アルベルを襲った。背筋がゾクゾクと震えた。
「第38飛行中隊 토끼(トゥッキィ―)隊隊長、ケ・トンシン中尉」
「タイ王国海軍第2飛行中隊指揮官、カーム大佐」
ニーナ中尉と似た威圧感を感じる。目をやると、……大男がそこにいた。坊主頭、浅黒い肌、鋭い眼光、屈強な肉体、筋肉によって肥大化した体。ザ・軍人がそこにいた。
「……何かね?」
ドスの利いた低い声。また見つめてしまっていたようだ。
「いえ……なんでもありません……」
縮こまり、再び前を見るアルベル。いつの間にか目の前には大統領とロックス艦長が立っていた。
「諸君らには、国と国の垣根を超えた協力関係を築いてもらうことになる。異なる人種、異なる文化、異なる機体、異なる国籍。皆の全てが障害になるかもしれない。しかし我々には、これ以上世界を壊されないように守るという使命がある。その使命を全うする為、世界を代表して君らにお願いしたい」
目の前の大統領は、力強く、声を震わせ、言う。
「私は、諸君らのように前線に出ることは出来ない。だが、諸君らが任務を全うできるよう全力で指揮をしよう。困った事があったら気軽に相談してくれ。なんでもサポートしよう」
ロックス艦長が大統領に続いて言う。それに答えるようにアルベル達7人は敬礼をする。それを見て大統領とロックス艦長がフフッと笑みをこぼす。
「では、以上を持って式典を終了する。ロックス中将、出港の号令を」
「はっ」
ロックス艦長がマイクを持ち大統領は後ろに下がった。
「全乗員に告ぐ!これより本艦は、ハワイを出て、世界を回る壮大な旅に出る。そして本艦に託された使命は、世界を守ること。世界の謎を解く事。世界を守る新たな翼を育てること。本艦に託された任務はあまりにも大きい……しかし、本艦に乗った諸君らなら出来る。出来ると信じている!一緒に世界を守りに行こう!航空母艦コンステレーション、出港準備!」
先程よりもバタバタし始める。
「では、私はここで船から降りるよ」
大統領が地上と船の受け渡しをする出入り口に向かって、SPを連れて歩きだす。その場にいた全員が敬礼をして見送った。
[艦長、出港準備整いました]
艦橋から無線が届く。壇上から降ろされ、物凄いスピードで壇が片づけられた。
「了解。大統領も降りられたな。良し」
一息ついてロックス艦長が叫ぶ。
「第11国連空母艦隊所属、空母コンステレーション出港!」
地上と繋がれていたロープが投げ離され、ラッパが鳴り、汽笛がボォオオオオオーーと鳴り、ゆっくりと港から離れていく。アルベルら飛行隊の隊員は、海に出るまで敬礼をし、ハワイに別れを告げた。
かくして、人々の期待と乗員の不安と闘志と……様々な思惑を乗せて港を出たのだった。
気が付いたら二か月が経過してました…(白目)。いやぁ……時が経つのは早いですね。
今回は解説と言える程の無いんですけどね。一応新キャラが出ているので解説を。
まずは登場人物から。今回からの登場は、中国海軍ウォン少佐とタイ王国海軍カーム大佐ですね。この二人は名前に少々特殊な事情がありまして。
まずウォン少佐。ウォンは漢字で書くと、王となります。ワンじゃないの?と思った人もいるかと思います。ウォンという読み方は中国の南方の広東での呼び方だそうです。このウォン少佐は、設定上広東方面の出身にする必要があったので、同じ”王”でも「ワン」ではなく、「ウォン」になっています。階級については、中国軍で女性士官だし階級高そう、という偏見により決定しています。女性士官は結構大々的に宣伝するし多少はね?
次にカーム大佐。名前の由来は洋画に詳しい人ならもしかしたら分かるかもしれませんが、タイの映画、「トム・ヤム・クン!」に登場し、トニー・ジャーが演じる主人公カームです。見た目は全く違いますけど。彼の立ち位置はパイロットではなく、各部隊に派遣されているタイ軍の兵士の統括にあります。どちらかといえば指揮官寄りです。なので階級も大佐と飛行隊最高位に設定されています。
さて、今回出てきた新機体は三機。外見は作者の私でさえまだふわふわしているのでお察しください。その内小説内で説明が出ます。ナンバリングについてはある程度は考えられています。
中国海軍のJ-29。現在海軍で使われているナンバーはJ-15。そのままJを使うであることを予想し、現在無いナンバーで29。Jなので愛称もそのまま殲撃に。
韓国海軍のKFX-M1。KはKoreaのK。FXは次期主力戦闘機。MはMarine。そしてその開発一機目の1。
海上自衛隊のXF-01M。XFは次期主力戦闘機。MはMarine。1ではなく01としたのは、正式採用されたときにXが取れてFだけになった時に、航空自衛隊F-1支援戦闘機と形式が被らないようにしたためです。
解説は以上になります。また解説が必要になればあとがきに書きます。頑張ります。
実は今回で話を一区切りにして、次回から新たな章が始まります。この章を「ハワイ事変編」と名付け、次回から「オセアニア邂逅編」を始めます。よろしくお願いします。
Twitterもやってます、アカウントはハインド@なろう作家挑戦中です。進捗や、なんてことはないつぶやきが載っています。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。
次回新章第17話です。お楽しみに!




