第15話 ENGAGE(エンゲージ)
[Mayday!Mayday!Mayday!誰でもいい!助け……]ガサッ
驚くような光景が目に飛び込んでくる。
「18機……18機いたF-15が全滅……今まで多くの戦闘を見てきましたが、あれだけの機影が瞬く間に消えていくのは初めて見ました……」
後部座席でクロエが嘆きにも似た声を上げる。アルベル達が基地を飛び立った時点でアメリカ空軍のF-15戦闘機が18機先行していた。その先行していたF-15は、アルベル達が着く前に18き全てが撃墜されていたのだ。しかも所属不明機は3機健在のまま。
「なんという性能しているんだ……ミサイル2発で何とかできるのか……?」
瞬く間に火の玉となった先行部隊を見てアルベルは不安に駆られる。
「准尉、まず距離を取るぞ。レーダーから目を離すな」
「了解」
アルベルは、戦闘空域を迂回するように機体を進めていく。戦闘空域で正体不明の敵機が周囲を警戒するように旋回を繰り返す姿が小さく見えた。
「まるでエイのような形をしているな……」
「確かにエイのようですね。ステルス性を良くするためでしょうか……。レーダーにしっかり写ってますけど」
ずんぐりと角がなく、台形の主翼、機体の中央の線に沿って伸びるしっぽのような何か、黒い機体色。敵機の姿は二人が口にしたように、確かにエイのような形をしていた。
「敵機方向転換!向かってきます!」
敵機がアルベル達に気付き、旋回を止め向かってきた。クロエが後部座席から叫び、アルベルがすぐさま戦闘空域へ舵を取る。
「敵機群の先頭をエネミー1と呼称し、ヘッドオンする。FCS active。レーダー連動、シーカーオープン、Egret1 engage!」
アルベルが会敵、戦闘開始を宣言。未知との戦いが始まった。
[LOOK]
「エネミー1をレーダーロック。いつでも撃てます」
機械から発せられた女の声と、後部座席のクロエの声で敵機をロックオンしたことがアルベルに伝わる。目の前のHUDに敵機に重ねられた目印コンテナと距離が表示される。同時にスロットルレバーを押し倒し最大出力。そしてアフターバーナーを起動。音すら追い付かない世界へ辿り着く。
「ぐっ…………むふぅっ…………」
シートに強く押さえ付けられ肺から空気を絞り出される。苦しい呼吸の中でも、クロエはレーダーから目を離さなかった。レーダーの画面には、自機がレーダーロックを受けていること、最接近まで数秒しかないことが映し出されていた。
「flame!撃ってください!衝突します!」
クロエが叫ぶ。正面に見える、小さく黒い影が徐々に大きくなっていく。
「まだだ!」
アルベルが呼応する。その瞬間真正面から緑色の光がチカチカと発光する。
「今だ!FOX2!」
操縦桿についた発射ボタンを押す。すると主翼端についていたミサイルが勢いよく離れ、直進する。ミサイルが離れたのを見て、アルベルは素早く操縦桿を左手前を倒し、バレルロール。敵機の進路からずれる。
敵もミサイルを察知して回避行動をした。しかし遅かった。回避するには、時間が無さすぎ、何よりスピードが速すぎた。
ミサイルが吸い込まれるように敵機に衝突、爆発四散した。
「撃墜!撃墜!エネミー1撃墜!」
通信機に向かってアルベルが叫んだ。しかし喜びも束の間、残りの二機がアルベルの後ろに付く。
「flame!check6!(後方警戒の意)」
一瞬だけ後方を確認する。残りに二機の敵機が殺気を漲らせて機体に向かって来るのが見えた。操縦桿を倒し90°旋回、今度は逆側に倒し180°旋回して切り返し。繰り返して相手を引き離そうとする。シザース機動。
「ふぅっ……!ふぅっ……!ふっ……!」
「……ほぉーっ!……ほぉーっ!……ほぉーっ!……ほぉーっ!」
度重なる急旋回で二人の体には何Gという力が掛かり、身体は悲鳴を上げ、血が行き渡るようスーツがGに合わせて下半身を圧縮するが、容赦なく頭から血液が離れて意識が鈍くなっていく。少しづつ鈍くなっていき意識をなんとか保ちながら、後方を見る。二機はピッタリと付いてきている。
「振りきれないっ……!……よく見れば奴ら複翼機じゃないか!…………ならこれならどうだ!」
自分より旋回性能の高い複翼機だと分かるとすぐにシザースを止め、機体を水平に戻し、戻った瞬間を狙って減速とピッチアップを行う。けたたましく警告音が鳴り、操縦桿が震える。
「ォぅわっ!」
後部座席から人間のものとは思えないような声が聞こえた。視界が真上を向き、その勢いのまま天地が逆転し、進行方向とは逆の方向を向く。その横を、後ろに付いていた一機がロールしながら機体を避けていく。回転の勢いは変わらず、今度は海が見え、元の姿勢に戻って行く。機体のふらつきを必死に抑えながら、再びフルスロットル、再加速。すると目の前に敵機がいる。
クルビット。
高度を変えず、機体を縦回転させ急減速することで後ろに付く敵を前に押し出す技である。
[LOOK]
「レーダーロック!撃てます!」
「FOX2!」
ミサイルが機体から放たれ、スーッと目の前の敵機に向かっていく。が、敵機に到達する前に、撃ち落されてしまう。
「後部機銃!?面倒な物を……」
操縦桿についている使用兵装を切り替えるレバーを親指ではじく。HUDに機銃の照準マーカーが現れる。
敵が旋回する。攻守逆転、アルベルが追随する。
「…………ふぅっ……!……ふっ!」
敵機が旋回した瞬間を狙い澄ませて、機銃を撃つ。機首に埋め込まれた25㎜ガトリング砲2門が、ヴゥボォォといういう音を立て火を噴く。
打ち出された徹甲弾が敵機のボディを抉っていく。抉られた敵機は発火し、まもなく夜空の花となった。この間約2秒。
「エネミー2撃墜!」
残りはあと1機。しかし、アルベルとクロエが乗るXEF/A-38にはもう弾薬は残っていない。残っているのは重りになる長距離索敵用多目的レーダーの試験機と重曹のみだ。
[Warning、Warning。Warning、Warning]
ロックオンされたと知らせる電子音声と警告音が鳴る。
「ロックオンされています!チャフとフレア撒きます、回避を!」
クロエの声を聞き、右へ旋回。機体の後部から火の球がポンポンポンと撒かれる。
[Chaff Flare]
電子音声が機内にこだまする。
残りの兵装が一切無い。対空兵装であるミサイルも、機銃も、今の戦闘で使い切ってしまった。しかし敵はまだ一機存在している。アルベルがさて、どうするか、と考え始めたところだった。
[三つ数えたら左に散開して]
通信機から声が聞こえた。
[3、2、1、散開]
丸くずんぐりとした機首、前進翼、大きいエンジンとそれを包み込む胴体、小さい三角形の水平尾翼、黒い色、そして垂直尾翼に小さく描かれた赤い星。その機体は突然上から降って来た。
ローリングしながら、急降下しながら、恐ろしい速度で、真横を、まるで空に輝く流れ星のように。
アルベルは、反射的に操縦桿を左に倒した。グルグルと回りながら、高度を落とす。
「んっ……」
急なローリングにクロエが息を飲む。
回っている最中、アルベルにはバックミラーに爆発が見えた。同時にレーダーに映っていた反応が消えたのをクロエが見た。機体を立て直し、アルベルは後方、クロエはレーダーを確認した。
「敵機、エネミー3、視認できず」
「レーダー上、エネミー3確認できません。」
少しの間、二人は黙り込んだ。すると司令部からの通信が入った。
[こちら司令本部。敵機反応、完全に沈黙。作戦成功だ!]
通信機越しに歓喜の声が上がる。二人は同時に安堵のため息をつく。そこに先程の機体が真横に並ぶ。しかし並んだのは主翼が台形の機体。他の特徴は一致するが、主翼だけ違い、アルベルは先程助けてもらった機体と同一機体なのか疑問に思った
「こいつはなんだ。 Sea Turtle隊じゃないな。さっきの機体なのか?分かるかlittle shark?」
「IFFには反応がありますので味方であることは確かですが、見たこと無い機体です。通信送ってみます。……平行する機体に問う、貴機はどこの所属か?」
[つまらないこと聞くのね]
通信が届く。先程は突然のことで全く分からなかったが、幼さの残る女の声だった。
[失礼なこと言うな。すまない、相棒が失礼をした。当機はロシア海軍所属комета(コメタ…ロシア語で彗星の意)隊の一番機だ。間にあってよかった]
今度は少し低い男の声がした。その男の話を聞いて曰く、どうやら北の空域で試験をしていたロシア機だった。
「そうだったか、こちらこそ先に名乗らず失礼した。こちらはアメリカ海軍所属 Egret隊一番機、Egret1だ。重ねて礼を言う、ありがとう」
今度はアルベルが通信を送る。
[何、礼には及ばないさ。さて、こちらは燃料が心許ない。悪いが先に帰投させてもらうがよろしいか?]
「了解した。事後処理はこちらでする。任せてくれ」
[ありがとう。では帰投させてもらう。行くぞソフィー]
[понимание。Хороший байк、Убийство партнера]
男の声に反応するように女の声がした。アルベルには何と言われたか分からなかった。
台形だった主翼の前半分が外側に開いていく。開き終わると時計回りにローリングしながら高度を落として、基地に向かっていった。
「なるほど、可変翼だったのか。……最後なんて言ったんだろうか……。なぁ准尉?」
アルベルがクロエに声をかける。が、返事がない。
「准尉?どうした准尉?」
返事がないため、大きな声でもう一度呼びかける。
「は……はは…………だ、大丈夫です……。全てが終わったら、なんか、身震い……が……止まらな…………」
クロエが身震いが止まらぬ自分の体を、自分で抱きしめる。
「大丈夫か准尉?カーター准尉?准尉!」
クロエの身震いは止まらない。次第にフライトスーツに付いた装備に当たり、ガチャガチャと音立て始める。
「准尉!しっかりしろ!カーター准尉!」
アルベルの呼び声にも反応出来ない程、クロエの震えが大きくなる。アルベルが必死に呼びかける。
「クロエ!」
名前を呼ばれた瞬間、クロエの体がビクリと反応する。そして身震いがピタリと止まった。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
戦闘時よりも息が上がるクロエ。
「ゆっくり息を整えて。……さて、事後処理を……」
「中尉!」
突然クロエが大きな声を上げてアルベルを呼んだ。
「お話が……あります…………」
やっと内容の濃い話を書けました(当社比)。今回は、前回の空戦より、コックピット内に流れる警告音や電子音声に力を入れてみました。結構良かったのではないかと、個人的には思います。
さて今回も解説を。
今回は初めてロシア機が出てきました。機体の説明などは次回の話に持ち込むので、隊名の話をします。
今回のロシア機の隊名は、彗星をロシア語にしたものです。由来としては、かつて京都~南宮崎間を走っていた、寝台特急「彗星」からです。あとロシアといえば2013年に隕石の落下がありましたね。この隕石落下を彗星に見立てて隊名に使うという、私がACECOMBATの二次創作をやっていた時代からのお決まりをそのまま流用しました。まあ、実際は隕石はそのままメテオ名で当時はやってましたが……。
あとは効果音についてです
効果音については、アメリカ軍がYouTubeなどに出している動画や、アメリカ軍か協力している(と思われる)ゲームを参考にしました。これはこんなものですかね。
取りあえずの解説はこれぐらいですね。また解説が必要になればあとがきに書きます。
Twitterもやってます、アカウントはハインド@なろう作家挑戦中です。進捗や、なんてことはないつぶやきが載っています。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。
次回第16話です。お楽しみに!




